1話② 今日も私はモチを焼く おまけ
「悪かったって。機嫌直せよお嬢様」
先程の、指はむポテト事件から10分少々経ちましたが、勘違いして何か食べ物を買いに行ってしまった渚帆さんはまだ戻ってきていません。
「そ、その呼び方はやめてくださいといつも言っているでしょう。別に餅屋の一人娘なだけで、お嬢様とかではありませんし」
「えー。今日とかも家帰った時に、従業員のおばちゃんにお帰りなさいませ、お嬢様。とか言われんじゃないの〜?」
「言われません」
まったく! 椛さんは出会った今年4月から私を弄ってからかってきている気がします! 私を弄っている時の表情は心から楽しそうですし。
たまには私も何か反撃したいですね……
「やっぱり、少し小腹が空いたので、おやきを買ってきますね」
「私クリームなー」
「こし餡かつぶ餡かの2択で考えてください。本来クリームなんて邪道です」
「なぎはクリーム派だろ」
「渚帆さんは多様性という時代にも合わせておられるわけです」
「あたしも合わせておられるんだが」
自分が好きな味を食べるのが一番良いんですけどね。
さて。すぐ近くのSAZAEに買いに行きましょうか。
それにしても、渚帆さんちょっと遅いですね……
「どうぞ。買ってきましたよ。クリーム2つとつぶ餡1つ」
「サンキュー。ほら、あたしの分と、後なぎの分のお金」
「別にこれぐらい出しますが……ありがとうございます」
「じゃあ、いただきー」
もにっと小さな口を大きく開いて、おやきに食いつく椛さん。
さて、
「ん? これつぶ餡じゃねーか。クリームがいいんだけど」
「あら。私のがクリームですね。間違ってクリーム1つと粒あんを2つ
買ってきてしまったかもしれません」
ここだ!! 喰らえ私の攻撃を!!!
「私の食べかけですが、いりますか?」
私は、
どうだ! 恥ずかしいでしょう!! 椛さん! 愉快に狼狽えてしまいなさ——
「お。いいのか?」 がぶっ
「ほ?」
そ、そんな。私の攻撃(あーん)が全く効いていない?
「ほら。お返しだ。餡子の方が好きだろ? あーん」
「へ?」 もむっ
辱めるどころか、反撃を喰らってしまいました。徐々に顔が赤くなっていくのを頬で感じます。美味しいし、悔しいし、恥ずかしいです……。
さらっとこんなことしてくるなんて、ずるいです。
「な、なんだよ。そんなに顔赤くされたら、こっちまで恥ずかしくなるわ/// このくらい、なぎといっつもやってんだろ///」
「そうかもしれませんが、椛さんとだとどうも///」
「「……」」
なんでしょうこの空気は。しばし私達の間に沈黙が生まれます。
というか女子2人で公共の場で食べさせ合いっこなんて他の人に見られたら……まして渚帆さんに見られでもしたらあらぬ誤解が。
「えっと……」
「「!?!?」」
ガバッッと、声のした方に思い切り振り向く私達2人。
「渚帆さん!? 居たんですか!?」
「なぎ!? いつからそこに!?」
そこには、マクドナル道、略してマックの袋を両手にぶら下げた渚帆さんが立っていました。
「ふ、ふたりってなぎが居ない時はそんなかんじなんだね……しらなかったよ///」
「いつから見てたんですか!?!? いつから!?」
「そんな感じってなんだよ! どんな感じでもねぇよ!!」
頬をわずかに染めて、気まずそうに目を泳がせ、少し涙目になっている渚帆さん。わずかに1歩後退ると。
「ごめん!! 向こうのマックでポテトたくさん買ってきたけど、お腹もういっぱいだよね!! なぎ1人でたべてくるね! お幸せに!」
「待って! 話を聞いて下さい!!! 誤解ですって!!!!!」
ダダダダダッと陸上部顔負けのスピードで、踵を返して走り去ってしまう渚帆さん。
「「どうしてこんなことに」」
おもち
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