第25話 休日明けの学校
「え? それガチなん? 話盛ってるやつでもなくて?」
「ああ。一ミリたりとも盛ってない」
「ガチの目撃? デマだったらさすがにアレだぜ?」
「いや、これがガチの目撃なんだよ」
「実はそっくりさんじゃないの?」
「いやいや、これはマジ。帽子で顔は隠れてたけど、バチくそ美人な子と車デートしてた。空先生が」
週末が明け、月曜日の高校。
3年A組の教室にはとある箇所に十数の人だかりができていた。
ガヤガヤとしたこの場で話されるのは——担任の空と、その隣に座っていた美女についてである。
「……うーん。その話が本当だったとしても、デートって断言するのは早くない? 知人を送迎してたとか、その可能性もあるでしょ?」
「ま、まあそれはそうだけど、なにもない関係なら頬ツンツンとかされなくね? 赤信号で止まってる時に。あっ、一応言っておくと、バチくそ美人な子から先生にしてた感じ」
「なるほど。それはデート説濃厚かも」
「……ね、その時の空先生の反応……教えて」
「うおっ! ビビった」
「ごめん。驚かせるつもりはなかった。それで、反応のこと教えて」
この時、友達と友達の間からにゅるっと顔を出したジト目の紗枝である。
「そうだなぁ。反応はちょっと嬉しそうな気がしないでもなかったかな。『危ないでしょ?』みたいな注意をしてたような感じもあったけど」
「そっか……」
「まあ実際、嬉しくないわけがないよな」
「モデルさんみたいな子から頬ツンだろ?」
「彼女じゃなくても嬉しいよな」
「嬉しくなかったら男じゃないよな」
『『『うん』』』
思春期の時期なのだ。
ここに集まる男子は全員がタイミングを合わせるように頷いた。
その連携力の男達を、冷たい目で見る女子達である。
「ちなみに、そのどちゃくそ美人な女の子は誰に似てる感じなんだ? この学校の生徒で例えるとさ」
「うーん。正直、この学校にはいないタイプだから、なかなか例えられないんだよなぁ……」
「
なんて強引な流れになるのは、学生らしいだろう。
「そ、そうだなぁ……。えっと……まずは紗枝ちゃんの身長をもっと伸ばすだろ?」
「お、おう? 紗枝ちゃんの身長を伸ばして……?」
「次にギャルっぽいようなチャラさを加えるだろ?」
「紗枝さんをギャルっぽく……?」
「そして、ウェーイ系の陽キャにする的な」
「ウェーイ系の陽キャに……?」
この時、人だかりになっていたクラスメイトが全員、紗枝を向く。
突然に浴びる注目。
『あまり見ないで』とこちらを見てくる相手にジト目で訴えるも、彼女のデフォルトがこれのせいで。周りには伝わらない。
見つめられたまま会話が進む。
「や、やべえ。全然想像できねえ」
「お、俺もだ……」
「例えが下手くそなんだよ」
「無理やり例えろって言ったのお前だろ!?」
紗枝はこの高校一、落ち着き払っていると言っていい。さらには表情だってあまり変わらない。
そんな性格の彼女をウェーイ系の陽キャに変換するのは、無理な話だろう。
「……みんなが想像できないなら、ウェーイ系してもいいよ。わたし」
「さ、紗枝っち!? それだけは大丈夫だって!」
「そ、そうだそうだ! 紗枝さんはそのままが一番!」
「……そう?」
「そう!」
これに大いに反論するのは女子であり、男子が煽ることはない。
紗枝は確立しているのだ。この3年A組のマスコット的な立ち位置を。
「なんかこの話は
「よし! GO!」
「……あ〜」
脇に手を入れられ、ほいっと持ち上げられる紗枝は、そのまま女子グループに連行される。
ある時には『高い高い』をされ、ある時はぬいぐるみのように抱きしめられ、ある時は子犬のように頭を撫でられる彼女。
ノリを理解している紗枝だったが、素が一番の強硬派グループにより、ウェーイ系への進化には至らなかった。
そうして、ここに残るのは男子である。
「あ、相変わらず親衛隊はすげえな……」
「てかさ、紗枝ちゃんのあの性格でノリがいいの、マジで反則だよな……」
「いや、めちゃくちゃ可愛いのが反則じゃね?」
「そう言えば先週、2年の遠藤が紗枝さんに告ったらしいぜ?」
「あ、あのバスケ部のイケメンか!? 全国選抜の」
「ああ。だけどアイツでもダメだったらしい。この学校に好きな人がいるんだと」
「は!?」
「ッ!?」
「マジで!?」
この言葉を聞いた途端、電撃が走ったように男子全員が目を見開く。
それも当然。ここにいるメンバーはとあるワードを初めて聞いたのだから。
「い、今までは確か……『好きな人がいるから』だったよね? 紗枝ちゃんが告白を断る時の言葉って」
「『学校に』って言葉が追加されたってことは、好きな人が変わったってことか!?」
「一体誰なんだろ……」
「遠藤が振られるレベルで好きって、ソイツどんな男やねん……」
「とりあえず、好きな人が誰かわかったら一発殴らせてもらうか」
「それがいいな」
「羨ましいしな……」
そんな殺伐とした空気が教室に充満する中……『おはようございまーす』と、いつも通りに入ってくるのは担任の空である。
「あれ、今日はなんだか騒がしいね? 誰かいいことでもあったのかな?」
「いいことがあったのは先生でしょ! 土曜日、美女と車デートしてたって情報出てますもん!」
「えっ!?」
クラスメイトの追及で一段と騒がしくなる教室。
この時、刺すような視線を紗枝から向けられていた空だった。
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