第7話 正しき未来を
「なんだ?! システム班! これはどう言うことだ!?」
「メインシステムは問題ありません!」
「音声システムに外部からの割り込みが入っています!」
空母艦隊は唐突に艦内に強制的に流れ出した、歌声に甚大なハッキングを受けていると察していた。
「音声システムだけとは言え……最新システムの艦にハッキングを通すなど――」
その時、システムを正常に戻そうと奮闘しているオペレーターのモニターにカボチャと文字が表示された。
“トリック・オア・トリート”
「か、艦長。これを……」
「――ハロウィンズ」
『ハロウィンズ』。それは、国際ハッカー集団の事である。彼らのやることは大小含めて全世界で大きな爪痕を残し、自分達がやった、という証拠を誇示しつつもその影さえも掴めない。
しかし、彼らのやることは基本的にはエンターテイメント寄りな事が多く、死者が出る様な事には決して加担しない事でも知られる。むしろ、それが一定のエンタメ好きには支持されてたりもするのだが、的にされた所からすれば迷惑極まりない。
簡単に国の機密システムに侵入できる能力は危険と判断され、現在も世界各国の諜報機関が全貌を追っていた。
『ハッピーハロウィン! 今回は平和な歌をお届け♪』
空母艦隊だけではない。この辺りの地域全ての音声、放送回線は一方的にジャックされ、そこから歌が戦場へ流れる。
それは、世界の歌姫として注目されている、舞鶴琴音の歌声だった。
自惚れでも、自己満足でもない。
“戦い”を、“戦ってる兵士さん達”を見れば誰だって思うハズだ。
何か出来ないか。
そう思えるから、ボクは彼らに歌声を届けた。
この声を……ボクの歌を聴いている時だけは……辛いことを、悲しい事を、戦う事を、忘れてくれます様にって。
届け――
編隊を組んだフラグバレットのオンライン無線にも琴音の歌は届いていた。
それは何度聴いても聞き入ってしまう程に魅力的な歌声である。
届け――
『隊長……』
『ハロウィンズか……』
届け――
『マザーシップ――』
シャープは空母に連絡を入れると操縦桿を意識する。
届け――
『これより――』
届け――
『回線をオフラインにし攻撃を開始する。以後の通信は無線のみで行う。次の連絡は“プランデルタ”完遂後だ』
それだけを告げて、シャープは無線を内線のみに切り替えた。
爆発。
鋼鉄の鳥より放たれたミサイルは、先に対空砲、波止場、陸戦戦線を破壊。
『砂塵のウォーロック』を含む、革命軍の地上部隊は壊滅となった。
上空を通り抜ける戦闘機は隊列を組んだまま、二度目の旋回にて『革命家オルセン』を捉える。
「正しき未来を」
彼らの選択に間違いがない事を願い、オルセンは破壊に呑み込まれた。
『プランデルタを完遂。これより帰投する』
シャープよりその様な報告を受け取った空母艦隊では、ハロウィンズのハッキングに四苦八苦していたものの、流石はシャープ大佐だと上層部は溜飲を下げた。
「……っく」
将平は額を押さえながら目を覚ました。
揺れる地面と太陽の光。そして、爆音が決定打となり、彼の意識を覚醒させたのである。
「……ここは……船の上か」
海上に漂う一隻の漁船。岩影に隠れる様に港町から少し離れた所に停泊してる様だった。
「……」
そして、同じように傍らで眠っているのは子供達だ。将平と同じ条件で目覚めない様子から、薬を嗅がされているのだろう。
将平は起き上がると、甲板に佇むアキラを見つけた。
「私……だったのです」
破壊された港町を見ながらアキラが告げる。
「リーダーを撃ったのは……私なのです」
「…………」
「きっかけは……舞鶴琴音の歌でした」
多くを失っても国を変えようとする意思。それに賛同した同士たちはオルセンと共に戦う事を選んだ。
十年近く、その意思は揺らぐ事がなかった。しかしある時、ラジオから流れてきた歌が全てを変えてしまった。
「皆が、戦いを終わりにしよう、と……日常へ戻ろうと口にし始めたのです」
アキラはオルセンに拾われた孤児だった。
日常など知らず、戦う事が当然のアキラにとって、皆が……オルセンがそう言った時、無意識に引き金を引いていた。
「裏切ったと……裏切られたと思ったのです。しかし……私の行動は……皆にこれまでの罪を清算させる意思を覚えさせてしまった」
革命とは言え、自分達が多くの人を殺し、不幸にしたのも事実だ。それから全部目を背けて日常に戻るなど許されない。
オルセンが娘同然のアキラに撃たれた事で、同士の誰もがこれまでやってきた所業を思い出したのだ。
「ごめんなさい……ごめん皆……ごめん……お父さん……」
「……」
泣き崩れるアキラへ、将平はかける言葉がない。彼女の罪は彼女しか贖罪は出来ないと――
「――まずいか」
将平は戦闘機の音に空を見上げる。
彼らは反政府ゲリラを討つと言う目的は達したハズ。しかし、未だに上空を旋回していると言う事は――
「それじゃ、今日はありがとうねー。また、適当にゲリラ放送やるから、ローカル回線も要チェック! 次は貴方の街へ行くかもね! 後、CDもよろしくー」
そう締めくくった琴音は放送室から出るとスタッフ達からサインをねだられた。
急に押し寄せた手前、サービスとしてそれには対応する。
さて、表のパパラッチ勢からどうやって逃げようか……
「琴音ちゃん。スタッフの方が外へ出る作業車に乗せてくれるそうよん。荷台に隠れれば無事に出れそうねん」
「おお、流石レニーさん」
「あたしは、別口から出るわん。ここで合流よ」
琴音は合流場所のモールの位置をレニーより受け取る。
「それじゃ、後でねん。予定は詰まってるわよん。明日はイギリスねん」
「げ、それは聞きたくなかったぁ」
こちらです、と誘導してくれるスタッフの後に琴音は続く。するとスマホにメッセージ。ハロウィンズからだ。
“プランデルタは止められなかった。例の日本人の安否は不明”
「……大丈夫……大丈夫……不明ってことは生きてるよね? 大鷲さん」
『隊長。港町より、離れた岩影にて『サイバークイーン』を確認』
『一人だけ港町を離れていた? 地上部隊へは?』
『爆発の余波で通信が不明瞭だ。『サイバークイーン』は逃がすと特に厄介ですが……どうします? 隊長。武装と燃料にはまだ余裕があります』
『…………』
シャープは操縦桿を握りつつ、部下二人へ告げる。
『プランデルタは完遂した。我々はこれより帰投する』
『『了解』』
シャープ自身も『サイバークイーン』の姿は目視で確認した。そして、その船に乗る将平と眠っている子供達も。
『隊長。そう言えば、
『予約も即完売で俺は買えなかった』
『私は二枚予約した』
シャープはそう言うと、空気を切る様に戦闘機は空母へと帰艦する――
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