第5話 プランデルタ

 銃声が響き、鉄の遮蔽物から火花が散る。


『敵の層が厚い! 突破は困難!』

『状況を維持せよ。奴らを囲いから出さなければいい』


 港町が反政府ゲリラの拠点である事は解っていた。しかし、そこへ攻撃を仕掛けなかったのは、ゲリラ事態に打撃を与えるにはリスクが大きすぎたからである。


 リーダーのオルセン・ターギュは常に戦線を移動している。それも国内外に神出鬼没であり、国側は彼の居場所を捉えられなかったのだ。


『アルファ。情報はまだか? オルセン・ターギュの所在を確認せよ』


 港町は要塞であり、基地からも最も離れている。加えて一つしかない道路からしか大部隊は展開出来ない。

 解っていても攻められない拠点。戦力だけではなく、オルセンの采配が不落の要塞として機能させている。


『こちら、アルファ。森を抜けた。現在――』


 大通りに意識を集中させている間に森の罠を抜けた特殊部隊は、建物の中にいるオルセンの姿を双眼鏡で捉える。


『! ターゲットを確認! 繰り返す――』


 その瞬間、双眼鏡事、隊員は顔の一部を吹き飛ばされた。

 即座に絶命し、ドチャッ、と浮き飛ぶように仰向けに倒れる。他の隊員は身を低く伏せた。


「『砂塵のウォーロック』に『オルフェスの鷹』も居るぞ! 司令部! 反政府ゲリラは、ほぼ全ての戦力を――」






「リーダー。姿がバレました」

「仕方ない」


 ライフルのクイックショットでこちらを覗いていた敵の脳天を撃ち抜いたのはオルセンの右腕であるスナイパー、オルフェス。彼は敵の姿が隠れたのを確認すると、くるっとライフルを回す。


「狙撃班、森をスコープに入れろ。見えたヤツから脳をぶち抜け」


 部下に命令を出すと、車椅子に座るリーダーを見る。


「どうします?」

「ハッキリさせよう。ただし、死ぬわけにはいかないな」

「無茶な命令ですね」

「ハハハ。しかし、やり遂げねばならぬのでな」

『今、側面をついた! 国軍の奴らのラインを一つ下げやしたぜ!』

「ウォーロックの部隊もノリノリですよ」


 戦線を押し返したとの報告を、自分と同格の部隊からオルフェスは無線で受けとる。


『うぉ!? 奴ら戦車にヘリまで用意してやがる! コイツぁ、『ジャベリン』の使いどころだぁ!』


 爆発と銃声に無線はノイズが酷くなり、一時切れる。


「だ、そうですが?」

「屋上へ行こう」

「アキラにハッキングさせた方が早いですよ」


 組織のシステムデザイナーでもあるアキラは電子関係を指揮する後方部隊のトップだ。


「彼女は別の任務を与えている。今回は無しだと思ってくれたまえ」

「……わかりました。おい、俺の『テンペスト』を持ってこい」


 オルフェスは珍しく笑うと、自身の専用装備を屋上へ運ぶように指示を出した。


「ここが我々の落としどころだ。皆、その時が来るまで奮闘してくれ」


 無線を通してメンバー全員に届くオルセンからの言葉は何よりも奮い立つ力となる。






 報告。

 港町にオルセン・ターギュの他に幹部『砂塵のウォーロック』『オルフェスの鷹』を確認。しかし『サイバークイーン』の所在は不明。


「その三者だけでも排除する事で反政府ゲリラは終わりであるな」

「ああ。にしても、オルセンとの闘争もようやくケリとなるか」

「15年……我々へ訴え続けたにしては驚く程あっさりであるが……何かしら裏があるのでは?」

「港町一帯の外部通信は完全に隔離している。せいぜい無線を飛ばす程度」

「『サイバークイーン』はまだ確認出来ていないらしいが」

「あの女はオルセンの娘に等しい存在だ。確認出来ずとも側にいると見て良いだろう」

「それでは……プランデルタを最終段階へと移行する。両名はそれでよろしいか?」


 陸軍司令のマクレガーの質問に、空軍、海軍の司令官は共に頷いた。






「艦長! 総統府から入電です!」


 空母艦隊を率いる艦長は総統府からの決定を確認すると指示を出す。


「シャープ大佐に出撃指令。部隊を率い、プランデルタを完遂せよ」


 甲板に配置された一機の最新戦闘機に一人のパイロットが乗る。

 初動のエンジン音が機体を温める中、ベルトを締めるとヘルメットを被る。


『シャープ大佐』


 計器を確認するシャープに艦長の通信が入る。


『君の部隊が作戦のトリだ。敵の要塞は不落だが、一瞬だけ穴が生まれる。そこへ針を通すことが出来るのは君の部隊だけだ』

「わかっています」


 計器と翼の動きが問題ない事のチェックが終わり、機体の外側の装備をチェックし終えた整備士が、問題ない、と機体を軽く叩いてシャープに知らせる。


『反政府ゲリラのリーダーオルセンは生きているだけで混乱が起こる。確実に任務を完遂せよ』

「了解」


 天窓を下ろしてロックをかけると射出滑走路へ機体を運転する。


『幸運を。大佐』

「フラグバレット。出撃する」


 射出機と自らのエンジン加速によって、戦闘機は悠々と大空へ飛び立つ。

 他の空母からも部下二機が彼の後を追従する様に同時に飛び出した。


 国軍が誇る屈指のエースパイロット、シャープ・ロイド大佐は冷徹なまでに任務をこなす事で知られる。

 そして、彼の小隊『フラグバレット』は、過去と未来に置いて、一度たりとも任務を失敗したことはなかった。






「ウォッチ! やべぞ! 出撃したって!」

「なにぃ!? 俺の見立てだとまだ時間がかるハズだ!」

「クソみてぇに当てにならねぇ見立てだな! あ、でも今、ハックは完了したぞ!」

「お! こっちもオーケーだ! ワールドライブもイケルぜ!」

「続報ー! なんと出撃したのは『フラグバレット』だ!」

「ほぁぁ!? 隊長は冷酷非道のシャープじゃん!」

「いや、非道は抜いとこうぜ。職業軍人なだけだろ」

「なんにせよヤベーよ! 出撃前に潰すのが俺らの仕事だろ? どーすんの?」

「ぬぬぅ! 俺らは届けるだけだ! 後はプリンセスに任せる!」

「丸投げだー!」

「ダセー!」

「やかましい! さっさと艦隊をハッキングしろい!」

「お前は何を?」

「俺はプリンセスの歌声を録音する」

「働け!」

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