覚醒伝説〜『覚醒』した幼馴染が率いる勇者パーティに会ったら皆白骨標本にしか見えないので問い詰めたらどうやら私の両目がイカれているらしい〜
四月一日真理@初投稿
全ての始まりは全部お前で突然
「俺!勇者になったんだよ!!!」
「は?」
どうやら幼馴染は頭でも打ったらしい。開口一番、道の真ん中で叫び始めたコイツは、私とは対象的に何時にも増して目がランランと輝いていた。
なーにを呆けたことを抜かしよるかテメェ、と呟けば生まれた時からの幼馴染であるカイは興奮した表情で叫ぶ。
「覚醒!!!したんだよ、俺!!」
いや、うっっせぇ!!!本当に何言ってるんだよコイツ。働きすぎでついにイカれたか。
「だから俺、魔王を退治しにいくわ」
「…あー、お土産よろしく」
どうせ徹夜かなんかしたことによるハイ状態の戯言だろう。数日置けばいつものカイに戻るはず。そう思い、軽口を叩きつつ「じゃっ、私仕事あるから」とカイと別れた。これからこの手荷物を親戚のおじさんの家に届け、その足で翌日の分のご飯の買い出しに行く予定なのだ。そして可能なら裏庭の菜園を手伝わなければならない。正直言って、これ以上カイの妄想に付き合う余裕はなかった。
そして数日後。
私はカイに会えなかった。風の噂では本当に旅に出たらしい。可愛い魔法使いの女の子に連れられて旅に出たと聞かされた私の心情を答えよ(配点:0点)。
そこからだ。そこから、本当に全てが始まった。
定期的にカイから送られてくる手紙には、便箋に長く綴られた近況という名の物語と都会で手に入れたパシャパシャ君という色付き写し絵が同封されていた。おそらく旅の内容が面白おかしく綴られたそれは、1個人に宛てられる手紙とするには余りにも勿体ない。このまま町の物語屋にもって行けば稼げる気もしたが、流石に良心がそれはないと訴えてきたので止めにする。
何よりやばいのはこの写し絵であった。同封された写し絵にはおそらく旅の途中に撮ったとされるものが多くある。手紙の内容と合わせるとたぶん、パーティメンバーと一緒に写ったものも多くあるのだろう。…それが問題だった。集合写真を撮ったんだ!と書かれた手紙に同封されていた写し絵。幼馴染のカイが真ん中に立ち、カイの周りを思い思いにパーティメンバーが取り囲む。よくある構図で、写っているのは白骨化した何かであった。
仲良さげに腕を組む幼馴染と骨。
幼馴染を両側から取り合う、骨。
町の美味しいカフェで撮ったと思しき、幼馴染とスイーツと片隅に映り込む、骨。
「わ、私の幼馴染、パーティメンバーがいなくて骨とランデブーしてるの…!?」
写し絵の構図がどう見てもラブラブ匂わせのため、どう足掻いても幼馴染が骨に囲まれて鼻を伸ばしているようにしか見えない。やっっべぇな、コイツ…!!!と内心ドン引きしながら、最近小料理屋を始めた母に写し絵を見せたら微笑ましそうに笑われた。
「あらあら、カイちゃんったら女の子にモテモテねぇ」
女の子???どこに女の子要素があった!!??と母に問えば、また微笑ましいものを見るように、「貴方も素直になりなさいな。カイちゃんが女の子と仲良くしている絵は妬けるでしょうけど」と言わ残しお店に戻っていった。…どうやら母は耄碌が始まってしまったようだ。お店が繁盛してきているため、私が支えないといけない。ちなみに父は数年前から始めた狩猟業が乗りに乗っているらしく、3ヶ月くらい会えていないのでいなかったものとする。
「なぁ、どう思うよニーよ」
ここまでの話を愛猫のニーに語れば、ニーは名付けのとおりにニーと一声鳴いた。家の軒先で可愛いニーのことを撫でるこの至福の時間は何よりも変えがたいものである。何だかんだ言うものの、私は私なりに幼馴染のことを大切に思っていたし、可愛がっていたニーを置いて出ていったアイツを少しだけ許せなかった。だから、愚痴るようにニーに語りかけてしまう。
「薄情だよなぁ…。可愛い女の子と旅立ってさ」
『まあそうですね。覚醒して会ったばかりの女の子と二人で旅に出たとかご主人的にはキッツいでしょうよ』
「ひっ…!!??」
ニーが!!!!ニーがシャベッタ!!??しかも流暢に!!!!???
あまりのことに理解が追いつかないまま、反射的にニーから距離を取る。
『いや、そこまで距離取らなくてもいいじゃないですか』
これが心の距離…!と呟きながらニーはゆったりとした歩調でこちらに近づいてくる。
良かった、流石に4足歩行だった。これで二足歩行とか空飛び始めたら私どうしていいのかわからない。
『要はご主人はカイが覚醒してご主人を置いていったことが許せないんでしょう?』
「え…うーん、どう、なんでしょうか…」
というか『覚醒』って何?と呟けば、ニーはやれやれと頭を振り、私の疑問に答えていく。
『覚醒は覚醒です。カイが勇者になれたのは覚醒して勇者の力に目覚めたからですよう。ちなみにニーも最近覚醒して喋れるようになりました』
ごめん、心の距離もっと開いた。そう思いながら、覚醒っていうかあの日の勇者うんぬんかんぬんは本当だったんだなぁと思い出す。あれが戯言ではなく真。ガチ。…そっかぁ…、カイは勇者で骸骨にモテモテなのか…。
「いや100歩譲って勇者はわかるけど骸骨とランデブーって何!?」
『性癖とかじゃないですかね』
「いやな性癖まで覚醒してんな!!!」
私はこれからアイツの手紙をどんな感情で読めばいいのかわからない。というかニー、可愛かったはずのお前の鳴き声から想像もできないくらいにひっっっくい声を出して喋るニーよ。いつお前は覚醒したんだよ。
『あ、ちなみに覚醒してるのご主人の母さんと父さんもですよ。あと近所のお姉さんも』
「何で!?何に!!??」
『母さんは料理人。父さんはハンターですね。ついでに3つ隣のお姉さんは娼婦です』
お姉さん。私の心のオアシスお姉さん。私が風邪のときに心配して林檎を素手でジュースにしてくれたお姉さん…!!何で娼婦…!とついでとばかりにもたらされた情報に思わず精神を破壊されそうだ。
無理。ショックすぎて2日寝込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます