第12話 だから天才という奴が嫌いなんだ




 しかし、認めたくはないが十代故の執着心と行動力といった物を忘れてしまうくらいには俺の精神年齢は歳を取っていたようだ。


 だからといって逃げないという選択肢はない為俺は即座に逃げの一手に出る。


 いくら天才だと勘違いしていたただの凡人の身であろうとも、これでも万色という身の丈に合わない大それた二つ名を頂けるぐらいの実力があると恥ずかしながら自負している。


 今の俺ならばこの本物の天才相手でもまだまだ未成熟な青二才相手ならば逃げ切れる。


 と───思っていた過去の俺を慰めてやりたい。


 もう粉々に砕け散り尽くしたと思っていた俺のプライドが、また一つ砕け散った音が聞こえた気がした。


 そもそも最初コイツが先日の放課後俺のいるあの教室まで来れた時点で疑うべきであったのだと今更ながらに後悔するがもう遅い。


 コイツは何らかの方法でこの俺を見失わずに探す事が出来るのであろう。


 これだから天才という奴が嫌いなんだ。


 気が付けば直ぐ俺を超えて行きやがる。


「で、この状況が分かっているのか? レヴィア」

「その言葉をそっくりそのままお返しするわ。もう観念して逃げるのはおやめなさい。そして私を貴方の弟子にしなさい」


 そして件の彼女は勝ち誇った様な笑みを浮かべてこの俺、凡人を見下す。


 これでは端から見ればまるで俺の方が立場が下みたいではないか。


 ただ、見下すのは良いのだが───


「ここは男子便所の個室」

「今更命乞いしようたってそうはいかないわ……よ?」


 そしてレヴィアは今自分がどこにいるのか理解したのか顔から湯気が出そうな程真っ赤にまると声にならない声を上げ、走り去って行くのであった。





「それで、どこまでついて来るんだ?」

「それは貴方が私を弟子にするまでに決まってます。というか勝手に弟子だと名乗らせていただきます」


 あれからというものコイツはそれこそどんなに逃げようとも何処へ逃げようとも追いかけて来やがる。


 これでは最早この俺のプライバシーは最早無いに等しい。


 それにしても、言うに事欠いて弟子とはまた面白い冗談を言う娘である。


 はっきり言ってコイツは天才である。


 凡人の俺が教える事など何もないし何も出来ない事など容易に想像出来る。


 だからこそ天才と言われるのだ。


「やめてくれ。俺は弟子など取らないし今後取るつもりも無い」

「なっ!? ちょっとっ!!」


 だがしかし、今現段階では本気になれば幾ら天才と言えど逃げ切れる。


 今までは手を抜いただけに過ぎない。


 十五歳は確かにこの世界では成人として扱われるかもしれないが俺からすればまだまだケツの青い子供でしかない。


 そして俺は自分に再度そう言い聞かせ、先程と同じ様に彼女の前から姿を消す。

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