ようこそ、異世界転生局へ

カール

第1話 1人目 田中一翔

 輪廻転生。それは死した魂が天に昇り、また新たな命となって生まれ変わる事である。いやまぁざっくりとした話だがそんな感じだ。死んだ魂はすべてとある場所へ集められ、次の命へ転生する。すべての世界の転生を司る場所こそ、転生局。これはその転生局で働くある人物のお話。




「だから、チートハーレムは譲れないって言ってんだろ!」



 ドンッとテーブルを叩き、大声を出す1人の男性。彼の名前は田中一翔かずと。年齢は33歳。会社員。不運にも死んでしまい、こうして転生するためにこの局へ運ばれた魂だ。



「ですからね。田中さん。チート、チートって言いますけど、チートの意味知ってます? いかさま、ごまかし、不正行為って意味ですよ? 転生してまで不正行為したいって詐欺師になりたいって事ですか?」

「だから違うって言ってるだろ! 俺が言ってるチートっていうのは、こう一撃でどんな敵でも倒してしまうような魔法を放ったり、どんなものでも作れてしまう魔法の道具を貰ったり、そんな他の人が出来ない能力をくれっていってるんだ!」



 鼻息を荒くし、顔を赤くしている田中一翔を見て俺は小さくため息をついた。もう休憩時間だっていうのにこのチート田中は随分粘っている。さっさと俺が進めた昆虫王国バルサーへ行ってほしいものだ。



「そんなものあるわけないでしょう。むしろ行く世界をある程度指定してあげるだけ十分特別だと思いませんか? ほらここを見て下さい。貴方の生まれ変わる予定の姿です。カッコいいでしょう? これはモテるんじゃないかなぁ」



 そういって手元の資料を指さした。


「それはッ! ただのだろうが!!! 舐めてるのか!!」



 ああ、本当にいい加減にしてほしい。何がだめなんだ。



「何がだめなんです? ほらここを見て下さい。生まれはバルサーの第11皇子です。皇族ですよ、皇族。いやすごいなぁかっこいいなぁ」

「だから虫だろうが! 舐めてんのかてめぇ! もういいお前じゃ話にならん。責任者を呼べ、責任者」



 面倒な魂だ。もうすぐ地球でやっているアニメの放送時間だというのに、いい加減転生してくれないかな。もういいや少し強引に行こうか。



「――ですよ」

「は? なんだって」

「ですから、私ですよ。ここの責任者は」



 そういうとカブトムシ田中は驚愕した様子を見せた。そのまま叩き込むように話を進める。



「いいですか田中一翔さん。そもそも転生とっても何でも叶うわけじゃない。前世、つまり貴方が死ぬ前に生きた人生でのカルマ値によって次の転生候補は決まるんです」


 そういってもう1つの資料を見えるように置く。



「ここを見て下さい。貴方のカルマ値に関する項目です」



 この資料には以下の内容が書かれていう。

 ・独り立ちせず、部屋に引きこもる。

 ・仕事をせず、常に部屋でパソコンと向き合う。

 ・子供を作らず、恋人を作る努力を怠った。

 ・親より先に死んだ。

 ・生きる以外の目的で故意に他の生き物を殺した。

 ・自身の年齢と容姿を偽り、他者を貶めた。

 ・etc



「な、なんだこれは――」

「貴方の前世の行い。その中でもカルマ値を下げた行動の数々です。田中一翔さん。もう貴方に残った道は2つです。1つは無垢の魂へと変わりまた1から生まれ変わる事。2つ目は昆虫王国バルサーの第11皇子へ生まれ変わるか。どうしますか。もう時間はありません。チートだとハーレムだのと言ってる場合じゃないでしょう。無垢の魂へ変われば貴方の情報は完全に洗浄されただ純粋な魂へと変わる。もう貴方ではなくなるんです。しかしバルサーへ行けば貴方の意識は残る。姿かたちが変わろうと田中一翔という意思があれば、貴方はまだ生きられるんです。なら選択は1つでしょう?」


 そういって昆虫王国バルサーのパンフレットを指さした。



「ば、馬鹿な。俺に本当に虫になれってのか?」

「なら死にますか? 私はそれでもかまいません。最近は無垢の魂へ変わるものがいないので逆にありがたいくらいです」

「い、いやだ! 死にたくない!」


 そういってカブトムシ田中は両手で頭を抱え始めた。


「田中一翔さん。徳を積むのです。このバルサーで、善性を高めなさい。そうすれば次の転生でそれこそ貴方の希望のような場所へ転生できるやもしれませんよ」

「――ほ、本当か?」

「ええ。本当です。ほらこちらを見て下さい」



 そういって用意していた資料を開く。そこには顔にモザイクが入っているがある男性の顔写真が貼られていた。



「こちらは以前同じく昆虫王国バルサー第24代皇帝としての使命を全うした方です。死亡後なんとこの方は人間へと転生しています」

「そ、そうか。そんなことも出来るんだな?」

「そうです。さあ、決断の時だ。貴方の行く道先はもう決まりましたね?」


 そういうと俺は満面の笑みを浮かべた。


「い、いや待ってくれ。でも虫なんだろ。やっぱり――」

「おめでとうございます! さあいざ新天地へ!」


 俺はそう叫びながら立ち上がると天から光が降りかかる。眩い光の粒子が舞い、天使たちが舞い降りてくる。そうすると椅子に座っていたカブトムシ田中はバタバタしながら宙へ浮く。



「や、やめてくれ! やっぱりもう少し話し合いをッ!!」

「行ってらっしゃい! どうか次こそ天寿を全うするのですよ」



 い、いやだーーーーーという木霊を残し俺は笑みを浮かべなら手を振っていた。




「田中一翔さん。どうかお気をつけて」



 昆虫王国バルサーのカブトムシの平均寿命は500年。どうか生き抜いて下さいね。






「相変わらず局長ってば人が悪いですよね」



 一仕事終わり、受付のモニターでアニメを見ていると1人の天使が俺の前に現れた。



「どういう意味ですか。私は彼の望み通り動いて差し上げたのですよ」

「田中康太こうた。田中一翔さんの曽祖父であり、元昆虫王国バルサー第24代皇帝の願いですか」

「そうです。いつか自分の子孫を祖国へ戻してほしいという彼の願いを叶えたまで。悪意なんてありませんよ」

 


 そういってコーヒーに口を付ける。うん、この苦さがいい。

 

 

「またまたー。わざわざそれっぽいカルマ値とか嘘ついて誘導してたじゃないですか」

「いえいえ。カルマ値というのは本当にありますよ。もちろん貴方にもね」

「うげぇ。本当ですか――?」

「ええ。どうか気を付けて下さい。天使である貴方がある一定値まで下がると降格となる。ああ、そういえば昆虫王国バルサーの公爵種族にもうすぐ新しいメスが生まれそうでしてね。どうですか、ちょっと試しに――」

「し、仕事いってきまーす!!」



 足早に飛んでその場を後にしてしまった。そうして画面に流れるアニメを見ながら考える。さて次はどんな面白い魂がやってくるのだろうかと。

 

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