気絶体験記

中野 奏

気絶体験記

 


*これは中野奏が実際に体験した話です。ただ腹痛で気を失っただけです。今は元気に過ごしていますので大丈夫です!!







 僕は人よりちょっと体の弱い男子高校生。今日は隣のクラスが学級閉鎖になり、友達が一緒に来れなくなったので一人で登校していた。特に何も考えずスマホで小説を読み、5分遅れのバスを駅のバスターミナルで待っていた。ふと急に少しお腹の痛みを感じた。その瞬間僕は悟った。これは下痢だと。ただバスが来るまで後2分。友達が一緒に並んでいるわけではないのでここを一旦離れるともう遅刻、もしくは立ったままバスに無理矢理乗ることになるだろう。僕はまぁ学校まで持つだろうと思って少し我慢して乗ることにした。まさかこの選択がこの日の僕を狂わせることになるとは思いもせずに……。




 バスが到着し、乗り込む。後ろから3番目の列に、空いている席があったのでその窓側に座った。するとその横に違う高校のやつが座ってきた。別に座ってくること自体はいいのだ。だがそいつは、鞄をこっちに向けた状態で座りやがった。そのせいで自分の空間は狭まり窮屈な感じになった。すごくイライラしたが、そんなことをいちいち口に出していては正直バス通学は無理だ。僕はこれもまた我慢しようと堪えた。




 バスに乗って15分が経過し、大体中間地点に到達したあたりでそれは襲ってきた。そう、腹痛だ。今回はかなりやばい。正直このままトイレに突っ込みたいレベルだが、あいにくバスの中にトイレはない。さらに次のバス停を降りても降りてすぐの場所にトイレはない。今回はかなりきついが正直降りるという選択肢はない。ならばこれを学校まで持っていくしかない。正直あともって15分といったところか。ギリ間に合うかどうかというレベル。僕の意識は持つのだろうか。




 僕は腹痛がひどくなりすぎると気を失うということがよくある。(失いかけることのが多い。)実際に中学校のころはトイレに行ったら腹痛が酷すぎて気を失ったことがあった。今回の腹痛はそれと似たタイプの腹痛だった。あの痛いのに気持ち悪い。そしどんどんそこに血液が奪われていくような感覚。あのタイプの痛みは経験してみないとわからないだろう。痛いのに異常なほどに気持ち悪いのだ。僕の意識は一体あとそれぐらい持つのだろうか……。




 腹痛がきてから5分後、腹痛は治るどころか、どんどんひどくなっていった。手をみるとみるみる白くなっていって、意識も徐々に遠のいてきた。このときには隣の席のやつなんて視界に入っていなかった。僕は鞄を抱きしめて、窓のほうにもたれかかることしかできなかった。途中、声を出して助けを求めようとしたが、声が出ない。そう、声が全く出ないのだ。出るのは空気だけ。このとき僕は本当に人が痛いとき、苦しい時は声が出ないのだとわかった。声が出て助けを求めれない以上もうそこからは己の意識との戦いだった。もうすでにこの時点でところどころ気を失っていたと思う。視界もどんどん狭くなっていって見えるのは一部だけ。例えるならドット抜けが大量に発生した画面という感じだ。もう一部のものしか見えてない。このとき僕が確認したのは自分の降りる一個手前のバス停だった。その瞬間もう少し耐えれば苦しみから解放されると希望が生まれた。ただ遅すぎた。僕はバス停で降りるために立ったが、立った状態で出口手前で気を失っていたようだ。すぐに意識が一瞬少しだけ戻り、その瞬間に見えた定期をかざすところに定期をかざしふらふらの状態でバスを降りた。もうすでに僕の体は限界を迎えていた。




 なんとか頑張りこの信号を渡ったらコンビニというところまで来た。ただこの瞬間問題が発生した。信号が変わってしまったのだ。信号待ちの間また気を失ったらしい。そして信号が変わるときに一瞬意識を取り戻した。その瞬間僕はふらふらの足で前もほとんど見えない状態でただコンビニのトイレを目指して走った。ただ走った。周りの音は何も聞こえない。どんな騒音も喋り声も車の音も何も聞こえない。聴覚を失うとはまさにこういうことを言うのだろう。




 コンビニのトイレの前に到着したらまた問題が発生した。そう誰かが入っているのだ。僕は迷った。このまま待つか、ふらふらの状態で学校を目指すか。一瞬迷ったが僕の足は限界を迎えており、もう立つことすら何かに捕まってないとできないレベルだったのだ。大人しくその場で待つことにした。少し待つと男子トイレから人が出てきた。これを薄れかかっている自分の視界で確認したあとすぐにトイレに入った。トイレの入口に鞄をおろし、すぐにズボンを脱いで便座に座った。その瞬間体に溜まっていたものが一気に出た。ただ腹痛からすぐに解放されるわけもなく、僕の意識はそこで途絶えた……。




 しばらくして意識を取り戻した。顔がひんやりしたので何かと思ったら汗だった。全身汗だくだった。そのせいか口はカラカラで体の水分を全て汗に浸かってしまったのだろうかと感じるほどだった。ふと思い立ちスマホで時間を確認するとかれこれ8分近く気を失っていたらしい。腹痛は治ったが、まだお腹の気持ち悪さは残っている。手にも足にも力が入らないが、長居するわけにもいかないので最後の気力をふりしぼり、僕はコンビニを後にして学校を目指した。




 意識はだいぶ戻ったが手足の感覚、そして聴力はそこまで戻っていなかった。ただもうこの時点で家に帰ろうと思ったので親に電話を入れた。親はすぐに迎えにいくといってくれた。ただ親が学校に来るまでは30分以上かかる」。とりあえず僕は早退扱いにするために学校に向かった。




 学校についてからも体調は完璧ではなかったのでとりあえず『来ましたよ〜』とアピールするために鞄を机の上において保健室へ向かった。保健室で事情を話すと早退許可証を書いてくれて早退扱いにしてもらった。ただだいぶ回復して歩けるようにはなったので朝のSHRには参加することにした。そこで複数の友人に事情を話し家に帰る旨を伝えた。友達は「大丈夫?」など優しい声をかけてくれた。そして担任に許可証のサインをもらい朝のSHRを終え、鞄をもって保健室へ向かった。親が学校に迎えに来てくれたので、その車に乗って家に帰った。先生には回復したらオンライン授業に入るよう言われたが、正直すぐにそんなことできるような状態ではなかったので家に帰って1時間30はソファーに寝っ転がり、ゆっくりすることにした。




 しばらくしてだいぶ回復したなと感じたのでオンライン授業に参加した。ただ体調は完璧とは言えなかったのでソファーで寝たり、授業をみたりを繰り返しながら午前を過ごした。




 結局あれから体調が完璧に戻るまでに半日かかった。本来なら点滴を打つようなレベルのことだから当たり前だろう。今回の経験で分かったことは人は本当に痛すぎると声が出ないこと。そして脳に血が回らなくなると全ての機能が停止すると言うことだ。手足に力が入らないだけでなく、耳も聞こえない、目も見えないと言う状態に陥る。ほんとに脳が人間の全てを司っているのだなぁと感じる出来事だった。これからは我慢してバスに乗るのはやめようと思う出来事だった。

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気絶体験記 中野 奏 @shinaage

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