私と彼の旅路

 レン君のことなら何でもわかる。思い悩んでいることも、それを慕っている従兄に相談するだろうことも、気晴らしに出掛ける旅の行き先も。だって毎日毎日、三百六十五日おはようからおやすみまで、十年以上もずっと見守ってきたから。最近は私からの視線も少し気にかけてくれるようになって嬉しかったな。


 レン君はとっても優しくて恰好良くて、気付いたら目で追っていたの。だからこそ知っている。小学一年生のとき、さっちゃんを好きになったのが初恋だったでしょう。レン君は初恋のあとも何度か恋をしたけれど、その目に一向に私は映らない。それでも諦めたくない私は、整形までしてレン君の前に現れた。



 私は久成妙和さわなんかじゃない。この村で暮らしているのも嘘。装われた再会も偶然ではなく仕組んだこと。金木犀の名所なんて本当は存在しない。偽りばかり。私がレン君を愛していることだけが真実。


 レン君は覚えているかな。私が小学校の校庭で転んだとき、助けてくれたの本当に嬉しかったんだよ。優しいレン君はきっと、足を踏み外して湖に落ちそうになる私に再び手を差し伸べてくれる。もう二度と、大好きな君の手を離したりしない。


 この寒村なら、絶対に誰にも邪魔されない。

 レン君は初恋のさっちゃんと駆け落ちしたと思い込めて、私は初恋のレン君と添い遂げられる。叶わない恋なんて一つも無いの。とても素敵で甘美な最期。

 目撃者のいない二人だけの逢瀬。何も偽っていない私と、来世で結ばれようね。

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