第8話 帰宅


「ただいま〜」


 一輝は学校を終え、自宅に帰宅した。


「それにしても、今日は非日常的な学校だったな」


 一輝は靴を脱ぎながら、独りごちる。


 あれから、昼休み以外、すべての休み時間を使って羽矢と莉菜は一輝の元を訪れた。その度に、彼女たちは一輝と他愛もない会話を楽しんだ。


 そのため、一輝は彼女たちとの会話を通し、徐々に気分がネガティブからポジティブへと移行した。結果、朝の登校時とは真逆で、帰りの下校の際は気持ちよく足を進めていた。


「おにぃ。お帰り!」


 玄関からリビングに通ずる入り口から白のセーラー服を着た美少女が姿を現した。


「あぁっ。ただいま!美月」


 朝元美月(あさもと みづき)。一輝の実妹である。地元の中学に通っており、学年は3年生である。


 容姿の特徴としては、濃いブラウンのロングヘアにブラウンの瞳、小さく綺麗なピンクの唇などがあった。


 美月は一輝と同じ遺伝子が組み込まれているはずだが、兄とは異なり整った顔立ちを成す。


 一輝は靴箱のエリアから玄関へと足を踏み入れた。


「・・・おにぃ・・」


 美月は瞳を潤ませながら、ダッシュで一輝に抱きついた。一輝の身体に身を委ねると、背中に両腕を回した。


「ど、どうしたんだよ美月。いきなり不思議な行動を取って」


 一輝は突然の展開に驚きを隠せなかった。しかし、実の妹を無理やり剥がすような芸当は取らない。


「・・・よかった。おにぃ、元気になって。・・・昨日の夕方も今日の朝もずっと、ずっと元気がなかったから。・・・本当に心配してたんだよ・・・」


 美月は甘えるように自身の顔を一輝の胸に埋めた。


「・・・」


 一輝は美月の本音に返す言葉を探す。だが、生憎見つからなかった。


 一輝は昨日の夕方も今日の朝も、片山の仕掛けた嘘告白によって大きなダメージを負ったため、ずっと気分の沈んだ状態になっていた。


 そのため、普段は夕食、朝食共に仲良く他愛もない話をするのだが、昨日はそれが実現不可能であった。そのような精神状態では決してなかったのだ。


 心の状態がおそらく顔に表面化されていたのだろう。美月は昨日の夕方も今日の朝も、空気を読んで必要最低限のみ一輝に声を掛けていた。


 しかし、実際は非常に心配しており、辛い思いもしていたみたいだ。


 ちなみに、両親は海外で仕事をしているため、ほとんど家に帰ってくることはない。


 そのため、美月のメンタルケアを担当できるのは専門家以外では一輝しか存在しない。それにも関わらず、一輝は美月に多大な心配を掛けてしまった。


 一輝はその事実に対して大きな罪悪感を覚えた。


「ごめんな美月。心配かけて。辛かったよな。でも、安心して。もう大丈夫だから!」


 一輝は美月の頭を優しく撫でる。さらさらっと小刻みに音が生まれる。


「よかった。でも、謝っただけじゃ許せないよ・・・」


 美月は顔を上げ、涙目で一輝を睨んだ。


「えぇ〜。じゃあ、どうすればいいの?」


 一輝は困惑した顔を浮かべた。残念ながら、許しを乞う方法が閃けない。


「今日から1週間、私と隣で寝ること。しかも、寝る場所はおにぃの部屋ね!!」


 美月は力強い口調で許しを乞う方法を提示した。


「ま、まじかよ!1週間に1回じゃ足りないのかよ。なんで俺とそんなに寝たいんだよ!」


「寝たいもんは寝たいんだもん!!正直、1週間に1回じゃ、私にとって必要なおにぃ成分が十分に摂取できてないんだよ!でも、おにぃが乗り気じゃないから、我慢してるんだもん。だけど、もう無理。おにぃ成分を大量に摂取し続けないとダメになっちゃう」


 美月はわがままを一切恥ずかしがる素振りを見せずに捲し立てる。


 一輝は最初のあたりは拒否反応を示していたが、最終的に美月の圧に押され、提案を受け入れた。


 この日の夜、一輝は美月に抱きつかれながら、ベッドで寝る羽目になった。




⭐️⭐️⭐️

読んでくださりありがとうございます!!


私が書く作品は妹を出したり出さなかったりします。しかし、今回は妹キャラを登場させました。


その理由は、妹キャラが存在することで書ける話の場面があるからです。


これから、妹キャラはどのような場面で登場するのでしょうか?

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