選択 / みょうせい

追手門学院大学文芸同好会

第1話

 もう少しで日が昇ろうとする時間帯、私はコツコツコツ、と靴を鳴らしながら長い廊下を歩き、目的の部屋まで歩いていく。部屋までの廊下は異様に静かで緊張感がある。これは命令を下すはずの私がわざわざ現場に来たからである。部屋の扉の前には見張りの兵士がおり、私に対して敬礼をしてくる。それにたいして私がうなずくと兵士は敬礼を辞め無言で部屋の扉を開け、私が入ったのを確認すると扉を閉めた。


部屋の中には中央に机があり座れば対面になるように椅子が二つある、また机には黒い拳銃が置いてある。そして椅子には軍人の格好をした中年男性が足と手を拘束されながら座っている。


「お前が来るのを待っていたよ」


入ってきた私を見つめて彼は真剣な眼差しでそう告げた。


「俺はクーデターなど計画していない、お前は奴らに騙されている!」


彼はそう言って弁解を始める、が私は思ったよりも冷たく「そうかい。」と返事した。そもそもなぜ彼が拘束され監禁されているのか、それは彼、いや彼が所属する組織がクーデターを企てておりその計画書に彼の署名が書いてあったからである。そして彼が「あいつら」と言っているのは彼の組織の下部組織のことである。下部組織からしたら彼らが権力拡大のためには目の上のたんこぶのため彼の言うように偽造文書を作成し、私をだましている可能性もある。


「その可能性もあるな」


そう言った時、彼は目を輝かせた。


「だろう! ならこのような事は……」

「しかし否定する材料もない」


 私の発言に希望を見出したであろう彼を即座に折る。


「クーデター疑惑はもう民衆に広がっており、上は早急に解決することを願っているためこうするしかない」


 そして私たちの間に沈黙が流れる。私は彼と話すことが、そして目を見る事が出来ない。彼と下手に話してしまうと、目を合わせてしまうとただでさえ揺らいでいる覚悟が消えてなくなりそうだからだ。


だがこのまま立っているわけにはいかない。そう思い覚悟を決め、彼の顔を見る。


「あぁ……」


彼は弁明などをしなかった、いつも輝いていた目はもう死んでいた。私は机の上にある拳銃を持ち彼の額に向ける。もう後には引けない。


引き金を引いた。




私は倒れ突っ伏している彼に振り返ることなく部屋の外にでて、帰りの廊下を歩いていく。私はこの選択が、この結末が正解だったかはわからない。ただ彼の事を無駄にしてはいけない、それだけはわかった。

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