幼い頃の夏

私は暗い夏の夜のことを思い出す。夏の田舎には奇妙な思い出が多い。洗面所にピンクの石鹸が置かれ、浴槽の陰が気になった。水音は遠く遅れて聞こえた。まだ私の身体は子供らしく、従兄と一緒に未成熟な裸体を晒していた。夏の夜は少し肌寒い。遠くで花火が煌めいたのを、一人で見た気がすふ。祖父の家の裏手には森が広がり、奥に何かが居る気がして近づくのを躊躇った。古いレコードには埃が被り、従兄には聞こえできない足音が二階から聞こえた。庭の井戸の底を覗くと女と目が合う錯覚を覚えた。水深の浅いプールですら溺れそうで恐ろしかった。半分ほど溜まったコップに一滴ずつ水が垂れ落ち、冷蔵庫の夜泣きが永遠に続いたのは私が幼かった頃だけである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る