第2話 迷子
俺はどうしていいかわからなかった。
この話を交番でしても気が狂っていると思われるだけだ。
取り敢えず自転車に乗って、近所の児童公園に行った。
あそこなら隠れる場所がある。そこで朝まで待って、その後学校に行ってみよう。ランドセルも何もないけど・・・。先生に事情を話せばわかってもらえるだろう。
床が硬すぎて、背中が痛かった。ほとんど寝られないまま、コンクリートの土管の中で朝を迎えた。何か所も蚊に刺されて、風邪を引いてしまった。
俺は取り合えず早めに学校に行った。担任先生は特別面倒見はよくないし、仲良くもなかったが、それでも相談できそうな人がその人しか思いつかなかった。
俺は自転車で学校に乗り付けた。校門のところに、50歳くらいの見たことのない先生がいた。俺は声を掛けた。
「すみません。5年2組の荻窪先生はもう来てますか?」
「そんな先生いないよ。おまえ、ここの生徒か?」
「はい」
「5年2組は早良先生だ」
「え?」
俺は訳がわからず混乱した。
「僕はここの生徒なんです」
「でも、荻窪先生なんて知らない」
俺ははっとした。もしかしたら、SFみたいにパラレルワールドに迷い込んでいるんだ。どうにかして戻らないと・・・。どうしたらいいんだろう。小説の場合は、最後に必ず元の世界に戻っている。
そうだ・・・山にもう一回戻ろう。そしたら、元の世界に戻れるかもしれない。俺は必死にペダルを漕いだ。そういえば、おなかが空いて頭が働かない。途中の畑でトマトを盗んで食べた。一時的に腹は膨れるが、すぐ空腹になる。自転車のカゴにトマトをいくつも入れて、その場を立ち去った。
俺は一つのことだけを考えていた。山に戻れば元の世界の扉があるかもしれない。自分が歩いて辺りはどの辺だっただろうか。季節は同じ夏だ。今は昭和何年だろう。さっき、聞いておいたらよかったのに。
俺は昨日と同じような場所を歩き回っていればいいのだろうか。ふと自転車のカゴを見ると、ビニール袋が置かれていて、シワシワになったキノコが入っていた。もしかして、山のキノコを勝手に取ったせいで異次元に放り込まれたんだろうか。きっとそうだ。俺はキノコを地面にばら撒いた。よし、これで元の世界に戻れる。他にできることはない。何も起きなかった。
俺はしばらく山にいることにした。その山は常駐の神主のいない小さな神社があって、夏祭りなどの行事の時だけ、近所の人がやって来て賑わう。しかし、普段は誰もいなかった。ハイキングコースでもないから、人通りすらないのだ。一先ず、あそこで寝れる。しばらくそこにいようと思った。小屋みたいな建物だが、雨風は防げそうだった。
しかし、夏の暑い日に古い小屋にいるのは想像したより過酷だった。とにかく蚊に刺されまくる。しかも、暑いが公園を出てから水を飲んでいなかった。公園などにいればよかったと俺はすぐに気が付いた。あ、そうだ。神社にも手水舎があるはずだ。俺はそれに気が付いて探しに行った。
すると、神社の側に使っていない水道があって、ひねると水が出て来た。汚い錆びのような色をしていたが、次第に透明になって行った。手ですくって飲んでみると、意外と普通の水のようだった。その水はどこから引いているんだろうか。もしかしたら、井戸水かもしれない。俺は暑かったから、裸になって、水を浴びた。水が枯れてしまったらどうしよう・・・俺は怖くなって、神社にあった、酒瓶の酒を飲んだ。酒が飲みたかった訳ではなく、瓶を空にして水を入れておくつもりだったのだ。
その時、人生で初めて酒を飲んだのだが、空腹だったこともあり、酔いが急激に回って、ふらふらしてきた。頭がかっかと燃えるように熱かった。そのままふらふらと、神社の建物の中に戻ると、木の床にごろんと寝転がってしまった。
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