第18話 迷走の帰結(前)-3
「スガさんはシャネイラにも好かれているんですか?」
酒場に戻ると、ラナさんにそう言われた。私は、慌てて食器を片付けるラナさんの仕事を代わってから返事をする。
「別に好かれてはいませんよ。それに『も』ってなんですか?」
「さあ……、なんでしょうね?」
シャネイラさん絡みでラナさんが不機嫌になっていないのが、逆に不思議に思えた。なにか彼女の中で心境の変化があったのだろうか。
それからは疎らにやってくるお客の対応をしながら時は流れていった。そろそろ夜まで一度お店を閉める時間だ。
「あら……、あらあら?」
ラナさんがなにか書き物をしながら首を捻っている。真っ黒なインク壺を傾けて中を覗いていた。中身が入っていたら零れそうで危うかった。
「まだたっぷり入ってると思っていたのですが、周りが真っ黒になるとよくわかりませんね?」
「インクが切れたんですか? 道具屋まで私が行ってきますよ?」
「お願いしてもいいですか? 書き物ができないと仕事にも差し支えますから?」
私は快く引き受けて外へと出かけた。一時は外へ出たくないと思っていたが、もう恐れはなかった。ブリジットと出会い、ひとつの決着はついた。そこで得られた情報を含めてもうひとつの決着をつけないといけないのだ。
インクはいつも通り、オット氏が働いている道具屋で買った。彼とは薬草の販売をきっかけに道具を買うついでにちょっとした世間話を交わすのが習慣になっている。
道具屋からの帰りはなぜか途中の噴水のある公園に立ち寄ってしまう。もはや定位置と化したベンチがあった。今日もそこには誰も座っていない。そして、これは間違いなく偶然なのだろうが、ここにいると人から声をかけられる。衛兵からの職質だったり、カレンさんからだったりいろいろだ。
私が何気なくここに寄っているように、なにか人を惹きつけるものがあるのかもしれない。ベンチに腰を下ろして一息ついた。陽射しはあるが、気温はそこまで高くない。とても過ごしやすい陽気だった。
『少しくらい帰りが遅くなっても怒られはしないだろう』
私は心地よい空気をその体いっぱいに感じていた。うっかりすると寝てしまいそうなくらいだ。
そのとき感じた、人が近付いてくる気配。やはりこの公園は人と出会うようにできているようだ。私が足音の方に目をやると声をかけられた。
「隣り、ご一緒してもいいかな? スガワラさん?」
そこにいたのはトゥルーさんだった。
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