第17話 それぞれの決着(後)-3

「ブリジットは助かりそうですか!?」


 ここはブレイヴ・ピラー本部の中、いつかユージンたちに袋叩きにされて私が運び込まれた部屋だ。皮肉にも今そこに運び込まれたのはブリジットだった。幸いにも回復魔法を扱える人がなかに残っていたようだ。

 治療はその人に任せて、私とグロイツェル氏、ユージンは部屋の外へと出ていた。


「スガワラさん、私が言うのもおかしいかもしれませんが、ブリジットの身を案じているのですか? あいつとは友人でもなんでもないはずですが?」


 ユージンが私に問うてくる。確かにそうだ。パララさんの一件や今、目の前にいる男に痛い目に合わされた件も元を辿ればブリジットに行きつく。私が彼の心配をするいわれはないのだ。


「そうですね……。恨みこそあっても心配をする義理はまったくありません。それでも目の前で傷付いてる人の死を願うような人間にはなりたくないんです」


 ユージンはなぜか大きなため息をついた。私のお人好しぶりに呆れたのかもしれない。


「あなたは優しすぎるお人だ。なんで私たちのような闇に生きる人間とかかわったのか不思議なくらいに」


「仰る通りですよ。ですから、あんなふうに痛い目をみたんです」


 ユージンは急に大きく頭を下げた。別にそういうつもりで言ったわけではないのだが……。


 グロイツェル氏は私たちの横で淡く発光する紙片を見つめていた。魔法の写し紙だ。最初は難しい顔をしていたが、数秒するとその顔は幾分か柔らかい表情に変わった。


「すぐにでもアルコンブリッジへ援軍に行こうかと思っていたが――、その必要もなくなったようだ」


 アルコンブリッジ? ブリジットが話していたまものの大群を迎え撃っている大きな橋の名前だろうか。今の話だと、まものを退けるのに成功したのか。


「スガワラさん、黒の遺跡に続いてお世話になりました。街の電車はまだ止まっているでしょうから、我々で馬車を用意しましょう」


 グロイツェル氏は大きな身体を折って頭を下げた。


「いいえ! むしろ私が助けられたくらいです。もしひとりだったら、あのナイフに刺されて運ばれていたのは私だったかもしれません」


「ふむ……。そういう意味ではユージンの手柄かもしれんな。早々にスガワラ氏への義理を果たせてよかったではないか?」


 ユージンは相変わらず頭を下げたままそれを聞いていた。


「彼の容態が気になるようでしたら、酒場に連絡を出すようにします。かなりの出血でしたから傷は深いでしょう。慣れた手つきには見えなかったが、よくここまで思い切りよく自分を刺せたものだ……。今の段階ではどうなるかわかりません」


 グロイツェル氏の提案に私は無言で頷いた。彼がどんな人物であれ、同じ世界からやってきた人間として生きていてほしかった。


 街に響く警鐘の元凶だったまものの襲来が抑えられたのなら、もうなにも心配はないはずだ。きっとラナさんも無事でいるだろう。彼女のことだから逆に私を心配している気もする。早く顔を見せて安心してもらいたい。


 まさかこんな事態に巻き込まれるとは思っていなかった。


 外の世界に出たらきっと出会うだろう人がいた。その1人はブリジットだった。彼の目的を知り、それが阻止される現場に立ち会うまではさすがに予想していなかったが……。


 ただ、もう1人出会うべき――、話すべきが人がいる。きっと「彼」も私が1人でいる時にコンタクトをとってくるはずだ。

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