第16話 橋上の決戦(後)-6

 こちらに向かって突っ込んできた騎兵、その上にいるのはトゥルーとラナだった。王国騎士団はラナに応援要請を出していたのか。自分たちの部隊は出し渋る癖にそういうとこだけ素早いもんだ。


 ラナは、魔法部隊の最前列より少し前で馬を降りた。その身体には王国の法衣を纏っている。


「フフ、ラナンキュラスが来たのですか……。ここを踏ん張った甲斐がありましたね」


 シャネイラの無機質な声は、なぜかラナが絡むときだけ感情を帯びて聞こえてくる。ラナが加勢に来てくれたのはありがたい限りだ。魔法の援護が減っている今、これ以上ない強力な助っ人といえるだろう。


 だが、同時に私はこう思った。なのか!?


 この数のまものと戦況を考えると、もっと大規模な援軍が必要なはずだ。シャネイラの言う通りで王国の動きは鈍い。いくら伝説級の魔法使いであっても、たった1人の援護で戦況がひっくり返るとは思えない。


「ラナンキュラス様の力は黒の遺跡で拝見しております。高火力の魔法をほとんど詠唱なしに放ち、複数の属性を使いこなす。正直、この目で見てとても驚きました」


 サージェが私になのか、シャネイラになのか、話しかけてきた。


「――とはいえ、この状況を変えるにはもっと『数』の援護が必要のはずです! おひとりでは時間稼ぎにも不十分ではないでしょうか!?」


 サージェの言葉は私の胸中と一致していた。


 ――その時、ラナの声がこちらに届いた。


「そこに『壁』をつくります! シャネイラっ! 間をつくって皆を退かせてください!」


 シャネイラの仮面の下から笑い声が聞こえてくる。


「私に直に命令するとは……、本当におもしろい子ですよ、ラナンキュラスは!」


 次の瞬間、シャネイラの剣は青白い冷気を纏っていた。


 まだ魔力を残していたのか?


「私が魔法を放ったら皆一斉に下がりなさい! 逃げ遅れたら死にますよ!」


 無機質な声が橋に響き渡る。後ろのラナにもきっと届いたはずだ。そしてシャネイラは、大きく振りかぶり、冷気に包まれた剣を右から左へと勢いよく振り抜いた。



「コキュートスッ!!」



 まさかこの状況で氷の上級魔法を撃つとは思っていなかった。下がるタイミングを間違っていたら巻き添えをくっていただろう。もちろん、こちらの動きを見た上での判断なのだろうが……。



「フレイムカーテンッ!!」



 シャネイラから背を向けた私。その視界にラナを捉えた。彼女はシャネイラの「コキュートス」と合わせるように魔法を発動していた。


 フレイムカーテン……。何度も耳にしたことのある火属性の魔法である。広範囲に炎の幕を張る魔法だ。攻撃よりも、敵の分断や逃走時などの妨害の意味合いで使うことが多い印象だ。

 そういえば、パララちゃんも魔法闘技の決闘で使っていたっけ?


 だが、ラナの使ったフレイムカーテンは、私の知っているとは明らかに違っていた。


 押し寄せるまものの大群を完全に分断する超巨大な業火の壁……。急いで逃げないとこっちまで焼き殺されると思うほどだ。


 まものの側に最後まで残っていたシャネイラもこちらに追いついてきた。


「ここにいる魔法使いたちには、あれが『フレイムカーテン』に見えるでしょうか? きっとまったく別の魔法として目に映っているでしょうね」


「さすがはラナンキュラス様、こうして敵を足止めするのが目的だったのでしょうか?」


 後退しながらサージェは問いかけてくる。


「さあてね……。もうそこにいるんだから本人に聞いてみるかねぇ?」


 私やシャネイラ、サージェを含めた最前線の剣士たちはラナがいるところまで後退した。炎の壁の勢いはまだ衰えず、まものの追撃を防いでくれている。


「さすがラナだ……。この隙にちょっとでも回復して立て直さないとねぇ」


「いいえ、その必要はありません」


 私が何気なく言った言葉にラナは即答した。


「ここで終わらせます」

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