第16話 橋上の決戦(後)-4
「カレン! あなたも一度下がりなさい!」
シャネイラの声が響く。すでに多くの剣士が疲弊、あるいは傷を負って一度は下がっていた。後方に控える者と入れ替わり、なんとか前線を維持している。
――とはいえ、橋の4分の3部どころあたりから始まった戦いは、今その中間あたりで激化している。
徐々にだが、まものの勢力に押され始めているのだ。
魔法使いの援護も続いてはいる。
しかし、一度は魔力を出し尽くしたのか、明らかにその数と威力が衰えているのを感じた。サージェを含めた私の隊も一度下がらせている。
「そう言うならシャネイラも下がりな! もう魔力が尽きてるんだろう!?」
流れるような剣技のキレはまだまだ衰えていない。だが、併用していた魔法をしばらく使っていなかった。さすがのシャネイラでも長期戦で、全力を維持し続けるのは難しいはずだ。
「私が下がれば全体の士気にかかわります! それにこの程度は他国との戦争に比べれば大したことありませんよ!」
橋はまるで黒い塗料をぶちまけたようにまものの血で染まっていた。黒で塗りつぶされてはいるが、その中には人の赤い血も混ざっているのだろう。
火の魔法に焼かれたやつから煙と異臭が漂ってくる。目に涙が浮かんできた。私も気を抜けば剣を手放してしまいそうなほど握力が無くなっているのを感じていた。
息も荒くなってきた。シャネイラは仮面のせいで息遣いがわからない。ただ、これだけ剣を振るって疲れていないはずがない。
「グロイツェルは前線に出せないのかい!? あいつなら私らが下がっても持ちこたえらえるはずだ!」
この問いにシャネイラは答えない。まものの断末魔に紛れて聞こえていないのか?
「しっかし! 斬っても斬ってもキリがないねぇ! どうしてこんなにまとまって襲ってくるんだよ!?」
「積もり積もった恨みかもしれませんね」
恨み? シャネイラがそう言ったように聞こえた。まものが人を恨んだりするのか。この化け物どもにそんな意思があるというのか?
◆◆◆
橋の後方では傷を負った人の治療と回復が行わていました。魔力を使い切った魔法使いが呼吸を乱して何人も倒れ込んでいます。私とアレンビーさんもその場に倒れそうになりながらもなんとかここまで歩いてきました。
短時間に上級魔法のヴォルケーノを5発、研究院やギルドの訓練でも立て続けにここまで魔法を撃つことはありません。私は口から心臓が飛び出すんじゃないかと思うくらいに息を切らしていました。
魔力を回復するポーションが配られていましたが、一瞬で元通りになるわけではありません。交代する魔法使いももうほとんどいない状態で、1発でも魔法が放てるくらいに回復した者から再び戦列に戻っている状況でした。
「あれー、そこにいるのはパララちゃんよねー?」
回復のために設営された陣で、聞いたことのある独特の間延びした声が届きました。たしかブレイヴ・ピラーの胸のおっきいお姉さんです。
「リンカさん……、ここにいらしてたんですね?」
「そうなのよー、パララちゃんはお連れさんと一緒に魔力切らして休憩中かな?」
リンカさんは私の隣りで息を切らしているアレンビーさんを見てからそう言いました。
「はい……。ちょっと、飛ばし過ぎて…しまいました」
「いやー、私も魔力の回復はできないからねー。私ら救護隊に配られてるポーションちょっとくすねてくるから待ってなよ?」
「えっ……えっと、そんなことしていいですか!?」
リンカさんは「内緒」というように人差し指を立てて私の唇に押し付けた。
「隣りにいる子、『知恵の結晶』のアレンビーちゃんでしょ? 今の戦況だとみんな均等にポーション配るより、高火力の魔法扱える子にさっさと前線に戻ってほしいのよねー」
「「えっ?」」
今度はアレンビーさんも私と同時に反応した。
「最前線はうちのマスターとカレンが踏ん張ってるけど、このままだとさすがにマズいからねー。王国の連中もさっさと援軍要請出せばいいのに腰が重いのよ。魔法ギルドは案外戦力出し渋っているようだしねー」
以前にラナさんの酒場でお話した時と雰囲気は変わりませんでしたが、リンカさんは驚くほど戦況を把握していました。この方についてはブレイヴ・ピラーの胸が大きくて血の話ばっかりするお姉さん、くらいの認識でしたが、実はとてもすごい方なのかもしれません。
「おっと、あんまり油売ってると部下に怒られちゃうからそろそろいくねー。ポーションは持ってくるから待っててね?」
部下に怒られる? 普通、逆じゃないのかな……。
◆◆◆
トゥルーとラナンキュラスを乗せた馬は、アルコンブリッジに近付いていた。薄い土煙が風にのって届いており、ラナンキュラスは時折くしゃみと咳をしていた。
「ブリッジが見えてきた! 一旦、騎士団の本営に入って報告をする! ラナちゃんはそこで服装とか準備を整えてくれ!」
「トゥルー様! 騎士団の隊長の方にひとつだけ確認したいことがあるのです。一緒に行ってもよろしいですか!?」
トゥルーは予想外の言葉に一瞬、返答に困っていた。
「そっ……、そうだな! 隊長もラナちゃんに顔を合わせておきたいだろうから大丈夫だろう! だが、なんの確認をするんだ!?」
「ふふっ……、ボクの『力』を借りる覚悟があるか、ということですよ?」
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