第13話 すれ違いの二人-6

 酒場に戻った私は、店内にラナさんの姿があるのを目にした。離れに戻る前に挨拶をしておこうと思った。


「ただいま戻りました、ラナさん」


 酒場の扉を開けて声をかけると、グラスを片付けている彼女と目が合った。誰か来客があったのだろうか?


「おかえりなさい、スガさん。今日は早いお戻りだったんですね?」


「はい。日頃の運動不足のせいか、思ったより疲れてしまって早めに帰って来ました」


 私は適当な言い訳をして、離れに戻ろうとした。



「スガさん、お腹空いていませんか?」



 背を向けた私にラナさんが問いかける。そういえば、ブリジットと話しているとき、なにも口にしなかった。問われると急にお腹が減ってきたよう気がする。



「お腹空いていませんか?」



 振り返った私にラナさんはもう一度同じ質問をした。


「ええと、言われてみればなにも食べていませんでした。ラナさんはもう昼食は食べたんですか?」



「お腹空いていませんか?」



 ――えっ?


 私の返事が聞こえていないのか、彼女は同じ質問を3度繰り返した。彼女の顔を見てみると、不自然というか「無表情」という感じだった。


「えっ…と、ラナさん。私の返事聞こえませんでした?」


 私は質問を質問で返してしまった。


 すると、ラナさんは大きく息を吐き出した。「ふぅっ」という音がこちらにまで聞こえてくる。


「スガさん……。今の私の話に違和感を感じませんでしたか?」


「違和感――、ですか? たしかに同じ質問を繰り返されて変に思いましたが?」


「やっぱり……、スガさんにとっては『同じ質問』だったんですね?」


 なにか彼女の様子が明らかにおかしい。いつものラナさんと違う雰囲気だ。ここを出る前に私はなにかやらかしただろうか? 


 ――というより、「同じ質問」とはどういう意味だ?



「ごめんなさい、ラナさん。私にはお話の意味がよくわかりません」


 ラナさんは無言で首を横に振った。


「いいえ――、謝るのはこちらの方です。試すようなマネをしてごめんなさい」


 試す? 私はなにを試されたんだ? まさかお腹の減り具合ではあるまい。



「いいですか、スガさん。きっと無自覚だと思いますので、落ち着いて聞いてくださいね?」


 彼女は、その言葉で私を落ち着かせるかのようにゆっくりと言った。


 だが、この前振りは残念ながら胸中を騒めかせる結果にしかならなかった。一体ラナさんはなにを言いたいんだ?



「スガさんは……、『魔法使い』です」

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