第13話 すれ違いの二人-3
トゥルーは酒場のカウンターに座って、ラナンキュラスと話をしていた。ふたりはどうやら旧知の仲のようである。
「王国騎士団のお仕事は忙しいのですね?」
「オレは辺境に配置されていたからね。こっちの街に戻ってくるのも時々だったんだ」
彼は差し出された水を軽く口に含み、話を続けた。
「だけど、最近ちょっと配置換えがあってさ。中央の騎士団に入ったんだ。これからはちょくちょく顔が出せると思うよ」
「それはよかった。カレンもよくここに来ています。見かけたら声をかけてあげて下さいね?」
「カレンちゃんはあのブレイヴ・ピラーの『金獅子』だもんな。剣ではきっと敵わないだろうな……」
「有名になってますけど、あの子自身は全然変わってませんよ。もうちょっと落ち着いてもいいと思いますけど、相変わらずやんちゃです」
「ははっ、カレンちゃんは昔から腕っぷしが強かったからな。まあ元気そうでなによりだ」
トゥルーはそこで一呼吸おいてから、ラナンキュラスの顔を見つめた。
「ラナちゃんも……、元気そうでよかった。2年も顔を出さなかったのにこういうのもなんだけど、心配していたんだ。ご両親のことがあったから――」
ラナンキュラスは薄い笑みを浮かべて、少しの間目を瞑ってから言葉を返した。
「忘れることはできませんけど……、乗り越えるのはできると思っています。ふさぎ込んでいてもなにも変わりませんから」
ラナンキュラスが話し終えると、ふたりは無言になった。静寂の時がゆっくりと流れていく。
◆◆◆
「せっかくなんのしがらみもない世界でもう一度生きられるんです。自分のやりたいように、自由に生きたいと思いませんか?」
「言いたいことはわからなくもない。ただ――、お前の生き方に周りを巻き込むな」
しがらみに囚われない生き方。ひょっとしたら元の世界でブリジットが望んだのがそれだったのかもしれない。
「ユタカは真面目というか、けっこう堅物なんですね? あなたの現代的なものの考え方はこの世界では強力な武器になる。それは僕と協力することでより力を発揮できると思うのですが?」
「お前の目的がなんなのか知らないが、悪巧みに手を貸すつもりはない」
「そうは言いますが、1人と2人では大きな違いがあります。僕にとってもあなたにとっても『良い意味』で――、です」
また、ブリジットはテーブルに身を乗り出して話し始めた。
「ユタカは、この世界に来る寸前の西暦と日付って覚えてますか?」
これは一応、記憶……というより記録していた。なにかの時に役立つような気がしたからだ。
「……20××年×月×日」
彼は勝ち誇ったような笑みを一瞬だけ浮かべた。この日付になにか意味があるのだろうか。
「僕はユタカより早い時期にこっちの世界に来ています。そして、今の日付からあることが証明されました。それはこの世界と元いた世界での時間軸は一致している、ということです」
「こっちで1日経つと向こうでも1日経っているということか?」
「ようはそういうことですね。つまり――、仮に元の世界へ戻れたとして、帰ったらこっちに来る寸前の時間だった、とかは起こりえない。また、未来人とか江戸時代の人がこっちにやって来るとかもまずありえないといえます」
なるほど、同じ時間経過で進んでいっているのか。
「これって実はすごいことなんですよ? 時間軸云々の話ではなくて、1人だったらこれはいつまで経っても『仮説』なんです。それが2人になると『確認』ができて『確証』に変わります。これだけでも僕たちが仲間になる価値があると思いませんか?」
この男はどうあっても私を口説き落としたいらしい。まったく、モテてもうれしくない相手にはモテてしまうようだ。
私が返事をしないせいか、この場にしばしの静寂の時が流れた。
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