第15話 散策
父さんの読みではこの川の下流が怪しい場所の一つらしい。生活魔法で水を出す事もできるが、一杯の飲み水を出すだけでもかなりの魔力を消費する。生活に必要な水を確保するなら川の近くに住んだほうが楽である。
「家族で川辺でピクニック。楽しいわね~」
「そうだな。盗賊の件が片付いたら釣りでもするか」
目が覚めた母さんに家を収納してもらってのんびり散策中である。リベラに流れている小川と違って幅が広くて底も深そうだ。地図を見る限りでは途中で分岐してタタルまで繋がっているらしい。
「川が分岐するまでに見当たらなければハズレだな。その場合は街道を挟んで広がっている草原のどこかにアジトがあるだろう」
「草原にいたら探すの大変だね」
「そうでもないわよ?草原にはウルフとか魔物が多いから。安全な場所ってそんなに無いのよ。結界を使えるなら別だけど、高位の術者がこんな辺境で盗賊はやらないでしょう」
父さんと母さんはリベラ村に来る前は冒険者だった。その時の経験や知識を活かして予測しているなら信憑性は高いだろう。
「いろいろ考えてるんだね。勉強になるよ」
「お前ならすぐに慣れるさ。狩りだって半年で一人前になったんだからな」
「数年経つけど一人前になった実感は無いよ。父さんにはまだまだ追いつけてないからね」
「一人前のハードル高すぎだろう。20年やってる俺を基準にするな」
俺の頭をポンポンと叩きながら楽しそうに言う。父さんに言わせれば大きな怪我をせずに毎日狩りにいけるなら一人前らしいけど…
雑談をしながら数時間歩いて昼休憩。地図を見る限りでは結構進んでいる。日が暮れる前には川の分岐点に着くだろう。母さんに合わせて歩くつもりだったけど母さんは健脚だった…まあ、俺とほぼ同じ身長ですし。歩幅が一緒だから歩くなら移動速度は大差無いのだろう。
「これだけ歩いたのは久しぶり。やっぱり鈍ってるわね」
母さんは布の上で足を伸ばして休憩している。
「村から出るのは…何年ぶりだ?10年くらい前だったか?」
「それくらいだったかしらね。タタルで素材をまとめ買いしたのが最後かしら。ポーションの瓶とかは行商が持ってきてくれたから買いに行く必要なかったし」
リベラで延々とポーションを作り続けてたのか。まあ、母さんも楽しんで作ってたみたいだからいいんだろう。
「疲れたなら今日はここまでにしておくか?急ぐ旅じゃないからな。こうやってのんびりしてるほうが俺達の旅の目的としては正しい」
「まだまだ大丈夫よ。むしろ鍛え直さなきゃ。盗賊が気になるんでしょう?」
若いなぁ。確か、38で俺を産んだって言ってたから…今は55のはず。種族はヒューマンだけど長命種のエルフかドワーフの血が入っているんだろう。見た目20代だし。「50過ぎなんだから無理しないで」なんて言ったら(父さんに)殺される。
小一時間くらいダラダラと休憩して出発。しばらく歩いていると父さんが「人が集まってる場所がある」と。かなり距離は進んでいるが徒歩ならタタルから1日以上かかる距離だ。かなりの確率で盗賊だと思う。
「距離はどのくらいあるの?」
「このまま歩いて1時間くらいか。走れば5分ほどで着くと思うが」
「走って近づいたらすぐに見つかっちゃうよね…俺とアカネで偵察してこようか?」
気配遮断や隠密を使えば目視できる距離くらいなら隠れて近付く自信はある。
「そうだな…偵察は任せるが無理はするなよ?」
「大丈夫。危険だと判断したらすぐに逃げてくるよ」
「マーク。気を付けてね。ポーションはちゃんと持ってる?」
「2個あるから大丈夫。怪我したら迷わず使うよ。じゃあ、行ってくるね」
心配する2人を置いてアカネと一緒に下流を目指した。
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