第17話 この金髪ギャル、銃刀法違反だってよ②
「あ、あのー。ルイさんー?」
「ハァハァ……ちょっと待ってねー、金ちゃん。フ、フフフ、今いいとこだからさー……」
「プギョッー!」
あかん。これ完璧トリップしてるヤツだ。
ちょっと止めたくらいじゃ、この拷問ショーが終わる気配はない。
どうする。こっちに注意を向けられる何か。尚且つ、平和的でこれ以上騒ぎにならない手段は……
「ルイさん……と、友達になりましょう!」
「……とも……だち?」
メスを持った手がピタッと止まり、ルイさんはこちらを向く。
案の定、友情というものに飢えていたこのメンヘラさんは友達というワードに引っかかった。
ましてや、相手から友達になろうと言われたことなどなかったのであろう。それは、ルイさんにとってウルトラハッピーテンションブチ上げ的展開なのである。
「まじ!? 金ちゃん男に二言はないよ? あーし、嘘とかは特に許さないタイプだかんね?」
いきなりプレッシャーかけてくるなこの人。とりあえずメスこっちに向けるのやめようか?だから友達いないんだよ。
「まじです。だから、マサルのことこの辺りで勘弁してあげられませんか? ほら……せっかく友達になった記念日にあんまり血生臭いことになるのも……ね?」
俺の言葉にルイさんはまたしてもキョトン顔を浮かべている。
暫し何かを考えこんだ後、小さくため息をつきながら再度マサルの方へ振り返った。
「ねー、マーくん?」
「ブギッ!?」
「……今日のところは、金ちゃんに免じて一緒に死ぬのはやめてあげる。その代わりに……おーちに帰ったらあーしがどれだけマー君を愛しているか、沢山教えてあげるからね?」
いや、一緒に死ぬつもりだったのかよ。どこまでも重たいなこの人。
いつから付き合ってんのか知らんが、よくこのカップル生きてこられたな。
「という訳で、金ちゃんごめんね! あーし、すぐにでもやらなきゃいけない事が出来ちゃったからさ。マー君連れてこれから帰るね!」
「あ、はい。ご自由に……」
「マー君から連絡先聞いてメールするからね! ちゃんと返してね! んじゃ!」
そう言いながら、ルイさんはマサルの首根っこを荒々しく掴み、引きずるようにして帰っていった。
……嵐のようだったな。
つい最近まで波風一つたたないような日々だったのに、あの豚と関わってから日々災害に対峙しているようだ。
とりあえず俺はテーブルに戻り、すでに氷が溶けて薄まってしまったアメリカンコーヒーを一気に喉に流し込んだ。
うまい。なんか、大仕事を終えた後のビールってこんな感じなんだろうな。俺酒飲まんから知らんけど。
謎の達成感を感じつつも、一つ気がかりがある。
テーブルに置かれたサンドウィッチと、とんかつ定食。あと、なんか春のそよ風を感じちゃうクレープ。どうすんのよ、これ。
しかも、お代俺持ちじゃねえかチクショウ。
俺は食事2人前とデザートを嗚咽を交えながら平らげ、釈然としないままニコニコのお姉さんに3000円近くを支払い、ルイさんとの今後の関わり方を考えながら帰路を辿るのであった。
◇◇◇
"ティロン"
携帯が鳴り目が覚める。疲れ果てた上に満腹というコンボを決められた俺は、帰宅後またしても変な時間に昼寝をしてしまったようだ。
目を擦りながら携帯を見ると、メッセージが届いていた。これは……どっちだ?
恐る恐る開いてみると、送り人はマサルであった。アイツ、生きてたんだな。
愛を語られる過程で命を落としていてもおかしくはないと思っていたが、俺の努力が無駄にならなくて何よりである。
『本日は私の愚行に対しても最後まで見捨てることなく、救いの手を差し伸べて頂けたこと心より感謝致します。この御恩私の一生をかけてでも、誠心誠意お返し致します。本当に申し訳ありませんでした』
……何があった。もう人格まで変わってるじゃねえか。
ルイさんが更生プログラムでも施したとしても、こんな短時間でここまで変わるか? 洗脳レベルの恐ろしさだわ。
ん? まだ文章続きあるな。
『お約束の件の詳細を送らせて頂きます。浜中ウメさん(78) 遠藤ツネさん(82) 小林カツエさん(102) この三名が金之助さんのお相手の候補にあがっております。皆さん総入れ歯でございますので、ご安心ください』
ちょっと待て、なんの話しだ?
なんでいきなり、老人達の名前がでてきた。
俺は急いでメッセージを返す。
『何の話か全くわからないんだが?』
『私が助けを求めて叫んでた時の話しですよ。"助けてくれたら、金之助のストライクゾーンの70歳から85歳の女の子(おばあちゃん)紹介するから! ちゃんと入れ歯で股間叩いてくれるように、総入れ歯のドS娘(おばあちゃん)紹介するから!"と、約束したはずですが。」
……なるほど。あのファミレスでの周りの反応はそういうことかよ。ふざけんな、あの豚。
カツエさんなんか100歳超えてるじゃねえか。逆によく候補にあげられたな。
『その話しはナシにしてくれ。そもそも、俺にそんな性癖はない』
『それはとても残念です。カツエさんに至ってはとても前向きに捉えて下さっていて、元気よく入れ歯で素振りを始めていたのですが……』
ですが……なんだよ?
"あー、せっかくのご厚意だから一発股間叩かれてみよっかな?"ってなるか、ボケ。
老人の数少ない楽しみ潰したようで心苦しいから、余計な情報与えてくんな。
返信する気も失せて、俺は携帯を放りそのまま寝そべる。
"ティロン"
なんだよ、アイツ。返してないのに送ってくんなよ。面倒くせえな。
"ティロン" "ティロン" "ティロン"
なんだ? 俺の携帯が絶え間なく鳴っている。……嫌な予感がする。携帯越しからでも伝わってくる独特なプレッシャー。
昼間の"ちゃんと返してね"という声が脳内に響き渡り、俺は急いで携帯を確認した。
『こんばんわ! ルイだよ(^^) 金ちゃんと友達になれて嬉しいな!』
『これからあーし達マブ達だね! ニコイチ的な? ソウルメイトかな!?』
『これから、沢山遊ぼーね! あーし、まぢテンションぶち上がり中!」
『あ! 人生相談とか恋愛相談とかいつでも受付中よ! あーしに任せといて!』
"ティロン" "ティロン" "ティロン"
まだ携帯は鳴り続けている。初っ端のやり取りでこんなに連投するか? コミュニケーションが一方通行じゃねえか。
……俺の騒がしい日々はまだまだ続きそうだ。
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