第3話 豚があげるは、タバコの狼煙②
豚が鳴き声をあげると、周りにいた小学生3人がワラワラと集まってきた。
「どーしたの、ブーちゃん? 集合かけて」
「この童貞臭い人だれ?」
「なんでもいいけど、僕腹減ったどー」
はい。まとも・クソガキ・バカのそれぞれ個性を持ったお子さん達ですね。大体わかりました。
……ちょっと待て。普通に知り合いなのか? しかも、ブーちゃんって豚だと認識されているのか?
「ねえ、君達ちょっと聞きたいんだけどさ。コイツ……豚だよね?」
「え……? う、うん。豚さんだね」
「どっから見ても豚だろ、何言ってんだ。頭沸いてんのかお前」
「僕は、豚丼が食べたいどー」
やっぱり……豚なのだ。
豚っぽい小さなおじさんが猥褻物陳列罪を逃れていたワケでもなく、俺の目や精神がおかしくなったワケでもなかった。
っていうか、まともな子だけでいいから、他の二人は黙っててくれないかな。
「君達はこの豚と知り合い?」
「知り合いというか……よくこの公園にいるから。顔見知りというか……」
「さっきからなんだ面倒くせえな。てめえ、童貞のロリコンか?」
「豚肉は玉ねぎやヨーグルトを使うと柔らかくなるどー」
へえー、そうなんだ。タメになる。
いやいや、今はそんな豆知識どうでもいい。
そして、二人目の子はどんな家庭環境で育ったらこんな性格になるんだよ。初対面の大人に対してこれはヤバいだろ? 悪魔の子なの?
「じゃあさ……その、おかしいよね? 普通に公園にいたり、こんな風にタバコ吸ってたり。コイツ、パチンコ打ったりするんだよ?」
「えっと……ブーちゃんがタバコ吸ったり、パチンコ打ったらおかしいの?」
「なんだコイツ、本当に言ってることおかしいぞ。通報するか?」
「お肉を叩いたり、筋を切ったりするのも効果的な調理法だどー」
もうツッコむのが面倒臭くなってきたけど、とりあえず通報だけは勘弁して下さい。
ほんと、すんませんでした。
それより、なんだこの反応。
子供達がコイツをちゃんと豚だと認識していることは間違いない。
ただ、その豚が人間のような振る舞い、生活を送っている事に関しては、異常だと感じていないようだ。
これが幼稚園児ならまだわかる。
ただ、この子達はある程度の一般的な常識や倫理観は得ているであろう、小学生でも高学年の子供達だ。
いや、子供達であれば尚更、こんな奇想天外はすぐにでも騒ぎ立て、友達に喋りまくり、SNSに拡散し、世にも奇妙な豚として世間に取り上げられていてもおかしくないんだ。
しかし、そんな様子は一切ない。
少なくとも俺の町ではこれは奇想天外でもなんでもなく、日常の一部として捉えられている。
やっぱり俺がおかしいのか……?
「プギギー、フゴフゴッ。ブブギョー!」
大人しく俺達の会話を聞いていた豚が急に鳴き始めた。
それと同時に、小学生達が興奮し騒ぎ出す。
「ほんと!? ほんとにブーちゃんの尻尾触っていいの!?」
「マジかよ! めちゃくちゃレアじゃねえか!」
「ぶ、豚テールのデミグラス煮込みだどー!」
小学生達は"わーわー"言いながら、豚の周りに集まり、我先にと豚の尻尾を触ろうとしている。なに? 豚の尻尾ってそんな人気なの?
バカの子に至っては少し目つきがおかしい。
発言からして捕食する気満々なのではないかと察したが、とりあえずスルーしておこう。
それより、気になってはいたがこの豚の言っていることが普通にわかるのか?
本当はすぐにでも問い質したいのだが、またそんな質問をすると、さっきのように俺が異常者のような扱いを受けるのは目に見えている。
少し様子を見るとするか……。
豚に群がる小学生達を観察していると、豚はポーチバックからタバコを再度取り出し、俺に見せつけるように火をつけて吸い出した。
俺を見下しているような、蔑んでいるような、これ以上にない程ムカつく顔を浮かべている。
「ブーー、フヒィィィ」
鳴き声もめちゃくちゃムカつく。なんだ? 挑発されているというか、煽られているというか……とにかくムカつく。
ああ、そうか。これは、俺に対しての当て付けだ。
公園での至福の一服に文句を言ってきた俺に対して、"俺はこんなに子供達に人気なんだ。なんか文句あんのか? 豚野郎"とでも言っているようだ。豚はてめえだろうが。
だから、急に子供達に媚びるように尻尾を触っていいとか言い出したのだろう。
そもそも、人気がどうとかいう話しではない。禁煙エリアで喫煙をするなという話なのだが、現状そんな事を主張できるような空気感ではなかった。
というのも、今や子供達が群がる人気物に対して、俺は変な事を言うロリコン異常者という立場である。
とても何かを意見できるような状況ではない。
くそ、豚のくせにバカにしやがって。とにかくその腹立つ顔やめろ。
そっちがそのつもりなら、こっちだって人間様の威厳ってやつを見せてやろうじゃねえか、覚悟しろ。
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