限界チャンピオンズ!

SUMIYU

あつまる仲間

第1話 俺は異世界へ!

「ユウダーーーーーイ!!!」


 あいつらの絶叫。

 俺は振り返る。

 目の端を照らすまぶしい車のライト。


 ド ッ !


 バ ン !


 衝撃。二度。冷たい。


 最後に目に映ったのは、濡れた路面に映る町の光。


 ああ…


 俺は、力を失って目を閉じた。


━╋━━━━


 目を開ける。レトロな感じの木の天井が目に入った。俺はベッドに寝ていて、やわらかな毛布に包まれている。

 あたたかい光だ。枕の上で顔を傾けると、小さな木枠の窓から日の光が差し込んでいる。起き上がろうとすると首と体が痛み、俺は顔をしかめた。

 

 どこだ、ここは…。

 俺は、思い出そうとした。俺は…えっと…。


「ああ、気がついたのね!」

 大きな声がして、女の人の顔が視界に入ってきた。至近距離で俺の顔をじっと覗き込んでいる。

「えっと…。」俺は戸惑う。

「気がついた!気がついたわ!5番の男の子!」

 俺がキョトンとしていると、女の人は叫びながらドタドタと走って部屋を出て行ってしまった。


 数分後。さっきの女の人が、やけに背の低い爺さんを連れて戻ってきた。その爺さんは肌が炭みたいな色で、長い白髪を編んでいた。頭にちょこんと毛皮の帽子を乗せている。

 女の人は爺さんと少し言葉を交わすと、部屋を出ていった。

 俺はなんとか半身を起こして、不思議な爺さんをじっと見つめた。


「アー、お前さん、目が覚めたかね。気分はどうかな?」爺さんが低い声で言った。

 俺はぜんぜん状況が飲み込めないので、何を言っていいのか分からず、黙っていた。改めて目の前の二人を見ると、二人とも昔っぽい服を着ている。ゲームみたいな…。ゲーム?ゲームってなんだっけ。


「オーイ、わしの言っとることがわかるか、青年?体の調子は?」

「あ、はい。全身が痛いですね。」

「ウム、何かにぶつかったのだから、そうだろう。」

「ぶつかった?」

「ウム。何も覚えとらんか?名前は?」


 名前。名前?

 俺の名前?

 えーと…。


 ユウダイ。


「ユウダイ。そう、ユウダイです。俺、ユウダイ。」

「ア、ソウ。ユーダイね。で、その他はなんか覚えとるか?」

 爺さんがいぶかしげな目つきで睨んでくる。

「ええと…覚えてるのは…まぶしいライトが、パッと光って…。そう、地面が濡れてました。雨、雨かな。あとは…うーん。」

 おぼろげな光景以外、本当に何も思い出せない。俺は言葉に詰まってしまった。


「ハァ、今回もダメか。」

 炭色の小さい爺さんは、目をつぶって、肩を落としてしまった。

「ダメって…何がですか?」

 俺はおそるおそる尋ねた。ダメとは?俺が何かダメってことか、あるいは…?


「ウーン、何度説明してもこれはややこしい話。それとお前さんの理解力次第。」

 爺さんは丸顔の中央に鎮座するえらく高い鼻をこすりながら、どう切り出すか悩んでいるようだ。しばらく考えてから、話しはじめた。

「アー、端的に言うとお前さんは死んだ。」

「俺が、死んだ…?」

「ソウ、死んだわけだが、死ぬときに強い衝撃を受けた。例えば…暴れウシとか、大きな落石とか、竜の尾とか、そういったものに思いきりぶつかって死ぬとするわな。すると、魂がスポーンと飛び出してどこかに行ってしまうことがある。ここまではよいな?」

「はあ。」


「デ、勢いよく飛び出した魂が、何かの偶然で引っかかると、別の世界に行ってしまうと。そういうことがあるのだ。『世界』というものは無数にあるようだ。お前さんも聞いたことはないか、死後にどこかに行くという話を?」

「天国とか地獄とか…。」

「オー、そうそう。理解が早くて助かるわ。多くの者がそういう世界を夢見ていてな、あえてそこに行こうとして努力したりもする。人生で何かの点数をためるとか、決まった死に方をするとか、呪文を唱えるとかな。自分の今生きている世界とは違う、そういう『異世界』は、およそ想像できる限りの場所が実際に存在するともいわれる。ここまではよいな?」


 爺さんの話は謎めいてるが、なんとなく言いたいことが掴めた気もする。

「じゃあここは…。」

「ウン、お前さんにとっては異世界ということ。」

「えーと…俺は、死んで、魂が飛び出して、今ここで別の世界にいるってことですか?」

「オー、その通り!それに関してはその通り、と断言できる。ここでは魔術師が、飛び出し彷徨さまよう魂を捕まえるために日夜、術を使っている。いわば釣り糸、もしくは網を下ろしているのだ。よいか?」

「じゃあ俺はわざとここに連れてこられたってことですか?」

「ウン、まあそうだな。お前さんの魂が飛び出してくるのと、うちの魔術師の釣り糸がうまくかみ合ったというようなことだ。こうしてやってきた者たちを、転生者と呼んでおる。」


 この爺さんが言うには、俺は元いた世界で死んで、ここに連れてこられた転生者らしい。面倒な話になってきたぞ。魔術師まで出てきた。魔術師。魔法使い。とんがった帽子をかぶって杖をもってる人の姿が思い浮かぶ。

「えーと…俺がその、転生者だとして。そもそもなんで、わざわざ魂を連れてくるんですか?」

「ウン、それはな、人材を探しとるのよ。」

「人材?何の?」


「ダンジョン潜りだ。」

 爺さんは言った。


 ダンジョン潜り、とは…?

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