第28話 実家

 釣り堀を出てバスで駅に向かったフェイトたちはその足で故郷に戻る。

 今回のデートは自宅ではなく開の実家がゴールでありそこでは彼の家族が待っていた。

 両親と妹が一人。

 既に連絡済で夕飯を用意しているそうだ。


「晶はいいとして、フェイトがうちの両親と会うのは何時以来だっけか」

「そうね……お母さんとは定期的に会っているけれど、お父さんは開が今の家に引っ越してきたときが最後かも」

「俺が実家を離れてからは母さんは家に帰ってきてるけれど、親父は相変わらずフラフラしているもんなあ」

「仕方がないって。それがお仕事なんだからさ」


 開の両親は家伝の流派を教える師範として活動しているわけだが、家を開けて各地を飛び回るのが主。

 今の仕事を始めたばかりだった彼が高校生の頃は各地を転々とする父親に母親も同行する始末。

 フェイトも開の両親についての主な記憶は、まだ彼らが家にいた彼女が幼い頃の記憶が殆どだった。


「おかえり。それといらっしゃい、フェイトお姉さん」

「そういう晶ちゃんも久しぶり。元気していた?」


 家につくと晶がフェイトを出迎えた。

 彼女とフェイトは未来の姉妹としてではなく、幼馴染として頻繁に連絡を入れる間柄である。


「いつも連絡しているじゃないか。もちろん元気だよ」

「そうとは言ってもメッセージだと空元気かもしれないから心配していたわよ。保母さんって忙しいと言うし」

「今のところ体は平気だよ。覚えることが多いから、頭のほうが結構しんどいんだけれど」

「まあ積もる話は後にしろよ。さあさあ、フェイトも遠慮せずにあがってくれ」

「とりあえずお兄ちゃんは早く台所に行ってよ。お母さんから話があるってさ」

「話ってなんだ?」


 家について早々に母親から呼び出された開は台所に向かう。

 残された二人は居間に向かうと、久々に直接顔を合わせたのもあり女同士の会話に花を咲かせる。

 仕事の愚痴に最近やっているゲーム等の趣味の話。

 それに晶はフェイトの気持ちを昔から知っているのもあり、思いが通じた今の暮らしについても興味が尽きない。

 メッセージでのやり取りでは聞きにくい下世話な話もつい気にしてしまう。

 フェイトと開は来年には婚姻も視野に入れている男と女の関係。

 そして晶も21歳の年頃となれば、そういう話が出るのも自然であろう。


「最近はちょっとご無沙汰になっちゃっているわね。私も仕事が忙しくて開も学校やバイトがあるから休みがなかなか合わなくてさ」

「若いんだから気にせずに甘えて良いと思うけどなあ。お姉ちゃんと一緒であっちも結構ムッツリしているし」

「それは流石に理解はしているけれど……こっとも色々とね」


 流石に幼馴染としては夜の恋バナにも花を咲かせるのだが、近頃ご無沙汰の理由までは未来の妹には言えなかった。

 まあご無沙汰とはいえ頻度が少ないだけの話ではあるし、何なら家に来る前にもそれなりに満足が行くデートをしたきたばかり。

 そういう意味ではフェイトも余裕を持っていた。

 晶の方は出歯亀的にはそこのところを詳しく聞きたかったのだが。


「まあこういう話はこのくらいにして……やっぱり最近は生け花のゲームがアツいから、晶ちゃんもやってみない? 1セット10分もあればできるから手軽だし」

「生け花って言っても『アレ』でしょう? 私はちょっと苦手かなあ」

「まあ強制はしないって。アレが苦手と言いつつ私と開の事情は聞きたいってあたり、やっぱ晶ちゃんもまだまだ子供なんだから」

「私だってもう学生じゃないのに」

「でもまだ恋愛経験はないんでしょ? 晶ちゃんは相手を探すのに苦労しそうに思うわよ。知らない間に男を捕まえてきたミレッタみたいに、異世界にでも行かなきゃ良い相手とは出会えなかったりして」

「流石にバカにしすぎだよ」

「ごめんごめん。ただ……どうしてもというときには相談してよ。晶ちゃんみたいに若くて腕っぷしが強い女の子なら引く手数多って世界もあるからさ」

「まあ……最悪の場合には頼りにさせてもらうけれど……」

「流石に今は保母さんになったばかりだし、急に異世界に行くだなんてことは考えられないか。叢神流の跡取り以外でやりたいことがようやく見つかったんだし、今は全力で保母さんをやらないとね」

「うん、そうだね」


 叢神家には開やフェイトも嗜んでいて、現在不在の父親が布教活動をしている家伝の流派がある。

 今でこそ新米の保母である晶には流派の跡取りという役目があり、将来的には婿を取ることが望ましい立場。

 そんな少し特殊な立場だからか中学高校では剣道部で浮いてしまったりして、晶は同級生を恋愛対象として意識した経験がない。

 晶には自分の兄に長年寄せていた好意が実を結んだ今のフェイトが羨ましかった。


「仕事も頑張らないとだけれど、私もお姉ちゃんみたいに彼氏とか欲しいな」

「あら、だったら丁度いい相手がいるわよ」

「お母さん?」


 フェイトに当てられてポツリと漏らした晶に対して後ろから声をかけたのは夕飯を持ってきた母。

 彼女が言う丁度いい相手とは──


「俺や父さんの知り合いに宮沢さんって人がいるんだが……そこの跡取り息子と会ってみないか?」

「鬼市くんって言うんだけれど、前に母さんが会ったときの印象としては逃したら勿体ない好青年って感じだったわよ。何よりタフだし」

「嫌だよそんないちいち『しゃあ!』とか『なにっ!』とか騒いで暑苦しそうな人。宮沢さんって言えば真陰流でしょう? 絶対に面倒そうだよ」

「そう言われてもアンタ自分より弱い男は嫌だって前に言っていたじゃない。あそこの跡取りなら間違いなく強いわよ」

「あれはまた条件が違うって」

「そうゴネるなよ。父さんの顔を立てて会ってみるくらいなら良いじゃないか」

「いーやーだー!」


 急に湧いてきた見合い話に拒否反応を示す晶を、フェイトは気兼ねない部会者としてニヤけた瞳で見つめる。

 到着早々に開が母親に呼ばれたのもこの話を晶に伝えるためかと納得し、男と縁のない晶には見合いも良い機会ではないかと思いにふける。

 妹自慢をするつもりはないがフェイトにとって晶は自分よりも美人という認識。

 そんな美人だからこそ、フェイトは妹にも春が来てほしいと上から目線ながら思っていた。

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