第22話 竜騎士ショウ
竹刀を逆手に構えたショウはあからさまに間合いの外でありながら起こる。
空振りにしかならない素振りをして何をする気かと小首を傾げるフェイトをショウの剣が襲いかかった。
漫画のような飛ぶ斬撃。
孤を描いて飛来する衝撃派は反応があと少し遅れていたら、竹刀で受け止めようとも竹刀ごとへし折ってフェイトに当たっていたであろう。
「子供でも流石はトライバンの弟子ってわけね」
「腕試しとしてちゃんと加減が出来ているからこの程度で済んでいるけれど、ハッキリ言って貴女が倒した二人よりもショウくんは強いんだから」
「それは凄い」
フェイトは「特にちゃんと手加減出来る部分が」と、付け足そうかとは思うがそこは言わない。
(さて……どうやって攻略しようかしら)
竹刀同士でのチャンバラという勝負形式において、距離をおいて攻撃できるショウの技は厄介である。
しかも威力は渾身の力で直接打ち付けるのと大差はない。
それどころか、仮にこの技を掻い潜って接近しても、満を持して放たれる直接攻撃威力は更に上になりそうだ。
飛ぶ斬撃以上にこの技の威力が厄介そうだと、フェイトは舌で唇の乾きを潤した。
「近づけないのならこっちから行くよ」
攻めあぐねる様子のフェイトを見て、このまま畳み掛けんとショウは間合いを近づけた。
竹刀は已然として逆手持ち。
持ち方的にリーチを狭める彼を前にして、斬撃を飛ばさない以上はその利を生かさない手はない。
正面に飛び込んできたショウの肩を狙ってフェイトは突きを放つのだが、その程度は想定内と言わんばかりに掠めるように躱したショウはフェイトの懐である。
そのまな逆手に持った竹刀を振り上げればトライバン流刀法奥義、トライブレードが直撃して彼の勝利は決まりそうだ。
「いっけー!」
レオナの声援を受けながら竹刀を振り抜くショウ。
避けきれないと判断したフェイトは苦し紛れに自分の竹刀を立てて盾にした。
受け止めても竹刀ごと持っていかれそうな強い衝撃を回転することでいなしたフェイトは竹刀を振り回してショウの首筋を狙う。
そのままフェイトは竹刀を首筋に寸止めしたが、これが真剣を用いた立ち会いならば剣が先に折られて勝負になっていないだろう。
一応の結果はフェイトの勝利と言えるが、実戦ならば彼女は負けである。
「残念。やっぱりあの二人を倒した相手には俺じゃあ勝てないか」
「そんなことないわよ。竹刀だからトライブレードをガードされただけで、ショウくんの剣を使っていたらあんな防ぎ方はできなかったんだし」
「そうですね。それに色々な意味でようやく元勇者の愛弟子らしい子と会えたと思いますよ」
フェイトとしても試合に勝っただけという認識でもあるため、ショウを慰めるレオナに乗って彼を褒めた。
それに問答無用で襲ってきたユルゲンやフジマと比べると、自他ともに認める「実戦ならば真逆になっていたであろう」結果を素直に受け入れて落ち込む姿が可愛らしくもあり、レオナが溺愛するのも納得してしまう。
「ありがとう。お世辞だろうけど嬉しいよ」
「そんなことないですって」
「まあこれ以上は言っても意味は無いか。そうそう、オレのワガママはここまでにして、そろそろフェイトさんを先生のところに連れて行かないと」
「それはありがたい」
「じゃあわたしの背に乗りなさいな。遠慮はいらないわよ」
(レオナさんの背に乗るって、また言っているけれどどういう意味かしら?)
そろそろトライバンの元に向かおうと切り出すショウにフェイトは乗るが、再び背に乗れと言うレオナにフェイトは小首を傾げる。
しかしその疑問は程なくして解けた。
まばゆく閃光を放ったレオナを包む光が消えると、先程までいたレオナのかわりに大きな竜が出現していた。
だが突然の出来事に困惑するフェイトに説明する声はレオナのモノ。
一体どういう理屈か。
「さあ、ショウくんに従って早く乗って」
「えっと……どういうこと?」
「わたしは風竜姫──ようするにかつての風の魔王、ロガの娘なのよ。ロガは竜の血を引いていて、自身も竜に変化する能力を持っていたから、娘のわたしも同じことが出来るってわけ」
「なるほど」(ぶっちゃけわからん)
とりあえず相槌を打ってレオナの背に乗るフェイトだったが、わかったのは彼女が風の魔王の娘ということだけ。
ウインドロッドの地主ということはそれを踏まえれば当然なのはわかるのだが、魔王の娘だから変身できるという話には「文化が違う」としか言えなかった。
ただでさえ、以前会った炎の魔王の娘にはそのような能力はなかったので余計にである。
それでもフェイトは疑問を顔に出さないように心がけて、トライバンの元への到着を待つ。
ブラフマンの指示で様々な世界を飛び回る関係上、このような不可解はよくある話なので、いちいち突っ込んでいたら身が持たないからだ。
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