第62話:泣ける話じゃね~か



「右翼2個中隊。撤退完了。

 敵1000弱。逆落としに攻めて参ります!」


 煙幕の張られていない場所まで撤退した2個中隊を追って、上杉の左翼部隊が突撃を開始する。


「銃兵は全員右の敵を狙撃! 放てぃ!」


 利家のに~ちゃんの号令で、1500の銃口が敵の突撃を圧倒する。

 もう一式弾の大盤振る舞い。

 全弾撃ち尽くしてもいいよね。


 早合で4斉射。

 6000発の狙撃が1000人もいない敵部隊を壊乱させた。


 敵の中央は煙に隠れて戦況を把握できないらしく、まだ突撃してこない。結局『戦場の霧』、つまり情報の不確実性を演出した両兵衛。

 流石だね。

 でもきっとこれも「流石は殿!」になっちゃうんだろうなぁ。



「銃兵を戻せ。敵中央の突撃がある。あれを使った後に面制圧射撃を行う」


 自分でも「あれ」とか言っちゃいました。

 やっぱりもったいぶる時は、この言葉いいよね。


「は。偽報の計もそろそろ効果が出るかと」

「して、信長様にはいかが伝えましょう?」


 このまま戦って敗退した時は、馬で逃げられるものは逃げて、それ以外の者はわざと逃げる予定だけど、追いつかれちゃうよね。絶対に。


「滝川殿の鉄砲隊を予定通り潜ませるとともに、3000人規模の後詰を寄こしてもらいたいと」


 一応あらゆることを考えておこうね。

 死なないように。

 できれば一人も死なないでほしいけど、戦争なんだから仕方ない。

 出来るだけ早く戦国時代終わらせるんだ!


「では殿。采配を」


「あい分かった。

 明智機動部隊、全員に告ぐ!

 これより死地に入る。だが安心せい。無駄には死なせぬ。明智の家臣1人に対して、上杉の兵10人のキルレシオだ。

 1人10殺。

 100人も死ねば、敵の1/10は死傷する。さすれば上杉勢は崩壊。越後へ逃げかえるであろう。

 励めぃ!」


 応!!!!


 いよいよ、ドラゴン退治のクライマックスだ。

 ……やっぱり虐殺になっちゃうんだろうなぁ。お互いに。




「上杉勢先鋒。白煙から出て参ります。距離200m」


 結構早く白煙が途切れちゃいました。

 こっちの布陣がそろそろ見えてくるでしょ。

 すでに南の敵左翼は崩壊しているけど、偽報で気づかない。そこには慶次のようやく到達した胸甲騎兵の1個中隊と本部中隊が突撃を準備している。


「投石開始せよ。

 150で狙撃開始。

 100で一斉射撃だ」


 全ての弾を撃ち尽くせ。

 あとはもう知らない。駄目だったら逃げるさ。


「殿。殿はすぐに逃げられるように後方へいてください」

「そうです。殿がいればまだ天下を狙え……モゴモゴ」


 ありがとな。

 でもヲタクにも、ヘタレにも意地というものがあるんだよ。


殿しんがりは俺がやる。もしもの時は皆を頼む」

「「なりませぬ、殿!」」


 すみません。

 言うだけです。

 ここで意地を見せて置けば後々得をするんじゃないかと思っただけで……


「十兵衛よ。お前という奴は……

 感動したぜ。

 この前田利家、イザというときは皆をまとめて後退して貴様の骨を拾ってやる。

 明智光秀の馬印が倒れたときは、完全に勝ちに乗って上杉勢は釣り野伏せにかかるであろうからな!」


 まってよ!

 そんなつもりじゃないんだよ。

 ねえ、みんなそんなに感心した顔しないで?

 口先男だよ? 俺。

 光秀を漢にしなくていいからさ。

「殿、最初に御逃げ下さい」とか言ってよ~><;



 ……しかたない。

 ここで勝てばいいんでしょ?

 勝ってやる。

 完勝してやる。

 上杉勢を殲滅してやる!


「よし、後顧の憂いは断った!

 皆の者、全力で目の前の敵を粉砕する。

 全火力を一斉に投射!」



 まずはスリングショットのパチンコ玉が飛ぶ。敵が怯んだ。

 次は投槍器で投げやりが百本以上、敵の先鋒の兵を串刺しにする。

 まだ突進は止まらない。流石は越後勢。

 しかし


 どごごごご!ん!!


 まだ車軸が弱いがここまでなんとか引きずってきた9ポンド砲の4kg丸弾が敵の中央に風穴を開ける。

 たかが丸弾なので大した被害は出ないが、敵に恐怖を与えるのには十分だ。


 恐怖で立ち止まった敵に全鉄砲での三段撃ち。

 300発が3回。

 狭い谷に集中して交錯した。


 敵次鋒壊滅。

 残兵は壊乱して逃げていく。

 そこへ追い打ちをかける慶次の騎馬隊500。


 北の山では壮絶な戦いが繰り広げられている。

 騎馬隊は機動力がそがれると、攻撃力を生かせない。

 だが騎乗した状態で振り下ろす太刀によって多くの越後勢が斬られている。それでも弓兵の射撃で打ち倒されていく明智勢。


「敵三の陣、甘粕景持。逃げ帰る味方の兵と交錯。混乱しております」

「再装填できた砲より混乱している敵に向かって射撃」


 次から次へと目まぐるしく戦況が変わる。

 光秀、目が回ります。


「十兵衛よ。やっぱりここは俺が先陣を率いなければならないだろ?

 行って来る。何かあったら松を頼む」


 え?

 俺じゃなかったの、先陣。

 周りをきょろきょろすると、皆が笑っている。


「まさか殿を先陣にするとか、殿しんがりにするとかありえないでしょう。単なる冗談です」


 え?

 俺、真面目な武将演じていた筈なんだけど。


「十兵衛よ。お前、無理しているのバレバレだったの気付かないとでも思っていたのか?

 みんなはなから、お前がヘタレで臆病で、セコイこと知っていたぜ。だがな。そういう光秀だからついて来たんだよ。

 かしこまって冗談の通じないような偏屈な奴、どんなに優秀な武将でもお断りよ。

 明るい武将が良い!

 おまえは満点だ!!」


 な、なんか慰められている?

 褒められている?

 認められている?


 バレていて持ち上げられていた?


 なんだよ。

 ほっぺに雨が当たっているじゃないの。どんどん濡れてくる。

 雨は鉄砲の天敵。


 雨がザーザーぶりになる前にケリをつけよう。

 皆で祝杯をあげような。

 今度は仮面はずしてもいいよね。


 骸骨先輩。

 光秀、玉座から降りさせていただきます!


 ……降りたらどうなるんだろ?

 降りたら降りたで、心配が絶えない光秀です。


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