第54話:ここは川中島ではないです(第10章おわり)

 

 意外と邪神オニミーノの軍勢は少なかった。

 なんだよ。ビクビクして損した。純情な俺の心をもてあそびやがって!


 およそ1500人?

 武田勢27000のうちの5%くらいかな。じゃ20人近く侍大将級がいるのか。人材豊富だね。


 赤備えみたく迫力はないけどしぶといね、こいつら。

 時間的な余裕があったからかな。矢盾用意している。もちろん鉄砲は貫通するけどね。その向こうの甲冑までは貫けない。


「殿。第2大隊半数を敵の左に回り込ませます。それでよろしいでしょうか?」


 いや、半兵衛っちの作戦です。光秀は差し出がましいことは言いません。


「うむ」


「では伝令。第2大隊第1第2中隊、500名。騎乗して左回りにて馬場隊の北より射撃。本隊の突撃の援護をせよ」



 少しすると北に回った部隊から鉄砲連射音。

 武田勢の弓兵、結構頑張っているね。遠矢をビシバシ射て来て危ないったらない。


 ひゅん。


 光秀の馬に当たりそうになった。

 当たったらお馬さんが可哀そうじゃないか! 即座に加速。飛んで来た矢をつかんでボキッと折って捨てようとしたけど、ついでなので武田の方へ投げる。


 お馬さんに乗ってから加速を解く。


「殿さん。馬場信春が落馬したぜ。どうやら流れ矢が当たったらしいが。明智機動部隊は矢を使っていないが、なぜだろうな」


「同士討ちでありましょうか?」


「何でもいいさ。ここが勝負どころ。殿さん、突っ込んでいいか?」


「あ……ああ。慶次、馬場隊を蹴散らせ」


 な~んでしょ?

 何が起きたか光秀、知らない。

 馬場よりもお馬さんの方が大事です。




「十兵衛よ、第1大隊1000、突撃準備できたぜ。目の前の信玄の本陣、どう攻める?」


 真っ白な歯をキラリとさせながら、利家のに~ちゃんが馬上から命令を待っている。

 俺はさりげなく隣の半兵衛っちの方を見て、「作戦どうします?」と無言で聞く。


「殿。信玄本陣は4000ほどかと。それに後備えも堅固。多分逃げる時の準備もしておりましょう。こちらへ向けている兵は半数の2000と思います。ここに突入するのはいたずらに兵を消耗するのみで、信玄をうち洩らす事に」


 俺は、秘儀「信ちゃんの真似!」を発動。

 続けよ、という視線を送る。


「こちらの兵力3500。しかし2000は騎馬。機動力は勝りまする。2人乗りをしてきた第2第3大隊は、ここで射撃後に突撃する準備を見せます。まだ余裕のある第1大隊と慶次殿の直轄騎馬隊で北側に回り込み……」


「そこに突撃をかけるか!?」

「いいえ、慶次殿は第1大隊とともに、そこで待機。時を見計らって突撃を。第1の第4中隊250をつけ、賤ヶ岳13人衆を信玄の逃亡可能ルートに伏せます」


「では台地上から追い落として、狙撃をすると?」


 義元の時と同じ感じ?

 でも今度はもっと纏まった人数の敵がここに集結しているけど。特に山県隊の赤備えが機動力を生かして助けに来るんじゃない?

 それを質問すると。


「ご主人様。甲賀の者が谷間に伏せていますです。騎馬は縄を張って落馬させるです」


「おお、偉いぞアゲハ!」


 久々に頭ぽんぽんを戦場でしてもらい、ごろごろ転がって嬉しさを表現しているアゲハ。


「で。俺はどうする」


「はっ。殿は……」


 なんか嫌な予感がする。


「やはり謙信でも取れなかった信玄の首を狙っていただきたく。一騎打ちを。逃がしても不可能を可能にする13人のスナイパーが伏せております」


「おお。絵になるな! 冬木殿が行きたかったと悔しがるであろうな! 十兵衛よ」


「おうよ。殿さんの生きる伝説を後世に伝えねばならねぇ」


「アゲハ、代わりに絵を描くです!」


 それはやめて置け。


 結局、こうなっちゃうのか。

 信玄って個人的な武力ってどうなの?

 ツオイ?

 よわっちい?


 よわっちい事を切に希望する光秀です。



 地図です

 https://kakuyomu.jp/users/pon_zu/news/16817330651064363364



 ◇ ◇ ◇ ◇



 南で合戦の協奏曲が聞こえる。

 合戦協奏曲。


 信長がここにいればきっと素敵なマンガになるでしょう?

 あの作品は秀逸でした。


 信玄本陣を救援に来れる武田勢はほとんどいません。家康君が攻勢に出てくれたみたい。酒井君が突出したせいで、その救援も兼ねているのかな?


 とにかく信玄本陣までは下り坂。信玄は結構焦っているんじゃね?

 正史と全く正反対。地形的に有利な明智機動部隊です。


 でももう少しすると夕日がまぶしくて射撃がしにくい。早く決戦しないとなんです。


「準備ができました。東の第2第3大隊に突撃の素振りをさせます」


「そして次に北の第1が突撃だな」


「はい。その後に……」


 俺がその更に西を少数の騎馬で突撃。

 普通さぁ、部隊長とか大将って本隊の中央にいない?

 せめて先陣を切るとかさ。


 なんで別動隊指揮するんだよ?

 今回も別動隊。


「信頼しております」

「殿さんなら俺よりも迫力あるぜ」

「十兵衛には鬼神が宿ているからな」


 とか、勘弁して!


 仕方ないから『正史では』靜ヶ岳七本槍だった、田中吉政とか脇坂安治とか片桐且元とか連れて来た。


 でも田中君以外はみんなオコチャマで。

 ああ、ついでに大男なんで迫力満点な藤堂高虎も連れて来た。


 みんな若いねぇ。

 これから育ちざかり。秀吉君の下ですくすくと成長し……ないんでしょうね。なんでこんなSR武将を配下にするんでしょう、光秀。

 みんな、憧憬と信頼のまなざしを送って来る。


 そんなに光秀と同じ道を歩みたい?

 でも6畳1間にはそんなに入れません。みんな用の6畳間を作ってやるから好きにしてちょうだい。それならうれしい? 城に住むより楽しいと思うよ! 感謝しなさい。



「殿。ここは某に先陣をお任せあれ!」


「いや某が!」


「何をぬかす。俺が!」


 好きにして。

 真っ正面に薄くなった信玄の馬廻り衆がいる。

 そいつらに『石』を投げつけていく。大谷選手並みの160km/h剛速球が次から次へと馬廻りを落馬させていく。


 見えた!

 有名な金色の角に獅子の唐毛で飾られた兜の武将。

 風林火山の旗の下にどっしりと腰を掛けた武将が……


 やっぱり二人いました~


 どっちかが本人。

 どっちかが影武者の弟の逍遥軒。

 似ていすぎ。


 両方倒す時間なさそうだし。

 どうすんべ。


 そうだ。

 光秀、ひねくれものだから。

 大声で呼びかけた。


「逍遥軒殿! お命頂戴する!」


 あ、片方がこっち向いたの。

 こいつ、逍遥軒だな!

 じゃ逆の方が本人だ~~~~


「信玄殿、お覚悟! 明智十兵衛光秀推参なり!」


 俺は腰の後ろから、ダマスカス風ククリを抜き放つ。お馬さんの鞍に立ってジャンプ!


 かっこつけて1回転、ついでにひねりをくわえて信玄の後ろに立つ。


 しかしさすがに戦国の雄、信玄。手にした鉄製軍配で首をカバーした。首筋は狙えないので背中を蹴っ飛ばした。

 前に転がる信玄。かっこ悪い。


 左右から延びてくる馬廻りの槍を斬り落としながら、立ち上がりかけた信玄の前に。


「信玄。貴様に恨みはない。だが俺の大望のために死んでくれ」


「お前の大望とはなんじゃ? 天下を手にすることか?」


「いや。TENGAを手にしてシコシコ……違う! 天下などしけたことは考えてはいない」


「ではなんじゃ」


「それはな、世界を支配すること。この世をば、我が部屋と思うサブカルの、欠けたることがなきヲタク部屋、だ!」


 ズサッ!


 軍配で塞がれていない隙間からククリ的な冬木刀が首を狩る。


 まあ一応、様式美だから宣言しようか。


「織田右近衛大将信長が臣、明智十兵衛光秀。甲斐の虎、武田信玄を討ち取った!!」


 きっと三方ヶ原七本槍になるんでしょう、田中吉政くんの手槍を借りてその穂先に信玄の首刺して、みんなに見せる。


 こう言うのってさ。

 もっと地位の低い武士がやる仕事じゃない?

 ワンマン社長嫌われるよ?

 光秀、皆に嫌われるの嫌い。

 もういたしません。


 今度はだれかやってね。それにはもっと家臣育てないと。そして育てた家臣をそっくり秀吉に差し出して、代わりに大きな城もらって隠居します。


 くれるよね、秀吉君。

 なんか最近、つれないんだけど優秀な部下育成するからさ。

 よろしく頼みます!


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