京都行ったから本気出す!
第30話:抹茶は嫌いです
1568年1月
山城国。京、本圀寺
(今、第15代将軍になった義昭が住んでます)
苦いです!
光秀、苦いの苦手。甘いの好き。
ついでに言うと、健太のフライドチキンとかドミソのピザとかは主食です。
でも食べられなくなってしまい、苦悩の日々が続く光秀。
現在、明智家は食事革命を目指しています。
だけど今、目の前に差し出されたのは、なんか変な色合いの茶碗。中には泡立てた緑色の何か。
これはきっとあの苦い奴、抹茶とか言う『人を殺す
「お口に合えばよろしいのですが……」
俺の苦い表情を読み取ったのか、茶碗を差し出してきた商人風の男が穏やかな顔で気配りをする。
この男。
摂津河内の自由都市、堺で急速に勢力を伸ばしてきた納屋衆の一人、今井宗久。いわゆる天下三宗匠の一人。ゲームでは、よく外交で重宝するお方。
でも今の話題はそれではない。
昨年1567年。
足利義昭の大号令に呼応した三好吉継と松永久秀を中心とした軍勢によって、畿内の多くの地域を制圧した。
信ちゃんは、ほぼすべての軍勢を徹敵交戦する六角氏の観音寺城を一気に落とした。
すでに調略が入っていて、裏切りが続出。徹底抗戦していた出城も、秀吉が夜戦で落としてしまった。
いい働きが出来て良かったね。また出世街道を登ったようで。
その調子で長浜城作って子飼いの武将を育てて実力を蓄えるんだ。そして俺を雇ってくれよ。
史実では六角の勢力、甲賀の山岳地帯に親子で逃げ込んで徹底抗戦、73年位まで5年以上も粘り続けたんだよね。
……でも、その甲賀、調略で落としてしまったお調子者がいて。
ついでに親子の中を引き裂くように進言した冷血漢がいて。
ぜ、全部俺です。
お陰様で褒美として目出たく、京都守護の任につかされました。
命懸けの任務を果たしたのに、また単身赴任かよ!?
早くおうちに帰りたい(涙目
「誠に義昭さまの将軍宣下、めでたい事にて。信長様におかれましても天下の副将軍との名誉を」
そんなことはどうでもいいっす。
俺ね、もう一つ仕事振られています。
鉄砲奉行。
まあ、俺しか務まらんでしょうけれど、信、仕事振り過ぎよ?
過労死しちゃうよ? 俺。
労災保険給付金、ちゃんと俺に寄こしてよね! あ、俺は受け取れない? じゃ、前払いで。
「して、鉄砲職人はどれほど?」
「いまだ親方は10人程にて」
そりゃ生産効率悪すぎ。きっと冬木の奴ほどではないにせよ、職人肌の連中が精魂込めて作ってやがるんだろうな。
俺はその感覚に親近感を持つが、これはあくまでも生存戦略の一環。お仕事だ。信念は曲げる。
光秀、信念は持っているけどすぐに曲げる。柔軟性があるって言ってね。だれ? 節操がないとか言う奴。
「では、織田家に鉄砲職人となりたいものを、丁稚奉公人から選別していただきたい。こちらで育成いたす」
「それはようございます。職人の者達も喜びましょう。ですが……」
まあ、堺の連中の利益がないよね。
では
「
「それはまた、堺を高くお買いになっておりまするな」
この策はもちろん俺が献策したものだけどね、どう考えてもトンテンカン鉄砲作っていても、らちが明かない。
技術的な特異点を起こすしかない。
この時代の製鉄方法は、いわゆる『タタラ』。しかも使い捨て。永代タタラという大規模な奴すらない。
問題は2つ。いや3つか。
砂鉄を使うので、それの採取に手間がかかりすぎ。だから鉄鉱石掘って来る。
大量の薪炭作るので山がはげ山になっちゃう。
そしてこれが一番のネック。
『耐熱煉瓦』
これないと鉄鉱石を融かせない。1500度まで高温にしないと融けないからこれに耐えられるやつ。
これが出来て初めて『製鉄工場』が出来る!
高炉というものを作るんだよ。できれば反射炉も。そこまでできれば鋳鉄製の鉄砲が大量生産できる。
するとね。
いままで手作りで部品作っていたけど、鋳型にはめて作るんで、『交換部品』の技術が出来る。わかる? それまでの火縄銃は一品ものだから壊れたらそれでおしまい。
近代兵器としては失格。
それを規格品にしちゃおうと。
本当はね。
いかに水運が発展している、そして瀬戸内と日本海の結節点の琵琶湖でも水運という事では海辺に劣っちゃうんだよね。
紀伊半島の南は黒潮があって危険。できれば瀬戸内水運使いたい。なのでその内、大阪を使いたい。秀吉君に大坂城作って守ってもらおう。
あ、でもそれじゃまずい。
信、いなくなっちゃうじゃん、その時。
「お茶が不味かったですかな?」
「マズイ」とか口に出しちまったらしい。
お茶を濁すか。
「それがし、抹茶よりも好む茶がありまする」
「ほぅ。それは是非お伺いしたいですね」
有名茶人に出すようなものでは無いけどね。
「土鍋と匂いがなくなっている茶葉を所望致す」
そんなものは、この寺にあるのかい?
まあ、将軍が滞在するようになったから色々あるでしょ。
持ってこられた土鍋を中央の炉にかける。15分間熱した土鍋を一旦冷やしてしけた茶葉と茶茎を平らに置く。一旦、蓋をしめてから3分。蓋を開けて5分間煎る。
できれば高温に出来るといいんだけどね。
まだ火力調節できる練炭とコンロが出来ていない。懐から扇子を出して扇ぐという不調法。
狭い茶室代わりの部屋に香ばしい匂いが満ちる。
「ほほう。これはまた心が和む」
「いかがでございますかな。それがしにはこれが似合っておりまする」
『ほうじ茶』を入れて、茶匠に差し出す。
和やかな笑顔と共に飲み干す今井宗久。
「結構なお手前で。この茶は?」
「それはよかった。ほうじ茶と名付けました。田舎茶にて。心配しておった故」
ほうじ茶って昭和初期に作られ始めたとか、Web小説で書いてあった。こっちでも茶文化革命を起こしてやるぞ!
苦いのは駆逐してやる!
「これを手前にお教え願えますでしょうか? 日ノ本の隅々までいきわたらせたい味。このまろやかさ。やさしさ。まるで明智様のようでございまする」
げげっ?
今井宗久にお茶教えるとかなんじゃ、それ?
ま、まあ、お世辞でしょうけどね。
大取引できたからそのリベートみたいな?
「後世はこの茶のことを『十兵衛茶』とか『光秀茶』などと名付けられ、多くの人に愛されるのでしょう。そして光秀様も……」
もうその歯の浮く様なセリフ、やめてください。
いくら甘党でも、虫歯になります。
あ、今度歯ブラシ普及させないと。もっと技術改良して、どんどん令和の世に近づけるんだああああ!!
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