我ら紅々町商店街進行組合

saco

プロローグ

0話

 ――それでは、続いてのニュースです。


 テレビの中の女性ニュースキャスターが一つ呼吸を置いて、こう始めた。


 ――明日で、六年が経とうとしています。


 映像はスタジオから、VTRに切り替わる。


 ――平成二十七年一月八日、冬休みが明ける直前のあの日、一つの家族の穏やかな日常は、前触れもなく壊されました。当時、高校一年生の上谷橙かみやとうくんは、同じ高校の友人と遊びにいった帰り、そのまま行方がわからなくなってしまいました。夕方には帰ると家族に言い残していましたが、夜になっても帰ってこないことを心配した家族が橙くんの友人に連絡を取ったところ、何時間も前に別れていることを知り、慌てて警察に連絡をしたのが始まりです。


 ――捜索活動は明るくなった翌日から始まり、警察官、地元の消防団など、総勢六十人体制で行われました。しかし懸命の捜索も虚しく、橙くんが発見されることはありませんでした。あれから六年の間、上谷さんご家族の時間は、今も止まり続けています。


 続いて両親のインタビュー映像が流れる。喋りながら両手で顔を覆う母親と、彼女の肩を抱く父親が悲痛な叫びを訴えていた。


 ――橙くんの家の近所に住んでいる親しい友人に話を訊くことができました。


 ――六年前なのでその頃の私は……ええと、小学四年生ですか。私にとって上谷さんは、いつも遊んでくれた兄のような存在で……思えば私もいなくなってしまった時の上谷さんと同い年になったので、大きくなった姿を見てほしいなって……どこにいるのかはわかりませんが、ひょっこり出てきてくれたら嬉しい……です。


 映像はスタジオに戻り、キャスターはいたたまれない表情で口を開いた。


 ――どんな些細なことでも構いません。橙くんに関する情報がありましたら、光城こうじょう警察署までご連絡ください。電話番号は――。


 こういった言葉でニュースは締め括られた。


 一月七日。こたつから見る外の景色は真っ白な雪と、苺ジャムのような夕焼け。


 彼が忽然と姿を消したあの日と同じで、どこか浮世離れした光景だった。

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