第31話 お一人様用、錬金術コーナー ②

 いとおしいこの機械に頬ずりをし、次に進化させる装備を考える。


 どれも大事な装備ばかりだから、どれを先にするか迷ってしまう。


 だがその中で群を抜いて存在感があるのは、早撃ちのガンベルトだ。


 なんせ見た目も格好よく、しかもステータス補強にも貢献してくれている優れものだ。


「よーし、ガンベルトちゃん。お前にきめたー、とう!」


 軽やかなステップを踏み、鼻歌まじりで腰からはずし機械にいれる。

 これは能力的にも優れているが、一番最初に手に入れた装備なので、思い入れが強い。


 それが新しく生まれ変わり、もっと活躍してくれるかと思うと、なんだか胸が熱くなるぜ。


「神さま、頼みましたよ。……んんん、どういうことだ?」


 いざ魔石を入れようとした時、画面の違和感にきづいた。


❰必要素材:Bランク以上の魔石 100個❱


 自分の目を疑い、おもいっきりこする。

 しかし、求めてくる数は依然として100個のままだ。


 100個なんて、いま持っている魔石のほぼ半分の量だし、機械の故障かと別の装備を入れてみる。


「えっ、バッヂも100個だなんて……うはっ、ゴーグルもかよ! で……指輪はたったの2個って、なんだよこの格差は?」


 B級の魔石の買取り価格は1万円。

 というと1万円×100個だと、ブハッ、ひゃ、百万円。

 大出費に心をさぶられ、手が震えてきた。


 だけどこれから推測すると、アイテムの重要度に応じて、レートが変わるのかもしれない。


 そう考えたら、この格差に納得がいくよ。


「そうなると、やっぱり先に進化すべきはガンベルトだな。余計に決心がかたまったな」


 成功率100%であることを確認し、深呼吸をしてから錬金術を開始する。

 また長い時間待たせられ、ようやく開口部が開いてくれた。


 見た目は変わらない。ゴクリと唾を飲み、その詳細を見てみる。


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『早撃ちのガンベルト』


 敏捷+50、MP自然回復を1分間につきMP1を追加回復。

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     ⇩  ⇩  ⇩

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『早撃ちのガンベルトVer2』


 敏捷+250、MP自然回復を1分間につきMP5を追加回復。

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「ぎゃーーーーーーーーーーーー、おお化けしてくれたーーーーーーーーーーーー!」


 嬉しいすぎて大声を出しすぎた。

 ドアのガラスがビリビリと揺れる。それに自分で驚き、ひとり劇場だ。


「お、おっほん。それはともかく」


 レベルアップ時に貰えるステータスポイント。

 それの5回分のポイントが、丸々貰ったと同じ効果。

 それがたったの魔石100個で作れたよ。


「あざーーーーーっす、ホントに本当に、神さまー、あざーーーーーっす!」


 素敵な施設を用意して、そのうえ大した見返りを求めない。

 神様って渋い、渋すぎる。


 神様は俺の中の男前ランキングを一気に駆け上がり、今週堂々の第1位に躍り出したぜ。


 そんなかっこいい神様に甘えて、もう一度ガンベルトを進化させる事にした。


❰必要素材:準・賢者の石 1個❱


「えっ、ムリ……持っていないよ?」


 いきなり要求金額を上げてきた。


 これはボッタクリの域じゃねえ?


 そうだよ、とっかかりは安くして、こっちがハマっているなと見定めたら、ドンと上乗せをしてくる手口。

 詐欺といっしょだ、犯罪だ。


「神様、あんたはうちの親父殿かよ。こんな理不尽な要求は飲めないぜ。条件は他に変更してくれよな、ほら」


【…………】


「ほら!」


【…………】


 聞こえているはずなのに反応してこない。

 ちっ、前と同じでこちらの根負けだ。なかなか手強い神様だぜ。


 こうなると、ガンベルトはお預けだ。

 バッヂかゴーグルのどちらかに焦点をしぼるか。


 両方それぞれ魅力があるので、悩んでしまう。

 決められず苦しみながら考えて、答えが出たとしても取り消して、また考える。


 頭から煙が出そうになり、一旦クッションとして指輪を上げてみる。


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『幸運の指輪Ver2』


 少しだけツイている指輪。


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     ⇩  ⇩  ⇩

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『幸運の指輪Ver3』


 そこそこツイている指輪。

 幸せはすぐソコですよ。


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 コメントつきに癒され、プッと吹き出した。

 少し余裕ができ、お茶を沸かして再度熟考をはじめていく。


 バッヂは今の威力がすでに絶大だ。

 それが進化をするとしたら、どう変わるだろう。

 効果範囲か、作用時間か、それともその両方なのか、どちらにしても凄いことになる。


 その一方でゴーグルのマッピング能力は完成されている。


 寸分の狂いもなく、隠し部屋などもゴーグルの前では意味がない。


 となると、もしかしたら新しい機能が、追加されるかもしれないぞ。


「うーん、悩むよなあ、決められないよなあ。……でもこんな時は安くて安心の幸運の指輪ちゃんで、もう一回癒してもらおうかな、エイッ!」


 椅子に座り行儀は悪いが、お茶を飲みながら投入する。

 考える事が複雑すぎて、ちょっとやソッとじゃ解決しない。


 100万や500万なんて、庶民の俺では気楽に払える額じゃない。

 さっきガンベルトの分を払えたのは、魔石が現ナマでなくドロップした品だからだ。


 お金としての意識が低いから、指輪ちゃんの進化にも使えたんだ。

 ただその量が増えれば別だけどな。


❰必要素材:Bランク以上の魔石 100個❱


 チカチカと点滅する画面に、予想だにしていなかった数字がでている。

 それは俺を嘲笑あざわらうかのようだ。


「指輪ちゃん、お前もなのかーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」


 俺の絶叫がダンジョン内に木霊こだました。


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 番場 秀太

 レベル:35

 HP :575/575

 МP :1205/1205

 スキル:バン・マンVer4


 〈攻撃威力:3500〉


 筋 力:50

 耐 久:120

 敏 捷:150(+250)

 魔 力:250


 装 備 早撃ちのガンベルト・Ver2(New!)

     保安官バッジ

     幸運の指輪・Ver3(New!)

     深淵のゴーグル

 ステータスポイント残り:50


 所持金 500円

 借 金 28,500,000円

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