神の遣い
「な、なんだこれ……」
俺こと舞鶴六花はあまりにも唐突な出来事に狼狽せざるを得なかった。
何故なら、神の柱に関するニュースを自室で観ていたら、突然空間に亀裂が入ったからだ。
神の柱が現れた事で自然の異常発達や、動物の異形化など様々な異変はテレビで目の当たりにしている。
だからそうそう驚く事は無いだろうと思っていたのだが、これは流石に予想外だ。
まさかこんなものがなんの変哲の無い俺の部屋に現れるとは。
世も末である。
しかも、だ。
「……うお! 亀裂から女の子が!」
そのおよそ人が出入り出来そうもない亀裂から、俺より一つか二つほど年上に見える20歳ぐらいの女性が出てきたのだ。
瞳は蒼く、鋭い。
髪は夕日に煌めく綺麗な黄金色。
全体的に整った容姿で、SF感満載な衣服も相まって現実感が無い。
だが彼女と目が合った瞬間、これは夢ではないと理解させられた。
「貴様が六花か?」
「え……」
「舞鶴六花かと訊いている」
女性に名を呼ばれ間抜けな声を漏らすと苛ついた声が反ってきたので、俺は急いで何度も頷く。
「そ、そうだけど君は一体……。 どうして俺の名前を……」
「我が名はミカエル=エスカリヴォルグ。 貴様達人間が言うところの神の遣いだ」
「神の、遣い……!?」
神の柱出現後、各地で神の遣いと名乗る人達が現れ、何処かへと連れ去るという話をネットで見た記憶がある。
もしやその神の遣いだと言うのだろうか、この人が。
けどネットで噂されているような神々しさがあるのも確か。
加えて空間の亀裂から現れた事も証拠だと言えるかもしれない。
だとしたら本当にこの人は、本物の……。
「まさか本当に存在するなんて……。 でもだったらなんで俺のところに? 自分で言うのもなんだけど、俺は特に取り柄の無い普通の人間なんだけど……」
「貴様の質問に応える権限は与えられていない。 貴様はただこちらの問いに応えればよい」
有無を言わせる気はないらしい。
とてつもない気迫だ。
ここは素直に従っておいた方が無難か。
「……わかった」
「ふむ、流石は主神が求めた人間だ。 物わかりが良い」
主神と言ったら神々のトップだよな。
なんでそんな神様が俺を求めるんだろう。
まあ訊いた所で応えないんだろうけど。
「では舞鶴六花に問う。 貴様は我らに選ばれた、次の人類を担う一人である。 ゆえに貴様には取捨選択の権利が神により与えられた。 それらを理解した上で答えよ。 これより三日後に行われる審判の日にて、愚かなる人類と共に運命を共にするか。 それとも我らと共に、新世界を迎えるか。 答えるがよい、選ばれし者よ」
「な……なに?」
神の遣いの言葉に、俺は冷や汗を浮かばせる。
なにしろ彼女が言ったのは、神話などで有名な審判の日、だったのだ。
審判の日は最後の審判とも並べられる、人類を選別する儀式だ。
殆んどの人類を殺し、一部を残して世界そのものをリセットする義。
それが三日後、だってのか。
「答えよ、舞鶴六花。 我らと共に行くのか否かを」
「ま、待ってくれ! そんな急には答えられない! そもそも審判の日ってなんだよ! 皆死ぬのか!? 家族も友達も! 頼む、それだけでも…………うっ!」
捲し立てる最中、ミカエルは何処からともなく現れた光の粒子を右手に集め、白銀の剣へと変化。
その剣の切っ先を、俺の喉元に突きつけてきた。
「貴様の問いに答えんと言った。 貴様がすべきはこちらの問いに回答するのみ……」
「頼むよ、それだけ教えてくれ。 聞いたらすぐ答える。 だから頼む。 家族や友達も連れていっちゃダメなのか? 俺だけなのか?」
正直、殺されると思った。
それすら承知の上の問い掛けだった。
もしも本当に三日後皆死んでしまうなら、今殺されても同じだと思ったからだ。
自分だけ助かって、皆を見殺しにするなんて俺には出来ない。
その心からの言葉がミカエルに届いたのか。
彼女は剣を引き、一言だけ答えてくれた。
「不可能だ」
「……そうか」
予想はしていたが、やはり連れていけないのか。
なら俺の答えは決まっている。
「答えてやった。 次は貴様の番だ。 今すぐ答えを……」
「行かない。 皆を残して自分だけ助かる気はない」
「……ふん、愚かな男だ。 自ら死を選ぶとはな」
俺の答えに満足したミカエルは踵を返し、亀裂へと向かう。
きっと彼女にとって舞鶴六花は重要ではなく、主神から与えられた仕事なり使命なりに従っていただけなのだろう。
最早興味も失せたミカエルは一瞥もくれない。
だが亀裂に触れた刹那。
行ってしまう前にミカエルは最後にこう言ってきた。
「せいぜい残り少ない余生を悔いの残らないよう使うのだな。 ではさらばだ、もう会う事もあるまい」
──と。
嫌なやつ。
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