文章と頭の中

イカワ ミヒロ

「文章は頭の中をそっくりそのまま取り出したものである」


 上記のタイトルは私の昔からの持論です。


 私が最初に入社した会社では、ときどき「社内安全月間」などを知らせる回覧板が回ってきました。回覧板の表紙には A6 サイズの紙が貼ってあって、そこには部署内のデスクの並びの形に四角が連なっていました。回覧板を読んだ後、各人は自分のデスクに対応する四角にチェックを入れて次の人に回すというシステムになっていたのですが、私のいた部署は変わり者が多かったので、みんなチェックの代わりに回覧板の内容にコメントを入れていました。このコメントが本当に面白くて、メンバーそれぞれのその人らしい個性あふれるものでした。それを読んでいるうちに、実感したのが上記の考えです。


 もちろん、文章なので編集もできるし、見せたくないところは隠すこともできます。でも、私たちは言葉を無くしては何も考えることができません。つまり、言葉が考えを構成すると言ってもいいわけです。そして、ほんのちょっとした言い回しや発想に、絶対に隠しきれないその人らしさというものが滲み出てしまうものだと思っています。


 私が「SDGs 入門」を書いていたとき、書きながら「ああ、これは本当に私っぽい文章だなあ」と感じていました。なんというか、仕事に全振りした感じの、役には立つかもしれないけれど、趣味で読みたいような文じゃないという笑 そして、一つ意見を言おうと思うと、それを逆から検証するような考えが現れてなかなか先に進めない。でも、自分の主張したいことに対する調査は、充分とは言わないけれどほぼ網羅できたし、その調査の過程で学習していくことがとても楽しいと感じていました。そして、わかりやすい文は無視して笑 自分の言いたいように、自分が一番的確だと感じる文章で書けたことが自分としては嬉しかったし、言い切った!とすっきりしました。


 読み返してみると、確かにいろいろな情報を端折っていて大急ぎだなあ、と思うし、読み手を引き入れるような、もう少し楽しい感じで書けたら良かったなとも思います。まあ、これは自分用のノートみたいなものなので、本気で読みやすいものを書くのであれば、これを叩き台に書き直していくことになるでしょう。そうすると、ほかの人に読んでもらうようなチェックを三回入れて、目次と索引も作って作業に三か月ぐらい必要になるのでやりません! また、そうなると、どの読者に何を伝えるのか?という読者視点になるので、自然な自分の文章というのとも少し違ってくると思います。


 ちょっと脱線してしまいましたが、私はこの「頭の中をそっくり取り出した」視点を、ほかの方の文章を読むときにも念頭に置いています。ほかの方の書いた文を読むのは、その人の思考回路を辿るのと同じことだと思っています。その人が何に気が付いて、どんな風にほかの人を見て、その人をどんな人として表現するのか。その表現の奥行や濃密さから、書き手の人そのものを推し量るのが好きです。(文章をインターネットで公開するというのは、実は自分の脳内を全世界に公開しているという大変恐ろしい行為なのですよ笑)


 私の作品の中に、女子高生の売春を斡旋しているコウタという悪人が出てきます。援交パーティーを主催するなど悪いことをしていながら、騙されてそのパーティーに紛れ込んでしまった女の子を主人公が連れ出すのを見逃しています。現実だったらそうはいかないだろうとは思うのですが、本当に悪意のある残酷な人物を私は怖くて書けません。また、同じ小説の主人公の友人である伸司という人物も、ヤンキーのくせに「クソジジイが猫かぶらざるを得ないからな」などと、ヤンキーらしからぬ文語的な言い回しをしています。これは後から気が付いて、これが自分の「ささっと言えてしっくりくる」言い回しなんだなと思いました。ヤンキーっぽく言い直させようとしばらく考えたのですが、うまい言い方を思いつかずにそのままにしました。「猫かぶる」っていう表現もしなさそうですよね。


 こんな風に、自分の発想の限界や癖が見えるのもやはり文章です。だから、好きな作品の中でも、読んだ人がぞっとするような悪人を書ける人はすごいと思うし、人間のそういった側面を理解して言語化できる精神的なタフさや懐の深さはどうやって身に付いたのかと知りたくなります。あとは、ファンタジーなどで斬新な発想を表現できる方もその才能に感嘆します。どんな風にその光景が頭に浮かぶのか知りたいです。こういうのを書き手さんにインタビューして記事にしたいくらいです。


 カクヨムで、素敵な文章に出会って、それを書く人たちの奥深さを知ることができて、人生楽しいなあと思います。同じ電車に乗っている人がどんな人なんて全くわかりませんが、ここではどんな考えをしている人かという視点だけでその人を知ることができるし、交流することもできる。素晴らしいサイトだと思います。(だからもっと上手に運営して欲しい!)

 希望としては、ほかの書き手さんから学んで、自分の文章も読みやすくて面白いものにしたいなと思うのですが……。どうやったらできるのやら……。頭の中すっきり変えたい……。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る