Umi くらし 3-沼町

Nono The Great

第3話

漁師の悠の好きな柳ジョージの「青い瞳のステラ」が地下に続く階段から聞こえる。シンバルと、ベースの音がしっかり聞こえるってことはバンドで?演ってる?ステラを?イントロから?そんな曲やった?疑問が疑問を生んだが、スタスタ階段を降りていくと、ショッピングモールの地下駐車場の横にある広場で、近くのライブバーが主催しての無料コンサートの演奏会だった。それにしても、いや、ステラをバンドで?なぜに?ステラを?かなりストイックなバンドの方々である。


「漁師の悠とカラオケにはいくな、柳ジョージしか歌わせてもらえんぞ」。悠を知っている仲間からは聞いていたが、実はわたしも隠れジョージのひとりなので、一回一緒に行ったことがあった。「Weeping in the rain/雨に泣いている」,「酔って候」なんかは得意中の得意だが、悠のレパートリーはすごかった。彼の音程や、メロディーラインがちんぷんかんぷんなので、そんな歌、柳ジョージ歌ってたかとおもう歌ばかりを歌うのだ。


そんな悠は結構【げいじゅつ】が好きなのである。Facebookのmessengerで「明日ライブあるから暇なら来て」。とか、「来月、みんなで演劇するけど暇?」。と誘うと、しらす漁が大漁でないかぎりいつも観覧してくれた。ただ、一度だけ、わたしの出番と同時に声を出して「あ、あかん、、け、け、けっ!!」と大きな声で笑いをこらえたので、私は結局その舞台で俗に言う【出オチ】になってしまったことこがある。


そんなことを思い出しながら、次々、入れ替わるバンドの演奏を聴いていて思ったのだが、人の演っているところを見るのは、さほど楽しくはないのだ。吉田拓郎【洛陽】、長渕剛【ろくなもんじゃねえ】、エリッククラプトンがいたCREAMの【Cocaine】なんかの知っている曲のタイトルを紹介されるたび、「大丈夫か?上手にできるのか?」と、ハラハラするのである。ふと、今まで私の誘いで見に来てくれた友人たちも、同じように、そう感じていたのかなと深く反省したのだ。


しかしなのである。そんなさほど楽しくもなく、ハラハラの連続のライブにも必ず「おーい、見に来たよ。」と声をかけてくれるひとがいる。必ずいる。これは、小学校の運動会で、リレーのバトンを前の生徒から受け取る際、受け取りそこなって転んで、擦りむいた痛い足を引きずって走っていた時、知らない大人に「最後までがんばれ!」と声援をもらった時と似ている。つまり人は、がんばっている人を応援したいのだ。


かくして、私は次のライブまでに、この紅のピアニカで【あの日に帰りたい】と、【グッバイマイラブ】のイントロを、この家出の間に完コピできるよう練習しようとカラオケバンバンを探している。そんな私を懲りない奴と笑ってくれてもいい。

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