異世界をデバッグするだけの簡単な仕事です ~でもバグだらけなんて聞いてない!~
エプソン
一般市民係編
第1バグ・異世界デバッカー
「おはようエリス」
「おはようイズモ。今日もいい朝ね」
暖かな日差しが照り付ける爽やかな朝。
畑仕事に勤しむ幼馴染みのエリスに挨拶をすると、太陽のような笑顔で彼女は返してきた。
「そうだね。今日は何を植えるの?」
「おはようイズモ。今日もいい朝ね」
「…………」
嫌な予感が脳内を通過し、急に頭が痛くなる。
心地よい雰囲気が台無しだった。
「今日は俺暇なんだ。作業手伝おうか?」
「おはようイズモ。今日もいい朝ね」
「うん、そうだね。ところで今日一緒にお昼ご飯食べない?」
「おはようイズモ。今日もいい朝ね」
「天気以外の話もしてくれないかなぁ!!」
ワンパターンな回答にとうとう
(幼馴染み設定を追加しただけでこれか……)
溜息を吐きながら宙に向かって人差し指をスライドする。
出てきたのは半透明な画面とキーボード。
それを出雲は淡々と操作していく。
「『幼馴染みの男からの女性の返答が全て天気の話になる。あと、話し掛ける度に首だけこちらを向くのがポリゴン時代のゲームみたいで怖い』、と」
今起きている事象を入力して送信ボタンを押下する。
ここで書いた内容はこの世界を構築した女神へと送られ、更にそこから下請けに転送される。
この程度の内容であれば一日も経たないうちに修正されるだろう。
出雲の仕事は世界のバグを見つけ出すことだ。
時には家の壁に衝突しながらも数十分以上無駄に歩く。
3日以上寝る。
朝から深夜まで村人に話し掛けるなど、仮に思いついたとしてもやらないようなことをやるのが仕事だ。
今日は、初めて見た時からバグまみれだった女の子の様子を見に来たというわけだ。
(それにしても、)
「たまにはバグが見つからない日があっても良くないか」
まだ見ぬ理想を口に出しながら少女を見る。
彼女を修正するのはこれで5回目だ。
最初はブリッジしながら歩く化け物だったが、徐々に人へは近付いてきている。
昨日は両親を畑に埋めるという失態を犯しつつも、どうにかコミュニケーションは取れていた。
会話は問題ないと思っていただけに、今日の結果は残念である。
(しかし、目立つ異常は会話だけっぽいが)
試しに彼女が握りしめている鍬を無理やり奪ってみる。
先程まで連呼していた言葉と一言一句変わらない言葉を吐きながら、怒りを露わにしてきた。
そのまま彼女の手に届かないように鍬を背中に隠してみる。
更に怒りが溜まったのか今度は出雲の胸を叩いてきた。
「ちょ、ごめんごめん、痛っ。いた、痛い、いったかっ!? ごめんって、マジで痛い!? いってぇ!!」
まるで女子とは思えない威力でボコボコと叩かれた。
急いで鍬を返して胸を見ると薄っすらと上着に血が滲んでいた。
(こいつ怪力だったのか。クッソ痛かったけどバグとは言い切れないか)
と、思ってスライドしようとした指を止めたところである。
「ぐっふぇ!?」
右肩に鍬の先端が直撃した。
痛みで反射的にうずくまったところに再度振り下ろされた鍬が放たれる。
「あっ!? がっ!? ああ!!」
何度も何度も振り下ろされる農具。
あまりの痛みに意識が遠のいていった。
(まさかこんな平穏な村で死ぬのか、俺は……)
「おはようイズモ。今日もいい朝ね」
返り血で全身を赤く染めた幼馴染みが笑顔で言う。
出雲は意識が完全にブラックアウトし掛ける瞬間、何故かこの仕事をすることになった日のことを思い出した。
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