目にしたもの

私は目が覚めて、冷や汗を背中いっぱいにかいているのを感じた。

恐怖は絶対的で、それは言葉に出せない。

「あれは一体なに?」

夢にノイズがかかる。見たのは些細ないつもの予知夢。明日バンドの人達はちゃんといつも通り練習に来る。それだけなのに、その後に何かが見えた。

黒髪の少女が笑っている。笑っているのに輪郭はぼやけていて顔が鮮明に映らない。

また視点が変わる。私が泣いている?どうしてかは分からない。それがどんな感情を抱いてるのかは定かでは無いけど、泣いている。

顔をあげようとしたその時、ぷつりと断線したように視界に砂嵐がかかって目を覚ます。


翌日、いつも通り平凡な授業を終えて放課後がやってくる。昨日はなんの成果もなかったから、今日こそは何かきっかけでも掴めれば良いな。

なんて楽観的には考えているけれど、猶予はそこまでない。もう数週間で学校は終わるのだから。

「また、来たんですか」

練習の準備を始めていた彼女達はその手を止めてこちらを向く。

「昨日は散々だったから、考えを改めることにした」

「じゃあ、ここで練習するってことでいいですね」

やっと分かってくれたか、といった顔でギターにアンプを繋ぐ。それで話が終わったと思っているみたいだ。

「それも困るから、交渉しに来た」

「交渉?」

「あなた達は練習がしたい、僕達はここで練習をしてほしくない。それなら、折り合いをつけるか代替案を探すしかない。だから少しだけ僕達の話を聞いて欲しいんだ」

僕は頭を下げた。半ばどうして僕が、という気持ちがなかったわけではないけどそれよりも天城さんの能力を解く手がかりに一歩でも近づくなら、こんな頭いくらでも下げれる気がした。

「そこまでしなくても。話くらいは聞きますよ」

「でも、昨日は血相変えて怒鳴ってたから」

「それは……ごめんなさい。私も頭に血が上ってた」

「私達もごめんなさい、突然の出来事で状況が飲み込めなくて」

ギターの子が頭を下げると、他の3人も申し訳なさそうに頭を下げる。

今度はこちらがあたふたする番で、すぐに頭を上げてもらう。

「それじゃあ、場所を変えよう」

百奈がそういうと、彼女らも同意してついてくる。さすがに僕らの狭い部室に8人も入るわけが無いので、行く場所はまぁほとんど決まっている。


「今日はまた、一段と多いね」

忙しそうに資料に目を通している会長は、こちらを一度見ただけで別に咎めることはない。部屋は自由に使っていいということなので隣の部屋を使わせてもらう。

「にしても広いなぁ。この部屋部室に出来たらいいのにね?」

「え?……そうですね」

正直、百奈の距離の詰め方は自由すぎる。そりゃあ相手も困惑してしまう。

座りなれない深く沈むソファに座って話し合いは再開する。

「じゃあ始めましょうか。まずは昨日の出来事からで。あなたはあの力にいつ自覚しましたか?」

「本永さゆりです。あなたじゃ誰か分からないんで自由に呼んでください」

「じゃあさゆりさんで」

「……まぁいいですそれで。あの力を知ったのは昨日です。そもそもあれがなんなのか今でも理解できないですけど」

「それならこれを見て欲しいです」

僕は最後まで文集を見せようか迷ったが、百聞は一見にしかずなのでもういいかと例のページを見せた。

「ここに「置換」と書いてありますよね。十中八九これがあなたが手に入れた能力です」

「能力?」

まぁそういう反応になるのもいか仕方ない。僕らだって自分がその立場だったら混乱していただろうから。

「そうです。ふざけていると思うかもしれないですけど僕らはその能力を手に入れた人達を探してるんです。能力者が全員揃って儀式をすればその力は無くなる、そう文集には記されてるんです。だから、僕達に協力してくれませんか?」

「私は別にこんな力を望んだわけじゃない。もし無くせるならそれに越したことはないけど、でもそれは私達が望んだものとは関係ないよね」

もちろんわかってる。だから僕は一つだけ思いついたとっておきを口に出す。

「だから、試してみて欲しいことがあるんだ」

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