先人の痕跡
部室に舞い戻り、僕らは資料を探した。
「.......これだけ」
埃を深く被ったダンボールの上に書かれた文集資料という文字。本棚の上に乗っけられたそれを引っ張り出して机に置く。
中には書きかけのメモやノートなど、薄く積まれている。ノートをぱらぱらと捲ると7人という言葉に関連づけてか七つの大罪や七福神など、とりあえずそれっぽいものを挙げてバツを上から重ねて書いていた。それはページの最後まで続いていて、
「つまり答えが見つからなかったってこと?」
「たぶん」
つまり10年前の彼らが僕たちに託したものとはこの7人の不可思議もとい能力とでも呼ぶものを見つけだし解決して欲しいということだろう。
「これって」
そう言って天城さんが取り出したのは、ダンボールの底あった一冊の本だった。題名はところどころ掠れているが読めなくは無い。
「後輩に贈る」
それが意味するもの。重たいページを開く。
最初に書かれていた文字は、あまりにも達筆すぎて読めない。
「ここ、1902年って書いてない?」
確かに言われてみればそう読める気がする。
だけどかろうじてそこが読めるくらいで、あとは僕らには読めそうもない。
今度は逆に後ろからページを捲る。白紙のページが続いて「記録」と上に書かれたページに辿り着く。
「文集を読んで託せ」
と上から殴り書きをしたような文字だった。
何かがこれを書いた人を焦らせたのか、その下の文からは活動報告が事細かに記されていた。
特筆すべき部分としては、彼らは7人全ての不可思議を持つ者を見つけていたこと。
それにも関わらず、僕らにまでこの現象を解き明かす役回りが来てしまった。つまりは7人を見つけ出すことが真の解決では無いということ。
「7人の能力はここに記すってありますね」
そこには7人の氏名と彼らが持つその力が書き記されていた。
「忘我」「千里眼」「服従」「」「」「」「」
7つの括弧のうち、3つには文字が、残りの4つは空欄だった。それがどういう意味を示すのか、僕たちには理解できない。
「忘我、これって天城さんのことじゃないかな」
「我を忘れる。確かに、私のことかもしれませんね」
これで彼女の忘却の病は治せるものかもしれないと分かった。それだけでも少し良かったと安堵できる。
「ということは、この学校の生徒の中にはもう『千里眼』と『服従』の力を持った人が居るってことになる」
「じゃあこの『千里眼』の子が、文集を持ち出したんじゃないの?」
千里眼、なんでも見通す力。そうだとするなら容易に文集を持ち出すくらいわけなさそうな気がする。どうしてあの文集を持ち出したのかは分からないけれど。
「なら、向かうは職員室だ」
「どうして?」
「この部屋の鍵を取りに行かなきゃならないじゃないか」
職員室では、教室よりも低い温度でエアコンが付いていて寒いんじゃないかというほどガンガンに効いている。
「白石先生、こんにちは」
「あっ、茜くん。お疲れ様。今日はどうしたの?部活のことなら、私は今忙しいからまた今度にして」
「残念ですがたまには顧問らしいことをして下さい。今日、部室の鍵を誰かに渡しませんでしたか?」
それを聞いて彼女は口元に手を当てる。暫くして「あっ」と声が漏れる。
「忙しすきて忘れてたけど、朝早くに女子生徒が部室に忘れ物をしたので鍵を貸して下さいって言われたよ。てっきりあの子が新入部員だと思って快く貸しちゃった」
あぁ、やっぱりそうだったか。
「それで、その子の名前は聞きましたか?」
「ごめんね。それは聞いてないんだ。でも彼女、特進科のクラスの子よ。前に一度だけ臨時で特進科の授業をした時に見かけたから」
特進科(難関大コース)の学生は、総じて学力が高い。少なくとも僕ら平とは一線を画しているのは確かで、クラスの平均点が10数点、酷い時には数十点違うというのが実態だ。
「ありがとうございました。それでは」
「ちょ、ちょっと待って。どうして急にそんな事を知ろうと思ったの?」
「部活動ですよ。部活動」
「えっ、それじゃあ文化祭は?」
「もちろん文集出しますよ」
「私、てっきり去年と同じで何もしないのかと」
「もしかして、申請してないんですか?」
かぶりを振る先生。
文化祭の店出しの申請は主に顧問がすることになっている。つまりは、
「よろしくお願いしますね」
僕は先生の追跡を逃れるように職員室をあとにする。後ろで「助けて〜、残業が〜!」などと言っているが振り返っている余裕は無い。こちらだって死活問題なのだから。
職員室の前では2人が待っていた。ひとまずの状況報告を済ませる。
「じゃあ、これから特進科の教室に行ってみる?」
「もう帰ってるんじゃないかな?それに、彼女が千里眼だったら、会うのは一筋縄じゃいかないかもしれない」
課題は残りつつも、天城さんの忘却は治るかもしれないと分かっただけでも良いか。
「なんですか?」
不意に彼女に目線を向けてしまったので、何があったのかと聞かれてしまう。ただ見ていたなんて言えるはずもなく、「なんでもない」と素っ気なく返す。
その言葉すら、少し恥ずかしさを感じてしまうのが嫌だと感じる。
「それより、天城さんは」
「やっと見つけたー」
急いで走ってくる足音。補習帰りの静だった。
「それで、文集の件はどうなったんだ?」
そこから話さないといけないか。
「ああ、それならね」
なので仕方なく、僕らは彼に今日あった出来事を1つずつ伝えて帰る。
陰る校舎の窓から覗く、黒髪の少女は不敵に微笑む。
「残念でしたね」
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