休みの天城さん
ひょんなこと、ではなくオリエンテーションの後僕ら4人は連絡先を交換した。
僕は静の連絡先だけは知っていたが、こういう機会だしということで天城さんの連絡先を受け取ることになった。彼女の連絡先には多くの友人であろう名前が並んでいて、病気になる前の彼女がどういう人物だったかがよくわかる。
「ありがとうございます」
こんなに丁寧にお礼を言うことも以前であれば無かったのだろうか。
「こちらこそ、これからも連絡が取れるような仲になれば幸いです」
「固すぎだろ」
思わず静にツッコミを入れられてしまう。
まぁまぁと言いつつ、さりげなく百奈も僕の連絡先を奪取する。
「じゃあ、よろしくね」
「お前のはいらない」
「ひどっ!」
涙目で静に縋りよる百奈。そうだーひどいぞーと棒読みで応戦してくるが、気にする事はない。
日が沈みはじめ、先生が解散の合図を出すとおのおの校門を出ていく。
「じゃ、俺らはもうちょい遊んでから帰るから」
「ばいばーい」
2人は手を繋いで都市部の方へと向かって行ってしまった。残された僕らは、幸いどちらも徒歩通だったので一緒に帰ることになった。
「今日は楽しかったですね」
「はい、私も病気になってからは俯きがちでしたけど、久しぶりにたくさん笑えた気がします」
そう言っている彼女の顔には笑みがこぼれる。道中河原での話や、天城さんの寝顔の話などで盛り上がっているといつの間にか別れの時間となる。
「それじゃあ私はこっちなんで」
「そっか。じゃあまた明日」
「明日は土曜日ですよ?」
「あっ、そうだったごめん」
思わず学校があるかのようなノリで別れの挨拶を済ませようとして恥ずかしくなる。
だから、今一度言い直そうとした時だった。
「でも、白雪さんが良ければですけど明日も遊びませんか?」
「えっ?」
「いえっ、やっぱりなんでも」
慌てて訂正しようとする彼女に僕は弁明する。
「いやそういうことじゃなくて、単に天城さんが誘ってくれたことに驚いて。僕で良ければ全然構わないけど、静達も呼ぶ?」
「.........そうですねっ。明日の私も覚えていないでしょうけど、こんな私で良ければこれからも仲良くしてくださいね」
「うん!それじゃあホントにまた明日」
「はい、また明日」
僕は彼女に手を振って背を向ける。そこでやっと僕の緊張は解けた。
「すごいな」
あんまり女の子と遊んだりした経験のない僕が誘われたことにまず驚いた。オリエンテーションでここまで仲良くなれるなんて夢にも思わなかった。
「あっ、そうだ2人にも連絡しないと」
明日遊ぶ旨の連絡を静に送る。どうせまだ2人は一緒のはずだ。案の定すぐに連絡は返ってきた。
「無理だ」
「えっ?」
すぐに携帯のコールが鳴る。
「もしもし」
「お前、もう天城さんと遊ぶ約束なんか取り付けたのか?」
「色々あったんだよ」
「残念だが、俺と百奈は明日一緒に映画館に行く予定がある。数ヶ月前から見る約束をしてたし、何よりチケットを取っちゃってるんだな。だからキャンセルも出来ない」
困ったな。どうしよう。
「まぁ頑張れ。お前なら上手くやれるぞ」
「そうそう、頑張って」
2人の応援の声を最後に、電話はプー、プーという音だけが響く。
「どうしよう」
もう約束はしてしまったし今更断るのも、はばかられる。家に着いてただいまの挨拶もそこそこに、部屋に向かい制服をハンガーにかける。
ベッドに座って深呼吸をし、意を決して通話ボタンを押す。
「もしもし、明日のことで話したいことがあってさ」
結論から言えば、天城さんは何も予定がなかったらしく最終的に出てきたのが勉強とのことだったので、僕が映画にしましょう、とすぐに代案を出した。
それを聞くと意外にも彼女的には良かったらしく、「見たい映画があるんです」と1枚の映画のポスター画像が送られてくる。見ると今CMでたまに見る映画だ。
「良いですね。それじゃあこれにしましょう」
「はいっ、よろしくお願いしますね」
快い返事とともに彼女との電話は切れた。「ふぅ」という安堵のため息をついていると、ドアの隙間から見慣れた顔が覗いていた。
「お兄さん、誰と電話してたの」
「誰でもないよ。それより美南、勝手に部屋に入るなってあれだけ言ってるのに」
「うわっ、誤魔化した」
なんで勘だけはこんなに鋭いかなぁこいつは。もう嫌だ、女子と出かけるなんて知れたらたまったもんじゃない。
追い出すようにして、僕ら1階の夕食へと向かった。
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