バス中で
オリエンテーション当日、僕のクラスはバスでの移動なのでいったん学校に集まってバスに乗り込んで出発する事になっている。
「みなさーん、同じグループの人がいたら僕達に報告してください」
委員長の二人が前に立って名簿のリストを持っている。
まだ日が昇って間もなく、薄暗い学校の駐車場はひんやりとした風がそよぐ。
「おはよう三人とも」
三者三様の挨拶をするが、天城さんは朝が弱いらしい。まだ目が時々しか開いていない。目を離したらいつの間にか座り込んでいそうで危なっかしい。
「初めまして、ではないのは分かります。ノートに書いてあったので。よろしくお願いします」
それでも懇切丁寧に挨拶をしてくれて、人数が集まったのでバスに乗る。さすがに男子の隣というのは彼女も嫌だろうから僕は静と、天城さんは百奈の隣に座る。
グループは塊になるように座って、1番後方の席になった僕らは1列になるような配置になる。
「バスで二時間は移動だってよ。暇だし何かしようぜ」
「そういう静は何か持ってきたの?」
「ああ、そりゃあもちろん。雨で外に出れないことも考えて一通りのゲームは持ってきたつもりだ」
そう言って彼の鞄から出てくるのは待っていましたと言わんばかりのゲームの数々。ほとんどはカードゲームだが、定番の者から変わったゲームまで8つ位の箱が出てきた。
「ほんとにたくさん持ってきたんですね」
天城さんは目新しいものを見るような顔で並べられる箱を眺めている。
「そうだ、天城さんがどれか選んでみてよ。それで遊ぼう」
「え、一緒に遊んでいいんですか?」
「そりゃあもちろん。おんなじグループなんだから一緒に遊ぶでしょ」
「……ありがとうございます」
彼女は嬉しそうに箱の裏などをじっくりと見てゲームを選んでいく。そんな無邪気な姿が少し新鮮で、それだけで彼女に勇気を出して誘って良かったと思える。
「じゃあ、これで」
彼女が選んだのは、かの有名な絵柄に名前をつけるゲームだ。
「なんでこれにしたんだ?」
「なんかイラストがかわいかったからだけど、ダメだった?」
「いやいや、全然かまわない。じゃあ、誰からめくる?」
彼は器用にカードをシャッフルして山札を置く。カードゲーム全般、どう考えても新幹線や電車ならまだしも揺れの大きいバスには向いてない。
「だからこその最後尾。ここなら真ん中にも席があるからいいんだよなぁ」
とは言ったものの、すぐに大きめの揺れがあると山札が崩壊しかけ百奈がキャッチしていなければそのまま前方の席に飛び散ってただろう。
「静、しっかりしてよね」
「すまん。山札は俺が持っとくわ」
割とこのゲームは神経衰弱同様に記憶力がいるため必然的に勉強できるやつの方が得意だったりする。なので、中の上くらいの成績である僕と天城さんが大半の札を取った。
「天城さん、すごいね。記憶力良いんだ」
「皆さんのことを覚えられている時点で記憶力が良いかという質問にはいいえとしか答えられないけど、私は勉強が好きだから自然と記憶力も身についたのかも」
そういえば、去年の定期試験の一位を総なめした人が彼女と同じ名字だったような。しかも授業で当てられたときに間違えた事なんて見たことがない。
でも、そんな事を聞くのはなんだか失礼な気がしてゲームを大いに楽しむことにした。何回かそのゲームを繰り返していると、委員長がみんなでも何かゲームをしようということでスマホでもできる人狼ゲームをやった。
まるで僕の人生を表すかのように市民にしかなることはなかったけど、こうやってみんなとやるゲームは隔たりがなくなる感じがして楽しい。
「そろそろ到着しますから、ゲームも終わらせてくださいね」
先頭に座っていた先生がマイクを持って促す。気づけばあんなに空が広がっていた窓の外も、多くが緑を占めているようになっている。
また少しして河原が見え始めた。このオリエンテーションはここからが本番なんだ。
みんながバスから降りて時刻を見れば午前八時。みんな浮き足立っている。僕だってそうだ。
「それでは、昼食になったらここに再集合してくださいね。それでは、解散」
自由時間が始まった。
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