オリエンテーション
僕らの学校は、だいたい5月上旬に1年と2年はオリエンテーションがある。どうもクラスの仲が良くなるようにという名目らしいが、実質遊びに行くようなもんだ。
去年はどこかの牧場に行ってアイスを食べご飯を食べ帰ったので良イベントだと思う。
「茜はどこ行きたい?」
6限LHで来週のオリエンテーションの発表を決める際、話し合いの時間が設けられていた。
「ん〜。何でもいい」
「なんだよそれ」
「俺は多数派なんだ」
「つまんねーやつだなぁ」
つまんないやつなんてそこらじゅういるだろ。とは口に出さない。
「はい、決まりましたか。意見がある人は手を挙げてください」
出た案は、BBQ、牧場、城見学、水族館、海、河川敷。まぁここら辺で少し遠出をするなら妥当な選択肢だ。だけど、
「じゃあやりたいものに手をあげてくださいね。1人2票までで」
クラスで積極的な人達が推したのはBBQ。ならそれに従うは僕みたいな中立の人。大体はこうやって投票は決まる。紙の投票形式にすればいいのに。
「それじゃあBBQってことで。場所はこの辺りだと河川敷がいいですかね、先生?」
「あっ、そうですね。場所と足は私が取っておきますから、他のことは皆さんにお任せしますね」
そんな感じで場所は決まる。あとは当日にする事だが、
「仲の良い友達を作れるやうにしたいので前半はみんなで出来ることを、後半はグループを作ってその人たちと交流を深めてもらいます」
さすが委員長。我々と大人しい組もとい陰キャには手痛いグループときましたか。
だが、幸いなことに僕には静がいる。彼が他の人と組むとなればそれはもう終わりの終わり。中学時代の自分に返り咲くまで。
「よし、組もうな茜」
彼は振り向いてそう言った。僕の心は融解した。
「おう。ありがとう」
「気にすんなって、お前は俺以外とグループを作れるとは到底思えないからな」
「うるさい、余計なお世話だ」
事実なのでこんなことしか言えない。
「36人クラスなので4人1組を作ってください」
あと2人。静は誰を誘うのだろう。まぁ1人は決まっているが。
「じゃああと一人だな、百奈」
「うん!静」
どこから出てきたのか、彼の左腕は既に彼女にがっちり掴まれている。聞いたところ幼なじみらしいが付き合っては無いらしい。
「ていうか腕を離せ。付き合ってるみたいだろ」
「えー。じゃあ付き合おうよ」
「俺はお前のことが好きではあるが恋愛の好きじゃない!」
「ひど〜い」
「イチャつくなら他所でやれ」
お決まりのイチャついてない!がシンクロで返ってくるが、そんな余計なことをしているうちにほとんどの人はグループを作り終えている。
「あー、もうほとんど知ったやつはグループ作ってるなぁ」
周りを見てもいるのはぽつぽつと数人。その中には彼女の姿がある。
「じゃあ、もう1人は僕が決めていい?」
「別に構わないが」
僕は彼女のもとへ向かう。ただ、彼女はまだ本を読んでいる。
「天城さん、僕達とグループにならない?」
本を読んでいた顔が上がる。なんで私という疑問符を浮かべたような顔をしていた。
「あなたとは初対面です、よね?」
やっぱり覚えてはいなかった。だから、僕が覚えていることを言う。
「ノートに、僕の名前がありませんか?」
その言葉を聞いて彼女はハッとする。鞄にしまっていたノートを取り出してページを開いていく。
「僕、茜って言います」
「.........ありました」
その言葉があることで彼女の緊張は少し解ける。
「僕達と組んで貰えませんか?」
「そこまで言うんでしたら。でも、またあなたのことを忘れるかも」
「構いませんよ」
「それじゃあ、お願いします」
ペコりと頭を下げる彼女が顔を上げて、僕は小さく微笑んだ。
「じゃあ、こっちに来て。他の人を紹介するから」
僕らの会話は他の人たちの雑談に掻き消える。あんなのがみんなに聞こえていたら恥ずかしかった気がする。
「4人目、見つけたよ」
「おお、あの茜が」
「感動だね〜」
「うるさいなぁ」
再び始まる茶番に僕がうんざりしていると、後ろからふふっという声が聞こえてくる。
「面白いですね」
「おっ、そうだろそうだろ。こいつは面白いやつなんだ」
僕はなんだか照れくさくなって頭を搔いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます