月夜のラプソディー

@umi9501

第1話 出会い


この人生はまだ続くのだろうか...

あの日から私の人生は、まるで灰色で色を失ってしまったようだ...


月が煌々と輝く夜、1人窓辺に男が立っていた。物思いにふけったその顔はどこか正気がなく、疲れ切っているように見えた。


「もうあれから6年、私も32歳になった。なんだか年寄りのように老け込んでしまったようだ...」


男は窓辺に腰をかけ1人でにそうつぶやいた。

男の脳裏に、あの日の走馬灯が映し出される。


そうあの日いまでもすぐに思い出せる。


-リーンゴーン


「おめでとう!」

「おめでとう!」


そこは大きな教会だった。たくさんの祝福の言葉が飛び交う中、君は純白のドレスをまとい幸せそうに周りに手を振っていた。

隣には見知らぬ男がスーツを着て、彼女の手を取り共に歩いていた。


私はただそれを眺めていた。生きた心地がしなかった。だが、彼女のためになんとか祝いの言葉を捻り出し笑顔を作っていた。


-ずっと片思いだった。

彼女は小さい頃からの幼なじみで、ずっと一緒にいた。物心ついた時から彼女に恋に落ち、いつか思いを伝えようと頑張ってきた。

だが、色々な不安が心を絡め取りその願いは叶わなかった。

自分に自信が無かった。己の心に負け彼女に思いを伝えられなかったのだ。


そして、遂にこの日がやってきた。彼女は私の知らぬ男と恋に落ち、そしてどこか遠い街に行ってしまった。

もう、後戻りはできない、後悔しても遅いのだ。


虚ろな目で月を眺めていると、カーテンが夜風で揺らめいた。

カーテンが元の位置に戻ったとき、急に目の前に人影が現れた。


どうしたんだ?私の目がおかしくなってしまったのか?


私は一瞬目を疑ったが、いや間違いない目の前に誰かがたっている。だが、影が濃くてよく見えない。


「心地いい絶望の匂いがするぞ。その魂頂こうか」


何を言われているのか分からなかったが、目の前の人物が、急に光を放ち始めた。

思わず目がくらむ。


が、次の瞬間。

そこに立っていたのはずっと恋い焦がれていた彼女であった。


「そ、そんな。なぜ...?」


心が揺れ動く。いるはずのない彼女が目の前にいる。長い髪を揺らめかせ、月夜に映し出された彼女はとても美しかった。


「さあ、行きましょう」


彼女に手を差し出され、思わずその手を取る。

彼女は、わたしの手を引っ張り、部屋の外へと連れ出した。

家のすぐ隣には海岸がある。君は海岸に私を連れ出した。そこには思い出が詰まっていた。


小さい頃、貝殻拾いをした思い出、辛い時は彼女とここで話したり、一緒に夕日を見てまどろんだり。

様々な思い出が蘇る。彼女が、カフェで、コーヒを零し慌てている姿や、ちいさなことで喜んでいたときの無邪気な笑顔が。

気がつけば私は頬から滴を垂らし、泣いていた。


目の前にいるのは、確かに思い出深い彼女だった。


「さあ、いきましょう」


彼女のようでまるでこの世のものとは思えない美しい声がそう囁いてきた。


「私を連れて行ってくれるのかい?」

私は彼女の引っ張る方へ体を向けた。

進む先にはぽっかりと空いた丸い暗闇が広がっている。


しかし、急に彼女は私の手を離した。


「やっぱり、やめた。」


そう彼女がつぶやくと、空中に黒くぽっかり空いていた穴は消えてしまった。

わたしは、驚いたような落胆したようなそんな気分になった。


手を離した彼女は、また体から光を放ち、そして、今度は目の前に20ちょうどくらいの女の子が現れた。

全体的に黒いローブを着ている。黒い髪をうしろにたばね、目は赤い。手には大きな鎌を持っている。


「やっぱりやめだ、連れていくのはもう少し絶望が深くなってからだ」


彼女はそう言うと、わたしの手を取ったまま、家の中に戻っていった。

わたしは、事態を全く飲み込むことが出来なかったが、彼女に手を引かれ自分の部屋に戻った。


彼女は有無を言わさず、私の額に手を当てるとそこから光がでだした。


「いいか?いまからお前の記憶を消す。今日のことは忘れるんだ。また心が深く絶望したら来るからな...」


彼女はそう言ったあと、ぼそっと、幸せになればその必要は無いんだがな、と言い呪文を唱え始めた。


私はその光景を見ながら、なんの夢だろうかと思っていた。しかし、最後にこんな幸せな夢を見られたのだから何があっても後悔はない。


しかし、目の前の彼女が焦りだした。


「なぜ眠らない?効いていないのか?記憶を消せないと帰れないぞ...!」


記憶を消す?なんの事だろうか。しかし目の前の彼女は物凄くあおい顔をしている。

こういう時はどうすればいいんだろうか?

私は、幼なじみの彼女があおい顔をしていた時を思い出し、提案をしてみた。


「紅茶でも飲むかい?少しは落ち着くかも、軽い茶菓子なんかもあるが...」


わたしは、おずおずと、テーブルに置いていたティーポットを手に取った。


「いるか!そんな場合じゃないぞ!」


彼女は、ローブから鏡を取りだした。


「至急応答ください、ターゲットの記憶が消せません。」


鏡にまた違う人物の影が映し出される。


「ではターゲットの監視を命じる!以後、これを業務とする!」


鏡の中の人物はそう告げて、鏡から姿を消した。不思議な鏡だ、誰かと連絡ができるようになっているのだろうか。


「な、なんだと...」


彼女は、ガックリとしながら膝を地面に着いた。


「大丈夫かい?」


私はケトルから素早くティーポットへと紅茶を作り、茶菓子と一緒に用意した。


「大丈夫なわけない...」


彼女の絶望した顔が、よく見える。彼女が何者なのかは分からないが、とにかく元気づけようと思っていた。

落胆する彼女と、あれこれと用意する自分がいた。


そして、これが彼女と私の出会い出会った。

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