第3話 合わせて1001話の物語 


つまり、水星や木星や土星が、ドッチボールくらいの大きさで、

部屋の中に浮かんでいたんだ。


5歳の時は、それが何なのか分からなかったけれど、

今思えば、あれは僕の生まれた瞬間の天体図だったのかもしれないね。


僕は長い間、珍しげにあたりを見回してから、

やっと気がついたように壁の本棚に歩いて行って、1冊本を手にとってみた。


どれも5歳の僕の手におさまるくらいの小さな本だった。

1ページめくると、


『5さいのぼくへささげる』


と書いてあった。


また1ページめくると、


『きみいろのとしょかんへようこそ』


と書いてあった。



その本のページをめくっていくと、

僕が主人公の物語が書かれていたんだ。


1冊に1話。

本棚には、合わせて1001話の物語が並んでいた。


アラビアンナイトっていうお話は、千一夜物語とも言うよね。

どうやら、僕たちの体験できる物語は、本当は千と一回ほどあるみたいなんだ。


僕らは、こうなったらいいな、ああなったらいいなって、よく思うでしょ。

そう思ったことは、本当は、君だけの『きみいろ図書館』の本の中に書かれていて、

君がやればできることなんだ。


この千一話の中には、僕の性格、才能、好きなこと、住む環境のこと、

家族のこと、学校のこと、友達のこと、仕事のこと、それに結婚相手のことも……本の数だけ書かれていた。


ある本では、僕は天文学者の仕事をしていた。

そして、ある日、新しい彗星を発見して、

それからその彗星は、こうじ彗星と呼ばれるようになるんだ。


またある本では、僕は地球の環境を調べる冒険家なんだ。

南極や北極の氷のとけ具合を調べるため犬ゾリで氷上を旅したり、

アフリカのサバンナや砂漠では、野宿をしてかんばつや砂漠化の様子を調査し、

ブラジルでは、密林や川の生態系の変化を観察して報告したりしていた。


他にも、交通事故で足がマヒしてしまい、

車イス生活をしながら、花屋の店員をしている物語。


若い時にアイルランドに留学して、

ある著名な思想家の家にホームステイする物語もあった。



〈続く〉

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