涼宮ハルヒの真相(☆〈涼宮ハルヒの転生〉改題)
さきはひ
プロローグ
「WEB小説を、書くわよ!」
例のごとく、我らがSOS団の団長:涼宮ハルヒがそう言い出したのは、俺たちが2年生に上がり、うっかり1年の頃の教室へ足が向かいそうになることもなくなった、初夏の日のことであった。
「なんだって?」
はじめ、俺はハルヒの言ったことが上手く聞きとれず問い返した。
うぇぶしょうせつ?
「WEB小説よ、ウェブ小説。小説を書いて、インターネット上のサイトに投稿するの」
小説なら、前に会誌を発行しただろう。何が嬉しくて、物書きの真似事を二度もやらなきゃならないんだ。
「あれは、あくまで校内に向けたものじゃない。いい、キョン? 時代は刻一刻と進んでいるの。今度は私たちの小説を日本全土へ……いいえ、全世界へ発信するのよ!」
早くも言語の壁を超越しやがった。そんなもの、こいつの頭の中には最初から存在していないのかもしれないが。
「なかなか面白そうですね。ジャンルは、どうするんです?」
横合いから、入れなくてもいい合いの手を入れやがったサワヤカ顔の優男は、古泉一樹。
本来はSOS団にブレーキをかける役のはずだが、どうも最近は、こいつが調子に乗せるブースターになってるように思えてくるぜ。
「よく聞いてくれたわね、古泉くん。私たちが書くのは――異世界ファンタジーよ!」
一切の迷いなくハルヒは答え、ホワイトボードをバンと叩いた。生憎そこには異世界ファンタジーを表す何物も描かれてはいない。
「異世界? って、異なる世界って意味だから……こことは、別な世界のことですかあ…?」
律儀に質問を発したのは、今日もキュートでラブリーなSOS団マスコット役でもある朝比奈さん、こと、朝比奈みくるだ。
ハルヒのあられもない表現によれば『ロリ顔・巨乳の萌え系美少女』ということになるわけだが、彼女の魅力はそれだけでは言い尽くせない。知りたければ各人が来て、見て、触らないで確かめることをオススメする。
「ちっちっちっ。解ってないわね、みくるちゃん。別な世界っていうだけじゃ不充分よ。異世界って言ったら、それは西洋中世ファンタジーって相場が決まっているの。
ネットで検索ワードに〈異世界〉って入れて検索してご覧なさい。剣と魔法の異世界ファンタジーの情報が、山のように出てくるわ」
おいおい、それは拡大解釈というものじゃないか? 「異世界」ってワードのどこに『西洋』や『中世』が入ってるんだ? そんなものは日本=Mt.フジヤマだと断言するくらい偏狭な思い込みだと思うのだが、それがハルヒの意見ならば、それが世界の常識なのだろう。
「で、どうするつもりなんだ? まさか、いまから書くとか言うつもりじゃないだろうな」
「そんなこと言わないわよ。だってもう、書いてきたんだもの」
何? もう書いてきた?
「これからアップするから、そこで見守ってなさい。もちろん、このパソコンを使ってね」
俺が口を開けている間に、ハルヒはパソコンの電源を入れ、鞄から持参したUSBディスクを取り出していた。
誰か、ガツンと言ってやるヤツはいないのかと室内に目をやれば、残り3人は黙ってハルヒを……というより、俺を見つめていた。
「………」
それは、さっきまで膝上の分厚い本に視線を落としていた長門有希も同じだった。
無言のままなのは変わらないが、さすがに何が起こっているのか気になったようで、ビッグバンが生じる前の宇宙みたいに澄んだ瞳をこちらに向けている。
まったく、俺が付き合うしかないのか。
観念して立ち上がり、ハルヒが座る団長席に向かった。そこには我がSOS団が常備するデスクトップが一台。去年の春にコンピュータ研究部から
俺は個人的に、このパソコンには深い思い入れがあるので、OSが変わってもアップグレードして使いたいと思っていたりする。他の奴らの考えは知らないが。
「何、キョンあんた気になるの? しょうがないわね。全世界に公開する前に見せてあげるわ。未来のベストセラー作品が、いち早く拝めるのよ。光栄に思いなさい」
ハルヒのことだ。どんな奇妙奇天烈摩訶不思議な文字列が並んでいるかと危惧したが、開かれているテクストデータは日本語として読める代物だった。
「なんだ、思ったより短いな。こんなのでいいのか?」
「最初はみんなこんなもんよ。長い大作長編でも短く切って、細切れにアップしていくみたいなの」
そんなもんか。新聞や大衆雑誌の連載小説みたいだな。誰でも書いて投稿できるとは、ずいぶん手軽な時代になったもんだ。
程なくして、ハルヒは自作小説のアップロードを終えた。
「投稿完了!」
ハルヒは久々に雲間から顔を出した太陽のように期待に満ちた笑みで、
「人気が出る作品は1話からお気に入りが付いたり、話題になったりすることが多いらしいわ。
きっと明日のこの時間までには1万アクセスくらいされて、大絶賛の感想も付きまくってるにちがいないわ! そう思うと、続きを書く気も湧いてくるってもんよ。
さあ、今日は下校時間が来るまで、ここで続きを書くことにするわ。みくるちゃん、お茶持ってきて! なるべく熱いのをね」
発言の前半と後半が繋がってないのはいいとして、そう簡単にいくもんかね?
いつものようにメイド服姿で、人数分の湯飲みを用意する朝比奈さんを眺めながら、俺は自席へ戻った。そういえば読みさしの文庫本があったはずだ。たまには読書の秋ならぬ、読書の梅雨と洒落こむか。
だが。
この時点で俺はハルヒの真意を、何ひとつ解っていなかった。
そうだな。例えば、俺が涼宮ハルヒとはじめて出逢ったあの日――。
俺が
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