La PAN-T!

@shinsurarin

La PAN-T!

ここは動物たちの住む島、ヌーブ・ランド。


ピョン「んー、おいしいー♡」


ある家庭の食卓で、1人のウサギの少女がローストチキンをほおばっていた。

少女の名はピョン・白萩。

野菜よりも肉が大好きな、ごく普通の女の子だ。


ミミ「今日は出かけるんだっけ?」


ピョン「ん!」


少女の母親、同じくウサギのミミ・白萩がそう聞くと、ピョンは頬を膨らませながら頷く。


ピョン「PAN-T買いに行くの!」


今動物たちの間では、大流行している衣服がある。

名を「Pretty Angelic New Triangle」、略してPAN-T(パンティー)。

脚を通して下から着る、今までにない全く新しいタイプの衣服だ。

様々な形や柄の物があり、アクセサリーとしてもコレクションとしても、動物たちの間で大きな需要を得ていた。


ミミ「あれ? PAN-Tなんて興味ないって言ってなかった?」


ピョン「んん……せっかくの人生初カレシ、初デートだからさ。……今よりも、もっといい自分になってから挑みたいの」


シルバ「……ま……まて……カレ、シ……?」


その会話に、新聞を持つ手を震わせながら父親、ゴリラのシルバ・白萩が入ってきた。


シルバ「……父さんは……そんな話聞いてないぞ……?」


ピョン「……あれ、言ってなかったけ? 1週間前に出来たんだ~♡」


ピョンのカレシ、ガオー・館上(たてがみ)。

身体の大きいライオンの男子で、優しく頼りがいがある、とはピョン談だ。

つい一週間前、ピョンの方から告白してめでたく彼氏彼女となった関係。

しかしデートはおろか、まだ手をつないだことすらない。


シルバ「そんな、そんな……娘に……!」


バリィッ! とシルバは新聞を引き裂く。


シルバ「カレシが出来てしまったぁ! おおおお~んっ!」


シルバは腕で目元を抑えながら、滝のような涙を流した。


ピョン「ちょっとこんなことで泣かないでよお父さん!」


シルバ「こんな事とはなんだこんな事とはぁ! ミミちゃぁん……! 娘が……娘がまた一歩私から離れていくよぉ!」


ミミ「はいはい、新しい新聞」


そんなミミは、慣れた様子で本日3部目の新聞を渡した。


シルバ「ありがとう……ミミちゃんは優しいねぇ……」


ピョン「ん。ご馳走様! じゃあ行ってきます!」


象牙のように綺麗に食べきったローストチキンの骨を皿に置き、ピョンは玄関のドアを開けた。


ミミ「いってらっしゃぁい。分からなかったら、店員さんに聞くのも良いわよぉ」


ピョン「はぁい!」



大手ブティック、アリゲート・ゴザマース(AG)支店にて、ピョンは姿見の前に立っていた。


ピョン「うーん、どれが良いかなー」


いくつものPAN-Tを着脱してみるが、今まであまりファッションに気を配って来なかったピョンにはどんな色のPAN-Tも、どんな形状のPAN-Tも同じに見えてしまう。


ピョン「わかんないよぉ……」


店員さん「どうかされましたか?」


泣き事を言い出したピョンを見かねて、カバの店員さんが話しかけて来た。


ピョン「ファッションするの初めてでぇ……なんにもわからないんですぅ……」


店員さん「そうですか……では、こちらなんてどうでしょうか?」


店員さんは相違ながら、1枚の淡いピンク色のPAN-Tをピョンに手渡した。


ピョン「でも、ピンクのPAN-Tはもう試着したんです……そしたら、なんか派手で、合わなくて……」


店員さん「いえ、こちらのピンクは少し薄いんです。ぜひ、騙されたと思って着てみてください」


ピョン「は、はい……」


ピョンは着ていたPAN-Tを脱いで、今しがた店員さんから渡されたPAN-Tを身に着ける。


ピョン「う……うわあ! 凄い可愛い! ちょっとの色だけで……こんなに変わるなんて!」


店員さん「お客様のような真っ白な毛には、溶け込むようなパステルカラーがよく似合いますよ。これからの衣服も、それを意識して色合わせをしてみてはいかがでしょうか?」


ピョン「あ、ありがとうございます!」


店員さん「ふふ……♡ デート、頑張ってくださいね」


突然そう言われて、ピョンは驚く。


ピョン「ええっ!? な、なんで分かったんですか!?」


店員さん「まあ、長い事やっていると、なんとなく分かるといいますか……」


ピョン「す、すごいなぁ……」


店員さん「応援してますよっ」


ピョン「はいっ! ガオーくんに幻滅されないように、がんばります!」


ピョンは店員さんから貰った覚悟と勇気を胸に、買ったPAN-Tを握り締めて、店を飛び出した。


店員さん「……はぁ。私も、あんな時期があったわねぇ……」



ピョン「PAN-T♪ PAN-T♪ PAN-T♪ いえーい♪」


ぴょんこぴょんことスキップしながら帰路についていたピョン。

そんなピョンに、突然大きな影が落ちた。


ピョン「ん? なんか、急に暗く……ええっ!?」


ピョンが上を向くと、そこには町を丸ごと覆うような巨大な空飛ぶ円盤が浮かんでいた。


ピョン「なに、あれ……?」


町の人々も同じ気持ちらしく、ざわざわとし出す。

携帯を取り出して撮影する者、円盤に恐怖して逃げようとすっ転ぶもの、何もできずにフリーズする者など、反応は様々だった。


みょんみょんみょんみょんみょんみょんみょんみょん


ピョン「わっ!?」


突然、円盤から謎の音と共に光線が町に降り注ぐ。

そして、追い打ちをかけるように町中で不思議な現象が発生する。


店員さん「このPAN-Tはこっちの陳列で……ってあら? あらあらあら? あらあらあらあらあら!?」


先ほどピョンが訪れたブティックのPAN-Tが、風も起きていないのに浮き上がり円盤に巻き上げられていった。

それは別のブティックのPAN-Tも、更には個人の手に渡ったPAN-Tさえも、町中のPAN-Tの全てが空を舞い円盤に向かって吸い寄せられていった。


綺麗なお姉さん「きゃーっ!? 私のPAN-Tが!?」


別の店の店員「ま、まてぇっ! 入荷したばっかりのPAN-T~っ!」


リポーター「き、緊急事態です! 謎の円盤が、街中のPAN-Tを吸い上げています!」


それはもちろん、ピョンのPAN-Tも例外ではなかった。


ピョン「なにが、起きて……あ、ああっ……?!」


ふわ、と風船のように浮かび上がった淡いピンク色のPAN-T。

踏ん張ろうとしたピョンだったがその力はクレーンでも使っているかのように強く、徐々にピョンは引っ張られてしまう。


ピョン「こ、この……! これは……私の……店員さんから貰った覚悟と勇気が詰まったPAN-T……! 渡して……たまるかぁああっ……!」


踏ん張りも限界に達したピョンは、円盤に引き寄せられるPAN-Tを追うように走るようになっていた。


ダダダダダダダダッ


ピョン「諦めてたまるかーーーーーいっ!」


気づけば、もう空を舞うPAN-Tの姿は無かった。

町に残すPAN-Tはもうピョンが持つ1枚のみ。

すると、円盤は仕事を終えたかのように町の上空から移動し始めた。

ピョンのPAN-Tはその円盤に追従するように、横への移動を強める。


ピョン「ぅりゃーーーーーっ!」


目の前にビルがそびえたつが、そんなものピョンの障害にもならない。


ダンッ! ダダダダダダダダダァッ!


壁を踏みしめ、駆け上がりながらもピョンは絶対にPAN-Tを手放さなかった。


ダッ


ピョン「あれっ?」


しかし、ビルにも高さという物がある。

ピョンの身体は勢いのまま空中に放り出され、支えを無くした身体はPAN-Tに引っ張られる。

上に向かって引っ張る力とピョンの体重が釣り合い、ピョンは高度を保ったまま飛んで行った。


ピョン「はぁ、はぁ、はぁ……で、でも結果オーライだね……! このまま、私のPAN-Tを奪おうとする悪い奴らの所まで飛んで行っちゃおう!」


そのままピョンとPAN-Tが空を飛んでいると、いつの間にか町を遠く離れていた。

そして気づけば、地平の向こう側に何か大きな建物が見えて来た。


ピョン「あれ、こっちの方って島の真ん中だよね……? 島の真ん中にある物と言えば……」


そこにそびえたつは、大きなAGのロゴの入った工場。

アリゲート・ゴザマースの本社兼・大工場だった。

そして空から見た工場のてっぺんには、あの謎の円盤が鎮座していた。


ピョン「な、なんで……?」


そのままピョンがPAN-Tと共に工場の塀を超えて中に入ろうという時だった。


バヂィンッ!


ピョン「んべぇっ!?」


突然の事だったのでピョンも反応できなかった。

ピョンの身体は見えない壁のような物にぶつかり、思わずPAN-Tを手放してしまったのだ。


ずるずるずる……


見えない壁を引きずり落ちるピョン。

しかし、PAN-Tは壁など無いかのように工場の塀の中に飛んで行き、建物の影に隠れて見えなくなってしまった。


ピョン「……わたしの……PAN-T……」


ピョンはそのまま引きずり落ち、塀の上に降り立った。


ピョン「なんで……なんで、アリゲート・ゴザマースの工場にあの円盤があるの……? アリゲート・ゴザマースが、PAN-Tを盗んだの……? アリゲート・ゴザマースは、PAN-Tを作って売っているのに……?」


色々な疑問が沸き起こるが、それらは全てピョンの1つの感情に塗りつぶされた。


ピョン「……いや……そんな事…………今は、どうでもいい!」


ぎゅっ、と握った拳を、ピョンは見えない壁に叩きつける。


バヂィン!


ピョン「私のPAN-T~~~っ! わ~た~し~の~っ!」


怒りのままに、拳をガンガンと何度も叩きつける。

その様子は可愛らしくだだをこねる子供のようだったが、よく見ると見えない壁にヒビが入っているのが見える。

ゴリラの父親譲りの怪力だ。

ただそれでも力が足りないのか、ヒビは入ったそばから直っていた。


ピョン「かーえーしーてー! かえしてかえしてかえしてーっ!」


一瞬、買いなおす事を考えたピョンだったが、町中のPAN-Tはもう円盤に吸い上げられてしまっている。

なにより、同じ種類のPAN-Tが店頭に並べられていてもピョンは納得しない。

店員さんに覚悟と勇気を貰った、あのPAN-Tでなければいけないのだ。


ピョン「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……無理だぁ……」


一通り暴れたピョンは、一旦怒りを治めて冷静になる。

そして、なんとか壁を壊す方法が無いかと考えを巡らせる。


ピョン「……なにか、強い武器みたいのがあればいいんだけど……? ……あっ!」


その時、何かを思いついたピョン。


ピョン「神殿だ!」


このヌーブ・ランドには、3つの神殿が存在する。

森の奥地にある、森の神殿。

砂漠の中心にある、砂漠の神殿。

洞窟の最深部にある、洞窟の神殿。


ピョン「そこの神器を使えば、もしかしたらこの壁も壊せるかも……!」


そして、1つの神殿に1つずつ、神器が祀られている。

森の神殿には、振るえば草を生やす剣、ソードオブリーフ(草ノ剣)。

砂漠の神殿には、投げれば炎を放つブーメラン、ブーメラメラン(炎ノ飛来棍)。

洞窟の神殿には、身に着ければ雷の力を得るバックル、T(サンダー)=バックル(雷ノ尾錠)。

これらが存在する事はヌーブ・ランドでは常識なのだが、もちろん実際に使ってみようなんていう者はいない。


ピョン「よし、早速集めてみよう! 全部装備したら絶対壊せるよね」


……ある意味ではとても純粋な少女、ピョンを除けば。

ピョンは塀を飛び降り、3つの神器を集めるためにまた駆けだした。





迫りくる初デート……!

ウサギの少女ピョンは無事PAN-Tを取り戻せるのか!

行く手を阻む社員にロボ!

立ちはだかる、幹部達!

PAN-Tアクションを駆使して敵を蹴散らせ!

そして、大手ブティックAGの目的とは一体……!?


爽快PAN-Tアクション、La PAN-T!

応援よろしくお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る