第37話 武器探し
八城は、散乱していたカート1台を取り、買い物かごを乗せてガラガラと押していく。
「この中に材料を入れていきます」
「材料‥‥? 武器、選ばないんですか?」
棚橋は訊いた。国府達3人もカートを押す八城に目を向ける。
「武器は作るんですよ。あの羊に効果的な武器をね」
「作る!? そんな時間あるんですか?」
「正直わかりません。だから急ぎましょう」
八城は足早に次々と材料をかごに入れていく。
・コーキングガン×3つ
・ガスボンベ3本セット×5つ
・10cm真鍮パイプ(内径3mm)×3本
・ハンドタイプコードレス電動ノコギリ×1台
・平形6層電池×2個
・充電式プラズマライター(先端が自由に角度を変えられるもの)×3個
・絶縁テープ×2個
・養生テープ×2個
・板金ハンマー×1丁
「よし。これで揃いました。次は園芸コーナーに行きましょう」
八城はひとりで納得し、カートの向きを変えた。
「八城さん、これで何を作るんですか?」国府は訊いた。
「火炎放射器ですよ」八城は平然と答えた。
「えっ! 火炎、放射器!?」
宗宮は、火炎放射器なんていう物はゾンビが襲ってくるゲームか映画でしか見た事がないので、八城が実際に作ろうとしていることに驚いた。
「はい。3丁作ります」
「え、あの、危険じゃないんですか? 扱いとか。それに作るのとか犯罪にならないんですか? ほら、なんだっけ、銃刀法違反‥‥みたいなっ」
棚橋はあたふたしながらそう訊いた。
「あとできちんとレクチャーしますよ。それと犯罪ではありませんし、銃刀法違反でもありませんのでご安心を」
八城はにこっと優しい表情を棚橋に向けた。
「棚橋さん、これくらいの武器がないと倒せないですよ」
海藤は真顔でそう言った。
「あぁ、そうだな。すまんすまん、ついな‥‥」
「このコーキングガンって何ですか?」
国府はトリガーのようなものが付いたプラスチック製の道具が気になった。
「あぁ、これは建物とかの隙間を埋めて漏水を防いだり、外壁の劣化を防ぐコーキングという施工をするための道具ですよ。本来はここにコーキング剤のカートリッジをセットして使うんですが、ここにガスボンベをセットします。それだけでも見た目は火炎放射器っぽくなりますよ」
八城はコーキングガンを手に取り、指でさし示しながら説明した。
「コーキング‥‥。初めて聞きました。こんな道具があるんですね」
「まぁ、使い方は間違ってますけどね。さぁ次、急ぎますよ」
八城達は園芸コーナーに向かった。
♢
八城は園芸コーナーで周囲を見渡し、何かを探し始めた。
「あった。これです」
国府達は八城が手に取ったものを覗き込んだ。
—―—―
「これって、ネズミを殺すやつですよね?」海藤は訊いた。
「そうです。結構種類がありますね」
八城は両手でメーカー別に殺鼠剤の裏表紙を見比べている。成分を見ているようだ。
「殺鼠剤をどうするの?」と宗宮は首を傾げながら訊いた。
「羊の腹の口にぶち込みます」
そう言って、八城はこっそりスマホで撮影した羊の画像を見せた。
その画像は阿古谷といる時に撮ったもので、羊が床の死体を右手で掴んで腹の大きな口に入れようとしていた。4人は画面を凝視した。
「え、なにこれ‥‥‥」
宗宮は目を丸くして口を押えた。
「棚橋さん達は羊を見ていませんよね? 死体を食おうとしている画像なので正直見せようか迷いましたが、どういう姿をしたヤツなのかこれでイメージが付きましたか? この胸から腹にかけて裂けた大きな口に殺鼠剤を食わせるんです」
「化け物ですね‥‥」国府は呟いた。
「殺鼠剤なんかでこんな化け物殺せるんですか!?」
棚橋は声を張った。
「殺鼠剤は毒薬や劇薬に分類されるものも多く、成人でも一定量飲めば死に至るくらい危険な薬剤です。ただ、ある成分が混合されているものがいいのですが‥‥‥、」
八城はそう言いながら、また裏表紙の成分を入念に見比べていく。
「あっ! このメーカー‥‥」
八城がそう声に出したので、国府はその殺鼠剤に目を向けた。
そのパッケージには赤色で
メーカーはパラサイクロプス社と記載されており、不気味な目玉のようなロゴが目立っていた。
「さすがパラサイクロプス社ですね。リン化亜鉛を主成分としている‥‥」
「有名な会社なんですか?」
「アメリカの毒物やウイルス研究の最高機関です。解毒剤やワクチンなどを開発している会社なんですが、殺鼠剤なんか出してたんですね。恐らくこの殺鼠剤は最強クラスだと思います」
「そのリン化亜鉛ってどんな成分なんですか?」
「超危険毒物です。リン化亜鉛は、酸や水分と強く反応しホスフィンという有毒ガスが発生します。例えば、人がリン化亜鉛を飲んだら胃酸に反応し体内でホスフィンが発生します。このガスは中枢神経を侵す神経毒で、嘔吐、頭痛、めまい、呼吸困難、昏睡状態、肺水腫などを引き起こし死に至ります」
「げ、めちゃヤバいじゃんそれ。でも倒すまで時間掛かりそうじゃない?」
と宗宮は驚きながらも疑問をぶつけた。
「では、先に羊の倒し方を伝えておきます。羊の腹の口は、死体を強力な酸のようなもので溶かしながら噛み砕いて食うと先程お伝えしましたね。この殺鼠剤を大量に食わせると、それ相応のホスフィンが発生する。不完全体の肉体ですし効果は絶大なはずです。ホスフィンは引火性が極めて強いガスなので、もし大量にガスが充満した口内に向かって火炎放射器を放てばどうなります?」
「なるほどっ。爆発が起こります」国府は合点がいった。
「その通り。羊の体ごと吹っ飛ばします」
「でも、どうやって大量に食わせるんですか?」と海藤は訊いた。
「トレータイプの殺鼠剤ならトレーごと投げ込んでも良かったんですが、このパラサイクロプス社の殺鼠剤はビニールパックに粒が詰められているだけのタイプです。なので、あのイベントスペースにあるガチャポンの容器に粒を満杯に詰め込みます。まず羊のヤツに火炎放射器を放ち、
八城の作戦を聞いた棚橋達は不安そうな、釈然としないような表情をしていた。本当にできるのだろうか、襲ってこないだろうか、様々な不安と恐怖心が湧いてきた。
「やるしかないですね」
海藤はきりっと強気な表情に変わった。棚橋、国府、宗宮も、うん、と頷きながら覚悟を決めた。
「でもさすが医者だねー。頭良すぎっ! あたしそういう化学とか全くわからないからなー」と宗宮は感心した。
「ありがとうございます。正直このビニールパックをまるごと投げ込んでも良いかと思ったんですが、外した時のことを考えると投げ入れる回数を増やした方が得策なのでカプセル作戦に至りました。実行あるのみです」
その時、トランシーバーから奥原の声が響いた。
「こちら奥原。みなさん、おもちゃコーナー向かいにある、
♢
―—阿洲里忍者村——
北海道の南西に位置する
綺麗なホテルや味のある旅館が立ち並び、源泉かけ流しの湯が人気で道外からの観光客や外国人観光客も多く訪れる場所だ。国府も友里恵と結婚する前に温泉旅行でよく足を運んでいた。
ここには阿洲里忍者村という人気観光レジャースポットがある。忍者の文化、歴史を学ぶことができ、野外ショーや劇場の観賞、忍者体験、長屋や忍者屋敷巡りも子供から大人まで人気を博している。
スーパーダイドーでは、10月1日から10日まで『阿洲里忍者村が白別町にやってくる!』というイベントを開催しており、ホームセンター内の一部エリアで忍者村コーナーが設けられていた。
江戸の長屋をイメージして作られたイベントブースが立ち並び、忍具の見本のショウケース棚が並び、また歴史資料や本、木刀や模造刀、忍者グッズやお菓子などのお土産コーナーもある。
ここには忍者村から派遣されてきたスタッフがいたのだが、その影や気配はない。恐らくヤツラの犠牲になったのだろう。所々に血が付着している。
八城と国府達4人、そして阿古谷は忍者村コーナーに集まった。
奥原と鮫島は模造刀と木刀が売っていた長屋ブースの前に立っていた。模造刀はブースの壁に何本も掛けられている。
鮫島が右手に何かを握っており、それを眺めているようだった。
「どうかしたんですか?」八城はふたりに問いかけた。
「これ、見て下さい」
奥原は鮫島の握っているものを指差しながら言った。
「模造刀‥‥ですか?」
「いや、本物の日本刀だ」
鮫島は刀身を八城に見せた。八城は指先で刃の部分の側面をなぞるようにして軽く触れた。
「本物の刃、ですね‥‥‥」
八城は、なぜここに本物の日本刀があるんだ?、と疑問に思った。
「壁に掛かってる他の刀は全て模造刀だ。この壁に注意書きが付けられていたから誰も触れることはなく、本物に気がつかなかったんだろう」
鮫島が左手に持っている注意書きをみんなに見せた。
それには『お手は触れないでください。監視カメラ作動中』と書かれていた。
「えっ、なんで本物の刀があるの!? 全然模造刀と区別付かないんだけど」
阿古谷は壁に掛かっている模造刀を一刀とり、鞘から抜いて刀身を見ながらそう訊いた。
「区別はすぐつく。刃が付いているか、そうでないかだ。もっと言うと刀身の
阿古谷は鮫島の持っている刀と刀身を見比べるが、なんとなくしかわからなかった。
「全て最初から仕組まれていた。閉鎖されて生き残った人間に、ヤツラと殺し合いをさせるための武器をわざとここに紛れ込ませたんだ‥‥」
鮫島は自分の見解を示した。
「えぇ、恐らくその考えで間違いないと思います。完全に仕組まれていますね。ここまできたらもはや何が起こっても驚きませんけど」
八城も鮫島の考えに同感した。
「そうだな。この刀は
鮫島の武器が決まり、刀を素早く鞘に収めた。
国府はそれを見て、その収め方はまるで剣豪のようだった。鞘に収める刀身が早すぎて見えなかった。刀の扱いには相当慣れている。
~(馬の持つ
一方、鮫島の打刀という日本刀は、刃渡り70cmで江戸時代の武士が主に使っていた
「鮫島さん、刀の扱いは慣れてるんですか!?」
奥原も鮫島の鞘に収める姿を見てそう訊いた。
「あぁ。銃より得意だ」
「俺はネイルガンを選びました」
「ほぉ。良いの見つけたな奥原」と鮫島。
「えぇ、これ最新モデルらしいです。コンプレッサー不要かつ電動で楽に釘を打ち込めるのですが、銃弾のように飛ばせるくらいの威力です。なので拳銃代わりに利用させていただきます。しかもロールネイラー式で、
奥原の足元に置いてあった買い物かごの中には、
・最新式電動ネイルガン (ロールネイラーモデル)×1台
・専用充電器×1台
・ロール釘(ワイヤー連結されているもの。1巻 300本) ×6巻
・ショルダー工具バック(肩から斜め掛けして背負えるタイプ)×1個
が入っていた。
「銃には銃で対抗するということですね」と八城。
「そんなところです。俺は拳銃が得意なんですが、あいにく今は持ち合わせていません。だからこのネイルガンを銃代わりにしようと思います。なんせ相手はマシンガンですからね。腕比べです」
「みなさん武器は決まったようですね‥‥」
八城のこの一言で全員の顔つきが変わった。
国府は腕時計に目を向けた。時刻は11時15分になろうとしていた。
武器が決まったということは、あと待ち受けているのはヤツラとの死闘のみだ。全員がヤツラを倒せるという保証は無い。初めて生と死の分岐点に立たされている。自分が死ぬかもしれない。ここまで協力し合ってきた仲間が死ぬかもしれない。そんなことばかりが頭の中を
「そろそろ戻ろうか。時間が迫ってる‥‥」
鮫島は鞘に収めた刀を肩に掲げながら言った。
「えぇ。急ぎましょう」
八城は全員に顔を向けた。
全員小さく頷き、元SoCoモバイルイベントスペースに戻っていった。
第38話へ続く・・・。
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