第14話 緊急措置

 周囲の客達はざわつき始めたが、そのアナウンスに皆耳を傾け始めた。


≪お客様にお伝え致します。店長の浅川です。13時30分頃に発生しました地震によるシステムトラブルについて現在の状況をお伝えします。我々スタッフ一同最善を尽くしておりますが、当店の出入り口となる正面2カ所の自動ドア及び3階の屋上駐車場の自動ドア、従業員出入り口も未だ復旧の目処が立たず、開閉できない状況が続いております‥‥‥≫


 このアナウンスが流れた時点で、また店内がざわつき始めた。

『えーーー!!』

『どーなってんのよ!』

『いつまで待たせるつもりだよー!』

『ふざけんなーーー!』

『そうだ! そうだ!!』


 ザワザワザワザワザワザワザワザワザワ‥‥‥———————


 その時、、、


――――「てめぇらうるせーよ! 黙って聞けやっ!! コノヤロォ!!」


 がたいの良い強面の長身男が一喝し、店内にその怒号が響き渡った。

 恐らく、その男は身長180cm以上はあるだろう。見た感じ年齢は30代半ばというところか。

 グレーのジャケットに白いパンツと黒いブーツ。髪は茶髪でツイストパーマをかけているミディアムショート。

 首にはアラビア文字のようなタトゥーが入っている。腕を組んでアナウンスを聞こうと仁王立ちしている。

 あんな男に怒鳴られたら誰だって黙り込んでしまうだろう。


――――「ふふっ言うねぇ」

 腕を抱えて壁にもたれかかっていたが、口角を上げてボソッと呟いた。

 その男は、肩まである長髪で、毛先にいくに連れてグレー色から茶色へ変色するようなグラデーションカラーにしている。



 シーーーン‥‥‥――――――

 店内は一瞬で静まり返った。



 アナウンスは続く。

≪えー‥‥また、非常口も原因不明ですが開閉ができません。店内のWi-Fiも復旧しておりません。もし、どなたか通信が回復したという方がいらっしゃいましたら、すぐに救急車を呼んでいただきたいです。恐らく、皆様も通信ができないままかと思います。ただ、約2時間が経過した今も、何も改善の目処が立てられないというのは埒が明かないと考えております。お客様を不安にさせてしまい大変申し訳ございません。そこで、私店長判断で決断をしました。緊急措置と致しまして、自動ドアの取り壊しを実施したいと思います。今から自動ドアを取り壊すための準備をし、1階自動ドアへ向かいます。この作業は我々スタッフにお任せ下さい。緊急措置の際に、破片等が飛んで怪我する恐れがある為お下がりください。それでは数分後、決行します‥‥≫


 ピーンポーンパーンポーン。アナウンスが切れた。



 客達は、またざわつき始めた。

『聞いたか、今の!?』

『自動ドアを壊すんですって!』

『オープンしたばかりなのにな』

『あ、あぁ‥‥まぁそれしかもう方法は無いだろ』

『とんだ災難だよな』

『まぁ、これでやっと出られるのな』

『はぁ、恐かったよぉ』

『外に出たら、スマホ使えるわよね!? 救急車呼ばなきゃ!』


 ザワザワザワザワザワザワザワザワザワ‥‥‥———————



 国府達は、今の浅川店長のアナウンスを聞いて話し始めた。

「はぁ、やっぱりあの非常口も開かないんですねー。何のための非常扉なんだかー。今がその非常事態だっつーの」

 宗宮は溜息をつき、呆れた顔でそう言った。


「地震でこんなにも影響が出るなんてな。てか、スマホの電波が立たなくなるっていうのも謎なんだよなぁ」

 棚橋は言った。


「せっかくのダイドーイベント‥‥台無しですね」

 海藤は俯きながら言った。

「そうですね。この調子だと明日以降も無理そうですね」

 国府はやっと開催できたイベントだからこそ残念に思った。

「でもこれでやっと外に出られますねー。外ならスマホも使えるっしょ。松江さんに急いで報告しないとー」

 宗宮は安堵した表情でそう言った。


「そうだな。じゃあ俺らも自動ドアを破壊するところ拝ませてもらおうか」

 そう言って、棚橋は立ち上がった。

 4人で会話している間に、歩行スペースがさらにざわつき始めた。その雰囲気を感じて、4人はイベントブース前に一歩出て遠目から眺めた。


 その時、ぞろぞろとスーツにエプロンを付けた6人組が、スーパーの売り場の方から歩行スペースに出てきた。

 前方の3人は、柄の部分が長めの大きなハンマーのような鈍器を持っており、後方の3人は透明で大きいシールドのようなものを持っている。

 国府はその様子を見て、先頭にいるのは店長の浅川で、後の5人はこのスーパーダイドーの各責任者や社員だと分かった。

 客達も野次馬のように注目している。


 浅川は左手に拡声器も持っており、6人は東側自動ドア付近まで来た。その拡声器を使って建物全体に声が行き届くように話し始めた。


「えー、店長の浅川です。皆様、この度は多大なるご迷惑とご不安、ご心配をお掛けして大変申し訳ございませんでした。今回の全出入り口開閉不可及び、通信障害等のシステムトラブルの復旧に対して最善を尽くしましたが、結果、改善の目処が今も立っておりません。よって、今から緊急措置と致しまして、こちらの自動ドアを取り壊すことと致します。地震の揺れによりお怪我をされた方もおられますので、出入り口の開放が完了しましたら、直ちに救助要請をします。それでは取り壊しを行います。大変危険ですので、皆様は後ろの方へとお下がりください」


 社員達は両手を大きく広げながら、客達を近寄らせないように後ろへ追いやる。客達はどんどん後退りして下がっていく。自動ドアの前には人が居なくなり、ぽっかり穴が開いたような感じになった。

 そして、浅川は拡声器を床に置き、周囲に人が居なくなったのを確認した。自動ドアの前で両手でハンマーをがっしりと握り、目の前の自動ドアを睨みつけている。

 浅川の左右にはシールドを持った社員2人が立った。万が一、自動ドアを割った際の破片が浅川に当たらないようにガードするためだろう。


 周囲の客達も沈黙する。浅川に視線が集まる。

 浅川は深呼吸した。心臓の鼓動が耳へと伝わってくる。まるで心臓そのものが耳の真横にあるかのように。

 浅川にとってこんな緊張は初めてで、鉄鎖で体をきつく縛られている気分であった。そんな緊張の鎖を一気にぶち破るかのように、ハンマーを両手で大きく振り下ろした。


 「えぇいっ!」


 ボォォォォォォ~~~~~~~ン………、


 鈍い音が周囲に響き渡った。


 周りの客達の中には、『キャッ!』、『ヒィッ!』、『おぉっ!』と、耳を塞いでいる人もいれば、目を少し背けるような素振りを見せる人もいた。


 国府も少し離れた歩行スペースから客と客の隙間からその光景を見ていたが、

「えっ‥‥‥」

 そう声を発した時には、『ゴンッ』という重厚感のある音と共に、浅川は床に尻もちをついていた。


 一体何が起こったというのか。国府には一瞬の出来事ですぐには理解できなかった。


 浅川の勢いよく振り下ろされたハンマーが、その自動ドアに弾き返されたのだ。

 その反動でハンマーは床に叩きつけられ、浅川は体勢を崩し床に尻もちをついたということだった。


「なんか様子が変だ」

 国府は宗宮と海藤に視線を送った。

 2人は小さく頷いて、3人はその浅川が倒れこんでいる自動ドアの近くまで走り出した。

「あ、おい!」

 その3人を見て棚橋は、喉に何か詰まらせたかのような声を出した。

「ちょっと見て来るんで棚橋さん待っててください!」

 海藤は走りながら後ろを振り向き、棚橋にそう言った。

「まったくあいつらー」


 国府達3人は、浅川がハンマーで叩き割ろうとした自動ドアがはっきりと見える位置まで近づいた。

「ねぇ‥‥、割れてないよね」

 宗宮は息を呑み、海藤の顔を見ながらそう言った。

「うん、ていうか傷ひとつ付いてない」

「え、どういうこと‥‥」

 国府も目を丸くしながらそう呟いた。


 その時、尻もちをついていた浅川が起き上がり、ハンマーを握りしめた。

「もう一度やりますので、皆様下がっていてください!」

 そう言って、浅川は再び自動ドアに向かって勢いよくハンマーを振り下ろした。


 ボォォォォォォ~~~~~~~ン………、


 結果は同じだった。


「何でだよ‥‥‥」

 浅川は唇を嚙んだ。


 と、その時、


「俺にやらせろ」

 ひとりの男が浅川に近づいて来た。

 その男は、先程浅川のアナウンスの時に怒号を飛ばしたがたいの良い首タトゥー男だった。

 その男は浅川からハンマーを奪い取り、

「お前らもどいてな」

 そう言って、浅川や社員達をも下がらせた。


 首タトゥー男は、そのハンマーを握りしめ縦に大きく振り下ろした。

「ふんっ!!」


 ドゴォォォォ!!ッボォォォォォォォォ~~~~~~~~ン………、


 ハンマーは勢いよく弾き飛ばされたが、首タトゥー男は自分の握力でその弾かれた威力を無にした。

 男は体勢すら崩していない。しかもその表情には動揺や焦りの影すら無い。いわゆるポーカーフェイスを保っている。

 国府はその光景を見てわかったが、首タトゥー男は浅川の振り下ろしたハンマーの力の何倍もの力で振り下ろしたのは間違いないと確信した。浅川のハンマーで叩き割ろうとした時の衝撃音と、首タトゥー男の衝撃音の響く大きさは桁違いだったからだ。

 首タトゥー男は、相当な力の持ち主だ。それでも自動ドアはヒビひとつ入らない。


「ナメてやがる」

 首タトゥー男は、吐き捨てるかのようにそう言った。「あんたが店長さんか?」浅川に近づき真顔で質問した。


「え、えぇはい‥‥」

 浅川は少し声が震えている。

「どういうことだ? これさぁ、ただの自動ドアじゃねぇだろ。強化ガラスの類なんだろうが、普通の強化ガラス素材なら多少のヒビくらいは入る筈だ。ましてやスーパーごときのガラスなんてよ。でも小傷ひとつ付きやしない。おかしいだろうが」

 首タトゥー男は、浅川を真顔で見下ろしながらそう言った。


 周囲の客達も、そのふたりの会話を聞こうと耳を傾けている。


「私も、わからないんです‥‥‥」

 浅川は俯きながら答えた。両手を握った状態で、少し痙攣しているかのように震えていた。


「わからないってあんた、ここの店長だろ。なにも聞いてねぇのか?」


「はい。着任した時にはもちろんこの建物の全体像やシステム、売り場のこと、どこに何があるかなど全て把握したつもりです。オープン前にも何度もこの建物に入り、配置やコンセプトなども色々提案したりもしましたし。ただ、ガラスの素材がどうのとか、そこまでは何も周知はされておりません」


「非常口も開かないのはどういうことだ? 今が使う時だろうが」


「非常口の扉は、非常時や緊急事態時に非常ボタンを押せば、全ての非常扉が開錠され開く仕組みです。そのボタンはバックヤードにありますが、私もオープン前にテストで押した時はきちんと作動しました。作動時は、そのボタンの上に電子パネルがあるのですが、緑色で『開錠OK』と表示されます。しかし、今は何度押しても赤色で『ERROR』と表示され、なぜか非常扉が開かないのです。私も何が何だか‥‥」


「なるほどな。これ以上あんたに訊いても無駄ってわけか。向う側の自動ドアもきっと同じだな」


「‥‥‥申し訳ございません」

 と浅川が呟くように言ったその時、



 ビーーー!! ビーーーー!! ビーーーー!! ビーーーー!! ビーーーー!!



 いきなり、耳障りなブザー音が自動ドアの上部から聞こえてきた。

 それもフードコート側の西側の自動ドアの方からと、上からも微かに同じブザー音が聞こえている。耳を塞いでる客もいる。宗宮も一緒になって耳を塞ぐ素振りを見せていた。


『なんだ!?』

『え、えぇ!?』

『うるさっ!』


 ザワザワザワザワザワザワザワザワザワ‥‥‥———————


【タダイマ ツヨイ ショウゲキヲ カンチ イタシマシタ、 ヨッテ キンキュウシステム サドウシマス。 タダイマ ツヨイ ショウゲキヲ カンチ イタシマシタ、 ヨッテ キンキュウシステム サドウシマス】


 まるで、AIロボットのような音声が店内に響き渡った。

 客達も『なんだ!?なんだ!?』と周囲をキョロキョロ見渡していた。国府達もその音声が流れているであろう自動ドアの上らへんを見つめていた。

 首タトゥー男も自動ドアの方に顔を向けた次の瞬間、


 シャンッ!!


 まるで風がなびいたような音がしたと同時に、自動ドアのガラスが一瞬で不透明になった。まるで真っ白いもやがかかったような感じだ。


 さっきまでは自動ドアのガラス越しから外が見られたし、駐車場や店内に入ろうとする人達を見ることができたのに、この状態だと全く外の状況もわからない。

 このガラス越しからわかるのは外が明るいか暗いかだけだろう。

 周りの客達もざわつき始めた。2階フロアの柵から見下ろしていた客達も動揺している。


『おい! どうなってる!』

『なんで白くなったんだ!?』

『なんなんだよ!?』

『こわいよーーー』


 ザワザワザワザワザワザワザワザワザワ‥‥‥


「おいおいなんだよこれ」

 首タトゥー男も、その靄がかった自動ドアを目の前にして目を丸くした。

 浅川にまた問い質そうとするも、浅川の様子を見て止めた。浅川も動揺を隠せていない。つまり、浅川もこの事態を理解できていないのだ。


「店長さんよ、変だよなこの状況。めちゃおかしなことが起こってるよな?」


「はい。私にもさっぱり意味がわかりません。この自動ドアのことも‥‥」

 浅川は首タトゥー男の目をはっきり見ながらそう言った。


「わかったよ」

 首タトゥー男はそう言って、床に置いてあった拡声器を手に取り喋り始めた。

 周囲のざわつきが静まり、その男に注目した。


「おい皆、聞いてくれ。俺は鮫島さめじま 龍仁りゅうじというもんで元自衛官だ。皆も見ていたと思うけど、俺の力ですらこの自動ドアをぶち壊すことができなかった。そして、この自動ドアの素材は非常に特殊な素材で作られているのは確かだ。ハンマーが弾き返された時の感触でわかった。恐らく、マグナム銃でも傷ひとつ付かねぇ。アメリカで似たような素材の物を見たことがある。『ゲルフォースガラス-RF』というガラスだ。例えば、アメリカ空軍戦闘機の窓に使われてたりもしている超強化ガラスだ。同じものとは断言できないが、もしこの自動ドアに使われているガラス素材がそれと同じものか、もしくは、それに類似するものだった場合、素人は無理にこいつを割ろうとしないことだ。反動で怪我をする。ただ疑問なのは、たかがスーパーの自動ドアのガラスに、なぜそんな細工がなされているかってことだ。多分、自動ドアのガラスだけじゃない。この建物の全てのガラスがそうかもしれない。あとはこの浅川店長にクレームをつけても意味ねぇーからな。店長も状況がわからないんだ。つまり、ここにいる全員が、この建物内に事実上閉じ込められたってことだ。店長やスタッフも含め俺らと同様被害者だ。まずは無意味な混乱や乱闘が起きない為にも、そこは理解しといた方が良い。通信が出来ない、出口が無いこと以外に、他にわかっていることがあれば教えてくれ」

 鮫島は自分が何者なのか、自分なりの見解を拡声器で話した後に、他の客に意見を求めた。


「窓がありません!」

 シーンと静まり返った店内で国府が発言した。

 宗宮、海藤は突然の国府の発言に驚嘆した。


「ん? 誰かな。話してくれたのは」

 鮫島は声がした方に顔を向ける。

 すると、国府は客達の間を潜り抜けて、鮫島の目の前に出てきた。自分よりも身長が約20㎝以上も違うので、鮫島を見上げるような角度で目を向けた。


「僕です。国府と言います。ケータイの料金相談会という名目で、あっちのガラス張りの所でガラポンイベントをやってた者です」


「ケータイ屋さんか。国府さんね、えーと、窓が無いって?」


「はい。まずこの建物には窓が無いんです。地震が起こった後に僕らでこの建物内に他に出口が無いか探していたんです。そしたら、僕の仲間がこの建物の造りで何か違和感があると。それが窓が無いことだって」

 国府はそう鮫島に説明し、浅川や周りの客達も周囲をまたキョロキョロ見渡し始めた。

 そして、海藤も国府の隣に出てきて、

「個人的に思ったことですが、今いるこの歩行スペースのデザインの模様も変です」 

 と発言した。

 国府は海藤の顔を二度見した。

 宗宮も後ろで(あちゃ~、それも言っちゃうんか~い)と左手で、おでこを押さえながら苦笑いした。

「床の模様? あの茶色い丸い円の模様のやつか」

「はい。ここからだとわかりにくいかもですが、2階のあの手摺り付きの柵のところから見たらさらに違和感を感じました。僕は、ですけど」

 海藤は目の前の大男を目の前にしても冷静な口調でそう言った。


「そうか。後で俺もそれ見てみるわ。窓のことも含めてな」


『よろしくお願いします』

 2人は、軽く小さく礼をしながらそう言った。


「ケータイ屋さんよ、ひとつ訊くが通信できる手段は本当に何も無いのか?」


「えぇ、残念ながらありません。通信ができない状況を改善できるか、僕らなりの知識を駆使して行ってみましたが、全てダメでした」

 国府は鮫島の問いに答えた。


「そうか。皆聞いてくれ。今この2人からも話があったように、色々この建物内で気付いたことがこうやって出てきた。窓が無いっていうのも確かにおかしい。他に何かあればみんなで共有し合いたい。要は今は助け合わないといけないということだ。今この置かれている状況は全く不自然で意味不明だ。俺からは以上だ」

 鮫島は今置かれている状況を総括し、一気に周りにいる客達を統率した。

 こんながたいの良いタトゥーの入った強面大男に、誰も反論などはしてこなかった。いや、できなかった。


 国府は鮫島を間近で見て迫力を感じた。間違っていることは一切言っていない。鮫島のそのアラビア文字のようなタトゥーは首にだけじゃなく、胸の辺りにまで入っているのがわかった。シャツのネック部分で切れて良く見えなかったが、模様のようなものも見える。恐らく、腕や足にも入っているのかもしれない。それもまた見た目の恐さを感じたが、話した感じまともに話ができる人間だとも思った。

 しかも、この男は只者ではないこともはっきりと理解出来た。

 元自衛官だってこともインパクトあるが、拡声器で『みんなが被害者だ』という考えをしっかりと植え付けた。

 でないと、今後店長やスタッフにクレームや野次、または暴力沙汰のような暴挙が起こるかもしれない。それも未然に防ぐようにしたのだ。

 状況把握能力が非常に長けているのも一目瞭然だった。さすが元自衛官。恐らく、ある程度の位までは登りつめた人なのだろうと、国府は勝手に想像していた。


「ほらよ。あとは店長さん、なんか言ってやんな」

 鮫島は浅川に拡声器を渡した。


「あ、はい、えー、私も今とても混乱しておりますが、この今の状況は私たちスタッフもこちらの鮫島さんが仰っていた通り、全く理解不能です。ただ、このまま何もしないでいるつもりもありません。できる限りのことはやりたい。この置かれた状況を皆様にご理解を頂いたと判断しまして、引き続き改善策を模索したいと思いますのでお時間を頂戴したい。他に何か改善できる策などがあれば直接私共に遠慮なく言って欲しい。また、最悪このまま今日中に外に出られない可能性もあります。その時は状況を見て、飲み物や食べ物を提供していきたいとも考えておりますので、今一度待機のほどよろしくお願い致します。ここまでで何か今聞いておきたいことはございますか? 沢山あると思いますが」


 客達はざわつき出し、ひとりひとり不安や不満を言い始めた。


『あの、本社とも一切連絡取れないんですか?』(30代男性。細身)

「はい、一切の通信手段ができない状況ですので‥‥‥」(浅川)


『明日も仕事で大事な取引先と商談があるんだ。このまま出られないのは困る!』(40代男性。中肉中背)

「はい、そうですよね。我々スタッフも同じ気持ちです。不安をかけてしまっているのは重々承知です。大変申し訳ございません。最善を尽くします‥‥‥」(浅川)


『うちの旦那はインスリンが必要なの。薬は今日の分しかこの鞄に入ってないの。このまま明日とかになったら大変よ!』(50代女性。茶髪パーマ、奥様)

「はい、ご心配おかけ致しております。この中に専門のお医者様がいらっしゃいましたら、何か医学的なアドバイスをお願いしたいです」(浅川)


『ホームセンターになんかドリルみたいなのも無いのかい? 地面を掘るなり、この自動ドアを突き破ったりとかできるかもしれないよ』(50代男性。白髪)

「そうですね。お客様に危険が無いように、今後の動きを検討します。まずはお客様の安全が第一に考えていく所存です」(浅川)

 

などなど――――――


「えー、色々ご不安ご心配なこと多々あると理解しております。まず一旦我々スタッフで緊急会議を開き、打開策を模索して参ります。今一度お待ちくださいませ。随時アナウンスも流すと思いますので、その際は聞いて頂ければ幸いです。えー、それでは店内全スタッフに告ぐ! バックヤード内全体会議室に集まってもらいたい! 以上!」

 浅川はそう言って、その他のスタッフを連れてバックヤードに戻っていった。


 鮫島は無言でどこかに立ち去っていった。周りの客達も不安げな面持ちで、安心できる場所に散らばっていった。

 国府達3人は、一旦棚橋のいるイベントブーススペースまで戻った。


 そこから時間が経過し、18時になろうとしていた。

 国府達は、ガラス張りの壁から外が暗くなっているのがわかった。



 その時、ピーンポーンパーンポーン……。

 再び、アナウンスが流れた。ざわついていた周囲が一気に静まり返った。




第15話へ続く・・・。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る