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ようやくここまで来たか。


 時間にするとほんの数分程度だが、劣勢の状況での数分はとても長く感じた。ようやく狙い通り、彼女が『精霊降ろし(Geist)』を使う。


「お兄様!」


 妹のゾネが間に合ったようだ。拠点まで少し距離はあったが、フェンリルの足であれば間に合うと読んでいたが、間に合ってよかった。


 彼女は右手に抱えた槍を、こちらへ放り投げる。ドヴェルグに作って貰った、世界樹から作った槍。それを小脇に抱える。


 銘はまだない。世界樹で作られた槍といえばグングニルだろうか。まあ、そのあたりはまたドヴェルグに聞こう。


 俺は、世界樹に力を籠める。


「……来い、来いよ! お前の目的の相手は、ここにいるぞ……スルト!」


 俺の呼びかけに、ドクンと心臓が高鳴る。世界樹を通じて、精霊との繋がりを感じられる。目の前には水の精霊を降ろした彼女がいる。条件は整った。


「こい! 『精霊降ろし(Geist)』!」


 俺は、炎の精霊を顕著させた。


「くっ!」


 意識が、持っていかれそうになる。


 操作レベルが高くない俺には、やはり『精霊降ろし(Geist)』は荷が重かったかもしれない。だけどこれは俺は魔物に生まれ変わってから、ずっと決めていたこと。気持ちを強く持ち、意識を保つ。


「「条件は整えたぜ、スルト。あとはお前次第だ」」


 身を焦がすような炎が、体を包む。


「「ああ……久しいな、セイレーン」」


「「スルト……! よくもノコノコと顔を出せたわね!」」


 精霊同士の戦いが始まる。

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