286

「……くさいな」


 拠点内を散策中に、王がおもむろに発言する。


「はっ」


 確かに、拠点内は少し匂う。それも魔物が、主にゴブリンがその辺の道端で排泄をするためだ。


「トイレは、決められた場所でやるように指示したはずだが?」


「はっ、そのようにゴブリンたちにも伝えております」


「では、あれはなんだ?」


 王が指さすほうに目を向けると、一匹のゴブリンがボーっとした表情で空を見上げていた。そこから、おもむろに排泄をその場で行い、やり切った表情でその場から去っていった。


 その様子を、王と二人で眺める。


「……申し訳ございません。どうして、知能が低い一定のゴブリンには指導できていないようで……」


「……なんとかしろ」


「はっ。必ずや」


 王が、珍しく怒っている。普段は、間違えたり失敗したりしたくらいでは怒らない寛容な王が憤っている。これは由々しき事態だと、ゴブリンのまとめ役のゴブリンたちを呼び集めることにした。


 集まったのは、王から直々に名前を授かった、アイン、ツヴァイ、ドライ。加えてこの三人から生まれた第三世代の中でも、中堅を担う伝令ゴブリンのポチ。ゴブリン工作兵のスパイを呼び集める。ちなみに、この二匹も王から特別に名前を貰った。


「王は、怒っておられる」


 まずは、先ほどあったことを全員に伝える。


「ソレハ、マズイ」


 とは、ドライの発言。


「知能ガ低いゴブリンは、殺シマス。デス」


 ツヴァイは少し過激な発言に見えるが、実際に頭数を揃えるという理由以外で、知能の低いゴブリンを生かしておく理由は、確かにない。


「それは短絡的ですね。王はきっと、もっと根本的な解決を望まれている」


 アインは、王の発言の真意を探ろうとしている。確かに王が、ただ臭いだけで憤るだろうか。いや憤らないだろう。あの発言には、きっと何か裏にあるに違いない。


「もし何か他の意図があったとしても、当面は知能の低いゴブリンは、隔離しておけば良いかと」


 ポチは一旦、問題を棚上げするようだ。確かに、一朝一夕で解決できる問題ではないので、時間を稼ぐ意味でも隔離は手である。


「知能が低いゴブリンを統率する、新しい中堅も必要ですね」


 確かに、数が増えると下のものを見る余裕がなくなってくる。そのあたりも含めて、王と相談が必要かもしれない。


「よし、では当面は知能が低いゴブリンは隔離することにしましょう。その上で、ゴブリンを指導する中堅を育てること、ゆくゆくは決められた場所で排泄ができるように指導していきましょう」


 こうして、話し合いをすることで方針が決まった。ゴブリン担当のアルノーは、結論が出たことに満足した。


議題は、あくまで『ゴブリンの排泄の仕方』について。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る