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(あの女……!)


 狩りをしていると、どこからか矢が飛んでくる。その矢は正確に魔物の急所を貫き、魔物の動きを鈍らせる。時には燃やし、時には捨てお兄様にバレないように処理をする。


 レベルが違うせいか、相手の気配が読み取れない。


「チッ」


 いけない、お兄様の前なのに苛立ちの声をあげてしまった。あの女は危険な香りがする。お兄様の近づかせるわけにはいかない。いつも以上に警戒しながら狩りを行った。


 お兄様が休憩中、少しだけ席を外す。


「ポチ!」


 バウバウと寄ってくるポチ。


「邪魔なエルフの女を探して。倒せなくてもいいから、妨害をお願い」


 バウ! と元気な声をあげ去っていく。これでなんとかなればいいが、そこまで楽観もできない。


 狩りを終え、街へ戻る。姿が見えないあの女をおびき出して叩きのめす必要がありそうだ。


(折角なら見せつけてやる)


 こちらを覗いているというなら、それを利用することにした。やってきたのは大きな石がある告白の名所。なんでも昔に、冒険者がここで告白をして成功したらしい。それから噂が広がり名所として有名になった。


「お兄様! 私、お兄様の事が好きです!」


「ああ、ありがとう。俺も好きだよ」


 ああ、その殺意の視線が気持ちいい。ニヤニヤとしながら勝ち誇る。それから見せつけるかのように、お兄様とイチャイチャしながら街を巡る。楽しいひと時は終わり、夜になる。離れたくは無かったが、兄と別れ人気のない場所へ移動する。暗闇から案の定、エルフの女が現れる。


「殺す……殺す殺す殺す殺す」


「余裕がない女って嫌ね、醜くって。隠れてコソコソと、老害ババアはさっさと引退してください?」


「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」


「影から支えて、献身的な愛でも伝えてるんですか? ざーんねん。愛ってちゃんと伝えないと伝わらないんですよ?」


「殺す!!」


「来なさい、ポチ!」


 二対一が卑怯だとは言わせない。煽ってはいるが相手は格上、油断など出来ない。相手から正確な弓矢が飛んでくる。魔法を使いながら軌道を逸らし避ける。


「あんたの愛情って、ただの独りよがりなんだよ! 嫌われてるの分かってるなら、さっさと身を引きなさい!」


「殺すぅぅぅ!!!」


 煽った結果、相手が私に止めを刺そうと、本気を出すその瞬間を狙う。矢は風に乗り軌道を変えながら、こちらへ向かってくる。一般的な弓使いと比べて、一流の弓使いというのはこんなにも正確なのかと驚愕する。


「ポチ!」


 ポチが敢えてその矢を食らいにいく。ポチの体に突き刺さった矢は、とても痛そうだ。ごめんね、後で治療するから。その一瞬の隙に、相手の懐へもぐりこむ。ごめんなさいね、私はどちらかといえば近接タイプなんだ。


『お兄さまに何してくれてんのよー!』


 この拳は、過去にお兄様の目に矢を当てた分!


『お兄さまに付きまとってるんじゃないわよー!』


 この拳は今回、お兄様に迷惑をかけている分!


『お兄さまは私のものー!!!』


 そしてこの拳は、私の思い!


 三連撃の拳は彼女の顎を正確に打ち抜き、彼女の意識を奪った。

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