30

(なかなか骨のありそうな御仁でしたが、ただの勘違いには用はありません)


 最初攻撃を避けたとき、紙一重で首への突きを避けていた。人間は攻撃を受けた際、絶対に当たらないと分かっていてもちょっと大げさに避けてしまうものだ。それを紙一重で避ける、なんなら表情も変えず。


 そんなことができるのは圧倒的な力量差があるときか、よほどの達人だけだ。


 それを確かめるために、ワタクシ自ら確認をしたがやっぱり男は男だった。瞬間的な速さや力は認めるが、所詮低レベル同士の戦いだ。レベルが高いだけなら他にいくらでもいる。

 男に興味がなくなり、取り巻き二人を連れて立ち去ろうとする。


「――まて、こら」


 振り向くと、こちらに向かって剣を振り上げ襲い掛かろうとしていた。あの傷で立ち上がれる根性は凄いが、しかしそれまで。


「遅い――」


 その男性に向かい細剣を突き出す。彼が突き出していた左手に向かって細剣を刺す。


「捕まえた――!」


 その男は刺された左手をそのまま奥まで刺しこみ、ワタクシの手を掴む。こんな戦い方ありえない。まさかただ頭がおかしいやつだったか。


「クッ」


「おらぁ!」


 その男の剣が、振り落とされる。左手で捕まれている状態のワタクシには避けるすべがない。だけど残念、あまりにレベル差がありすぎてその攻撃は私の身体強化に弾かれる。

 一瞬だけヒヤッとしたがそれまで、結局女と男では魔力の地力が違いますわね。


その瞬間、体が宙に浮いた。


 男はこちらの手を引き、私の腕を支点に背負って投げ飛ばそうとする。その技には力は関係なく、圧倒的な力量差があるはずのワタクシを軽々投げ飛ばせる力を持っていた。


「このっ!」


 空中で一捻りをして、辛うじて背中から落ちるのを防ぐ。この男はまずい、放っておくともう一度投げ飛ばされる。貴族の女としてあまり上品ではないが、空いている左手で男の顎に向かって掌底を放つ。


男はそのまま倒れた。


 今までに見たことがない戦い方だった。確かに女性は体に傷がつくことを嫌う人間が多い。別に男が傷つくのが好きというわけではない。

 でもこの男は私に一矢報いるために、左手を犠牲にして攻撃を仕掛けてきた。頭がいっているとしか思えない行動。そして最後の投げ技。ワタクシがここまで苦戦する男は初めてだ。考え方、行動、技術、すべてが面白い。


「門番! この男を治療して差し上げなさい」


「は? はい!」


 門番に男を差し出す。その男を見ながらワタクシは思う。


「もしかしたら、この男はワタクシの願いを叶えてくれるやもしれませんね」


 その男に期待をする。

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