第2話 別れは、いつも突然に

「俺が投降したのは、別の殺し屋からの襲撃をけるためさ。しつこいやつが居てね。ある意味、あんたらみたいな戦争屋よりも厄介やっかいな存在だよ。何かと俺を目のかたきにして殺したがるんだ」


「言ってくれるじゃないか、ホーネッツ。民間軍事会社よりも、一人の殺し屋の方が恐ろしいってか。その殺し屋も、あんたと同じ、異星人エイリアンかれた存在なんだな?」

「ああ、その通りだ。と言っても、俺も実態じったいは知らないんだよ。フリーの殺し屋は俺も含めて秘密主義でな、自分の能力に付いては誰にも説明しないのさ。俺が教えてやれるのは、俺自身じしんに付いてだけだ」


 ホーネッツのかたくちは、聴衆ちょうしゅうとりこにしつつあった。兵士達が話の続きを待つ。


「もう見当けんとうが付いてるだろうが、俺の能力ははちあやつるんだよ。何でも操れるわけじゃなくて、俺が強化した特別製の蜂に限られる。それで殺しをおこなうのさ。あんたらは警察じゃないから、俺が手口てぐちを話しても別に情報公開はしないだろ?」

「ああ、もちろんさ。俺達は退屈しのぎに話を聞きたいだけなんだよ。だから続きを、ほら」

「がっかりさせるようで悪いが、俺の能力は、それで全てさ。蜂を飛ばして、離れた所に居るターゲットを殺すだけ。検出不能の毒を持った蜂がせば、それで心不全による死亡者の出来上できあがりだよ」


 ホーネッツの言葉に、リーダー格は納得しない。実際、まだホーネッツは全てを説明はしていないのだ。彼は時間かせぎをしているに過ぎない。


「なるほど、確かにちょっきんの事件は、そういう手口てぐちだろうよ。だが、あんたの過去の犯行に付いては、それじゃ説明できない。あんたは過去に、標的ターゲット爆殺ばくさつしている。使われたのは小型爆弾だろう。その爆弾を蜂が運んだってのか? 無理だろう。第一、目立めだちすぎる」

「頭が固いなぁ。俺が操る蜂は、生物せいぶつだけでは無いんだよ。非生物ひせいぶつの蜂も居るんだ」

「非生物……つまり、機械か。超小型ドローンかよ」

「ああ、そうさ。形状は様々さまざまでな。生物の蜂と同じ姿のものもあれば、プロペラで飛ぶタイプも居る。プロペラの蜂は背面飛行もできるのさ、ローターの逆回転でな」

「その非生物の、人工蜂が小型爆弾にもなるのか。異星人エイリアンによる科学テクノ技術ロジーか……」

「ああ。蜂には知能もあって、そして俺と交信できる。俺の脳と蜂がつながってるような状態なんだ。俺からも蜂の位置が分かるし、蜂からも俺の位置が分かる。俺は遠くから蜂に指令を出す事も、情報を集める事も操る事もできるのさ。……さて、もう話はいいだろう。そろそろ、お別れの時間だ。俺は脱出させてもらう」


 不敵にホーネッツが言う。兵士達はサブマシンガンを彼に向けた。拘束衣で両手を封じられて座っている、無力そのものにしか見えない殺し屋がニヤリと笑う。


「ハッタリも大概たいがいにしろよ、ホーネッツ。蜂が助けに来るとでも言うのか」


 リーダー格も銃口じゅうこうを向けながら言う。「違うね、もう来てるんだよ」とホーネッツは言った。


冥途めいど土産みやげに教えてやろう。アメリカ全土ぜんどには、俺が用意した『蜂の巣』があるんだ。生物、非生物の蜂が自動的に量産される仕組しくみでな。つまりアメリカ国内に居る限り、何処だろうが俺は蜂を利用できるんだよ。その蜂に今、この列車は包囲されている。俺が呼んだ蜂にな」


 ホーネッツは監禁された状態からでも、蜂を遠隔操作できるようだ。その能力の詳細は、誰にも説明はされないのだろう。


「ば、馬鹿野郎が! 蜂で軍隊に勝てるかよ!」


 兵士達が動揺しながら言う。対してホーネッツが答えた。


「逆だね、逆。何の対策もしていない軍隊が、の蜂を駆除できるかよ」


 ふと、兵士達は蜂の羽音を聞いた。ホーネッツの拘束衣には、兵士からは死角になっている背中側に、いつの間にか穴がいている。殺し屋の体内には何匹かの機械蜂が収納されていて、その蜂が小型プロペラで服を切り裂いて外へ出たのだ。蜂と同様、ホーネッツの体も機械的な改造がほどこされているのだろう。


 列車の外側から爆発音がした。ホーネッツを追ってきた機械蜂の集団が大量に突撃して、自爆攻撃で線路と車輪を破壊したのだ。列車は大きく揺れて、立ち上がっていた車内の兵士達が転倒する。ホーネッツに一番、近い位置に居たリーダー格の男は、頭部を爆破されて首無し状態で即死した。


 リーダー格が持っていた、サブマシンガンが宙に浮いて、そこで固定される。蜂が持ち上げているのだと兵士達が気づく前に、その蜂によって引き金が引かれる。嘘のような容易さで兵士達が銃殺され、列車は脱線して派手に横転おうてんした。

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